福島第一原発内では、2011年の原発事故によって溶け落ちた核燃料を冷やした汚染水が、今も増え続けています。これらを処分するために、どんなことが行われているのでしょうか? 小中学生向けニュース誌「ジュニアエラ」(朝日新聞出版)11月号から、ジャーナリストの一色清さんが詳しく解説します。

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処理水の放出は、今後30年は続く見通し

 2023年8月24日、東京電力(東電)は福島第一原子力発電所の処理水の海への放出を始めた。地元の漁業者らの反対を押し切っての放出だった。


 11年3月に起きた東日本大震災の津波によって福島第一原発は電源を失い、冷やせなくなった核燃料は原子炉から溶け落ちてしまった。溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)は熱を持ち続けているため、水を注いで冷やし続けている。冷やした水は放射性物質で汚染されている。その水に雨水や地下水が混ざり、汚染水は増え続けている。


 汚染水は「多核種除去設備」(ALPS)により、セシウムやストロンチウムなど大半の放射性物質を取り除き、処理ずみの水(処理水)にした後、原発敷地内にタンクをつくって保管されてきた。しかし、1千基を超えるタンクで敷地は余裕がなくなり、処分する必要に迫られた。


 処分する方法については、政府の専門家会議で以前から議論してきた。①海に流す ②水蒸気にして大気に放出する ③地層に注入する ④水素にして大気に放出する ⑤セメントなどに混ぜて地下に埋めるの五つの方法が議論されてきたが、前例のある①と②に絞られた。2案のうち、海に流す海洋放出のほうが環境への影響を監視しやすいことなどから、21年に政府は海洋放出にすると決めた。


 ただ、ALPSはすべての放射性物質を完全に取り除けるわけではなく、微量の放射性ヨウ素や放射性ストロンチウムなどは残っている。また、トリチウムは取り除けない。こうしたトリチウムと微量の放射性物質を含んだ水をさらに海水でうすめたものが海に放出されている。
 

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一色清
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