米下院情報特別委員会は10月8日、世界規模を誇る中国の通信機器会社「華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)」など2社にスパイ疑惑を指摘する報告書を発表した。だが、実はこの間、日本の公安当局も華為に注目し、情報収集を行い、資料なども作成していたことが、取材で明らかになった。

 週刊朝日は、公安当局がスパイ行為やサイバー攻撃の危険性を視野に入れ、中国通信・電子機器メーカーなどについての情報をまとめた数十ページに及ぶ資料を入手した。そのなかで、華為については数ページにわたって詳述されていた。

 資料はまず、華為の設立者である任正非(レンジェンフェイ)氏が「人民解放軍総参謀部の情報工学院の元院長」であったことを指摘したうえで、同社が「中国の国家安全保障に戦略的な価値を持っている」企業だという欧米諸国の分析を紹介。さらに、人民解放軍の通信部隊が同社で技術訓練を受けたことなどについても言及している。

「要するに、サイバー部隊やスパイ要員がサイバー攻撃やスパイ工作の訓練を華為で受けたということで、華為製品が組み込まれた通信・電子機器であれば、攻撃や傍受が可能ということだ。訓練は2005年の時点で行われているので、現在ではすでに数々の工作が行われているとみられる」

 公安関係者は資料をもとにそう解説した。

 日本でも米英やオーストラリアと同様、情報当局は機能していた。にもかかわらず、日本の現状は無策に近い。携帯電話各社に聞いてみると、政府からはなんら助言は受けていない、と言うのだった。いったい、どういうことなのか。

 サイバー攻撃などに対処する日本政府の中枢ともいうべき、内閣官房情報統括チームに取材すると、「担当省庁において情報収集を行っているところであり、現時点においては通信関連の企業に対する助言や情報提供は行っていない」という。すでに資料はあるのだが…。こうした政府の姿勢を、前出の公安関係者は厳しく批判する。

「日本はあまりに無防備すぎる。これでは国益も国民も守れない。われわれはいま、『スプリント・ネクステル』の買収を発表したソフトバンクと華為の関係を注視している。現在も取引が多く、資金のやり取りもあるようだが、今後それがどうなっていくものか。国家、国民の安全を最優先する米国が、この買収を認めるかどうかもあやしい」

週刊朝日 2012年11月2日号