被災地で決断する女たちのホンネ (2/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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被災地で決断する女たちのホンネ

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「住み慣れた福島にいたいという気持ちはありましたが、どうしても子どもが心配だったので、今は広島の親戚の家で世話になっています。原発のおかげで私も子どもたちの人生も変わってしまいました。福島の友達に聞くと、地元では放射能を巡って夫婦間のトラブルがあちこちで起きていて、うちのように離婚沙汰になるお宅もあるそうです。まさに"原発離婚"ですよ」

 福島第一原発から20キロ圏内に入る福島県双葉郡の沿岸部に住んでいた手塚雅子さん(仮名・30代)も、原発の事故に翻弄された。

 手塚さんが言う。

「原発事故が起きてから、主人と衝突ばかり。もう元に戻ることはありません」

 手塚さんの夫は原発の作業員をしていたが、自宅が警戒区域に指定されたため、原発から約58キロ離れた同県郡山市に住む遠縁の親戚宅に身を寄せた。同じ郡内の別の場所で暮らしていた夫の両親も一緒だった。

「しばらくして、主人に『もう一度、福島第一原発で働かないか』という話がきて、原発に行ったきりになりました。間に入って取りなしてくれる人がいなくなったために、残された私は主人の両親といさかいが絶えなくなってしまったんです」

 原因の多くは放射能の問題だった。一人娘はまだ小学生。しかも、原発事故直後から風邪でもないのに頭痛と鼻水を訴えており、手塚さんは不安を感じていた。

「こちらは子どもが心配で仕方がないのに、義理の両親は放射能に対する危機感がまったくない。外で遊ばないようにと子どもに注意していると、『子どもは外で遊びたがっているじゃないか。原発の近くに住んでいる時だって外で遊んでいて、問題なかった。郡山は遠いから大丈夫だ』なんて言う。次第にストレスがたまり、主人に電話であたりちらすと、『こっちも仕事で大変なんだよ!』と逆ギレされてしまって......」

■賠償金の百万が夫婦の溝広げる■

 そんな折、東京電力が避難した住民に対し、賠償金の仮払いとして1世帯100万円を支払うという話が出てきた。手塚さんはそのお金でアパートを借りて、夫の両親と離れて暮らそうと考えたが、夫の両親は「こちらの100万円と合わせて、一緒に広いアパートを借りよう」と言う。それだけは避けたかったので夫に相談してみたが、

「オレも原発にいるから、おまえが両親と一緒にいてくれたほうが安心だ」
 と言うばかりでラチがあかない。それがきっかけで夫との口論も増え、最後は「もう離婚するしかない」と思い詰めるようになったという。

「結局、私が娘を連れて家を出ました。今はパートをしながら福島県内のアパートで暮らしています。私はもう主人の顔も見たくないのですが、なかなか離婚に応じてくれません」

 1995年に起きた阪神大震災では、非常事態に直面した夫婦が価値観の違いに気付いて破局に至る例が相次ぎ、「震災離婚」という造語も登場した。

 今回の東日本大震災は、地震や津波といった自然災害に加えて原発の事故が起きたため、被災者たちは目に見えない放射能汚染の恐怖にさらされ続けることになった。そうした中で、前出の2組の夫婦のように亀裂が生じたり、離婚に至ったりするケースが増えているという。

 離婚問題に詳しい露木幸彦行政書士がこう話す。

「震災や放射能をきっかけに離婚を考えているという相談は確実に増えています。相談件数を震災前の2月と比較すると、3月は8割減、4月は7割減だったのが、5月に入ると急に増えて2割増しになった。相談者に話を聞くと、震災の直後に価値観の違いが露呈したり、『何もしてくれない』『一人で逃げてしまった』と相手に幻滅するような問題が発生したりしていたようですが、『被災地に住んでいるのに離婚の話なんて』と我慢していたという。それが、少し事態が落ち着いてきたゴールデンウイーク明けから、一気に噴き出たという印象を受けます」

 露木さんによると、震災の影響は、被災地から遠く離れた場所で暮らす夫婦にも及んでいるという。
「神奈川県茅ケ崎市の沿岸部に家を買ったという男性からは、『妻が津波の恐怖でヒステリックになって関係が悪化してしまった』という相談がありました。地震による景気悪化で収入が減ったために、夫婦仲が悪くなったという相談も多く寄せられています」

 一方で、「離婚を考えていたが、震災で家族の大切さが身にしみたので踏みとどまった」という相談者もいたという。


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