被災地で、そんな女性に会うことができた。

 福島市の瀬川理恵子さん(仮名・50代)は、数年前から認知症になった義母を巡って夫との争いが絶えなかった。瀬川さんいわく、夫は「昔の男性」。家のことは何もせず、義母の面倒もほとんど瀬川さんが見ていた。

 それなのに、夫は母の病気を認めたくないのか、「ご飯を食べていない」と訴える母を信じて瀬川さんを怒鳴る。これまで女性問題にも目をつぶってきたのに、夫は頑固になるばかり。震災の直前に二人で話し合い、家庭内別居を始めたという。

■被災で気付いたダメ夫の大切さ■

 震災では、自宅は無事だったものの、部屋の中はグチャグチャになった。だが、夫は当然のように何もしない。水が出るまでは、瀬川さんが細い腕でポリ容器を担ぎ、男性ばかりが並ぶ給水場で水をくんだ。

 だが不思議なことに、そんな毎日を過ごすうちに、瀬川さんは「離婚したい」という気持ちが収まってしまったという。

「亡くなった方たちのことを考えると、私の不満なんて不満のうちに入らないと思うようになったのです。今日あるものが明日もあるかわからない。どんな人でも家族は家族(笑い)。大事にしたいです」

 避難所で知り合い、新たに家庭を築いたという新婚ホヤホヤのカップルにも話を聞くことができた。

 宮城県多賀城市で被災した絵美さん(仮名・28)は、7月7日に結婚し、おなかの中にはすでに赤ちゃんもいるという。

 お相手の男性は、大阪府貝塚市からやってきた田中可亮さん(35)。震災の約1週間後に多賀城市を訪れ、避難所でボランティアとして活動するなかで、津波の被害に遭って避難していた絵美さんに出会った。

 やがて絵美さんもボランティアとして活動するようになり、避難所となった文化センターで被災者のケアに励んだ。

 5月には被災者の人たちに喜んでもらおうと、田中さんたちとともに避難所で「子供祭り」を開いた。その晩の打ち上げの席で、二人は互いに惹かれ合い、後日、交際をスタートさせたという。

 ほどなくして妊娠が判明。思い切って、

「産みたい」

 と田中さんに伝えると、

「じゃあ、結婚しよう」

 と言ってくれたという。

 夫の田中さんはこう話す。

「今、妻は母親と弟と仮設住宅で暮らしています。私は結婚を決める前から、ボランティアの取り組みをNPO法人化して長期的に支援活動を続けていこうと考えていました。なるべく早くここで生計を立て、家族を養っていけるように頑張りたいと思っています」

 非常事態の中で結婚に至った二人。絆は人一倍強そうだ。

 今回の取材で出会った女性たちはみな、潔い「決断力」を持っていた。それは、この非常事態にこそ発揮された力だったのかもしれない。この国のトップにも見習ってほしいものだ。 (本誌・小宮山明希)


週刊朝日