見慣れた盆栽に、胸元の朱が愛らしい小鳥たちがちょこん。廊下を歩く女性たちは約200年前の流行(はや)りの服に身を包み、雪見障子にはうちわを片手にそぞろ歩く金魚たち──。
 ここで紹介する古民家を彩る作品の数々は、葛飾北斎、歌川国芳ら江戸時代の絵師たちの浮世絵を切り絵にしたものだ。
 図案を制作したのは、若手切り絵作家のgardenさん。テレビアニメ「のだめカンタービレ」のオープニング映像やユニクロのTシャツデザインに作品が採用されたことで注目を集め、その後も書籍や雑誌の挿絵を数多く手がけてきた。
 今月発売される2冊目の著書では浮世絵をテーマに、北斎や国芳の世界をカッター一本で再現している。
「浮世絵の多くは木版画なので、描きたい線を残して余白の部分を取り除いたり、輪郭線からはみ出さないように色をつけたりする作業が切り絵に似ている。以前から親近感を持っていました」
 gardenさんが切り絵と出合ったのは、高校3年生のとき。美術の時間、黒い画用紙を前にふと、「ここから絵が浮き出てきたら面白いだろうな」と思いつき、手元の雑誌に載っていたおもちゃのトラックを切った。
「線はガタガタだし、見栄えはよくなかったのですが、一枚の紙から絵が浮かび上がってくる感覚が楽しくて」
 今も、この楽しさが尽きない。
「切り絵」と言えば寄席の紙切り芸を思い浮かべる人も多いだろうが、日本では、神前の儀式に用いる切り紙や着物の染色用の型紙として伝承されてきた。近年、ヨーロッパを中心に日本の切り絵作家・蒼山日菜(あおやまひな)さんが高く評価されたことをきっかけに、主婦や若い女性の間で静かなブームになっている。
 実際、図案集さえあれば、切り絵作りはいたってシンプル。切りたい図案を黒い画用紙に貼り、線に沿ってカッターで切るだけだ。前ページ右上の小鳥1羽なら、およそ15分程度で完成させられる。できあがった作品は、ぶら下げてよし、貼り付けてよし、額装してもまたよし。
 何より、切っている間は無心になれる。雑音の多い日常。ひととき、カッターを握ってみては。

週刊朝日 2013年6月28日号