福島原発事故を機に、ドイツ南西部のバーデン・ヴュルテンベルク州で、環境政党の「緑の党」が与党に躍進した。「脱原発」の道を進むドイツの再生可能エネルギー開発の現状をジャーナリストの邨野継雄氏がレポートする。

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 ドイツではすでに、バイオマスは熱利用に関する再生可能エネルギーのうち9割強を占めている。電力利用と合わせると、再生可能エネルギー全体の3分の2に相当する。

 州立ホーエンハイム大学に併設されている農業技術・バイオエナジー研究所の農学博士のハンス・オクスナーは言う。

「バイオマスは、燃料として使用する一方で、発生するガスから電気もつくれます。もちろん、ドイツ全体のエネルギーをバイオマスで賄うのは無理ですが、消費電力を節約して半分にするなら、全体の30%を占めるのは可能だと思います。節約を前提とすれば、ドイツの電力はバイオマスと水力、風力、太陽光の四つの発電量でやっていけるのです」

 現在、ドイツには7千基のバイオマス発電所があり、2.5ギガワットを発電している。この発電量は原発2基分に相当するという。オクスナーはこの数字を踏まえて、「バイオマス発電所の数を、当面、現在の2倍にしたい」と言う。

 昨年6月のメルケル首相の脱原発宣言は、この研究所にも大きな刺激を与えた。

「なにしろ2022年までに国内17基の原発をすべてストップするというのですからね。それまでに代替エネルギーをどこまで確保することができるのか…。私たちにとっては大変な仕事になりました」

 たかだかひと夏の電力需給をめぐって、原発の再稼働に右往左往し、いっこうに将来的なエネルギー政策の展望を明らかにできない日本の現状と、国家意思が現場の研究者に決意を促すドイツと、どちらが健全かは言うまでもない。

週刊朝日 2012年10月19日号