いまの時代、定年は必ずしも「退職」を意味しない。50代は「身の丈」に応じた働き方を見つけるための助走期間と心得よ。サラリーマンのバイブル『島耕作』作者の漫画家・弘兼憲史氏が、50代の過ごし方を次のように話す。

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 ひと言でいえば、いま50歳の人たちにとって、定年である60歳は「退職」ではありません。サッカーなら前半終了のホイッスルが鳴っただけ。後半もたっぷりあるということです。だから働く覚悟が必要ですね。現役続行です。なぜなら、80歳まで生きるんですから。その前提で人生設計をしなきゃならない。

 いまの50代は、定年後の約20年をどう働いていくのか、考えておかないと。

 いってみれば、50代は第二の人生に向かって踏み切るための助走期間ですよ。

 その助走期間で大切なことがあります。第一に、仕事で得られるものの見定めです。つまり、「向いている仕事」「好きな仕事」を選ぶのか、それとも「収入」を選ぶのか、です。第二は、学歴、出身会社などこれまでのキャリアや肩書を捨てる勇気を持つことです。

 過去の会社の名刺や肩書を自分の実力だなどと過信してはいけません。ホームスタジアムを出ればそんなものは通用しない。サポーターもいない。私が大学を卒業したばかりのころの話ですが、「あの人、大学まで出たのに工務店にしか就職できなかったんだってね」と私の母が気の毒がる。実はその友人の就職先は竹中工務店でした。地方に行けば、そんなものです。電通だって「えっ、電気会社?」という人もいる。第二の人生は「アウェーを戦う覚悟」も必要でしょうね。

※週刊朝日 2012年8月10日号