◆ヒーロー求める今の時代の気分◆

役所:現場に入ったらまず血糊を頭からかけられて、泥をかけられて、泥が足りないときはそのへんの泥を集めてきて塗りつけられて。それから撮影が始まりますから。

市村:日に日に血糊が濃くなっていって、着てるものも濡れてきたりして。汚くなってくるんですよね。殿役の(稲垣)吾郎ちゃんだけなんですよ、汚れてないの。(笑い)

役所:チャンバラシーンは20日間くらいぶっ続けで撮りましたからね。終わって風呂入ると、もうバスタブが真っ赤ですよ。でも役者って血糊とかでうまく汚してくれると、けっこう興奮してくるもんですよね。

市村:でも13人の刺客、みんな格好よかったなあ。特に松方弘樹さんの殺陣の素晴らしさには圧倒された。剣が手の一部になってるようなさばきでね、さすが東映で何十年も鍛えてきた方なんだなあと。殿と一緒に口を開けて見学してました。

役所:特に13人の背景を説明するわけじゃなく、戦う姿を見せるだけで、ふと「この人たちにも家族がいるだろうに」とまで考えさせますよね。三池監督らしい表現方法だと思います。

--なぜいま時代劇が求められるのでしょうか?

役所:時代劇は制作に時間もお金もかかるし、本来は映画会社としてもリスクが高いはずなんです。それでもいま時代劇が集中して出てきているのは、やはり「汚れた政治を洗濯する奴らが出てきてほしい」という時代の雰囲気ではないかと思います。本作はフィクションですが、モデルになった史実もありますから。いつの時代も変わらず、そういう時期にヒーローを求める気分があるんじゃないでしょうか。

市村:野球のWBCでは"サムライ・ジャパン"って言われましたけど、侍ってやっぱり「一生懸命生きる人たち」の象徴ですよね。いま日本を動かしているトップの方とか、みんながもっと「侍になってほしい」と思ってる人がけっこういる。なのに人の揚げ足ばっかり取ったりして。もっと侍の精神で、命がけでやろうよと。そういうことを強烈に訴えるのが、やっぱり時代劇であり、特にこの時代の侍の生き様であるんだと思いますね。

役所:時代劇をやると、昔の日本人のよさ、潔さ、誇り高さなど、今を生きるヒントがいっぱいあると感じます。本作の時代設定は広島に原爆が落ちる100年ほど前。「たったそれだけ?」と思いますよ。ちょっと前まで、自分たちが誇りを持てる国にするために、こんなに命をかけて戦う人たちがいたんだなあと感慨深い。そのおかげで、われわれは命を延々とプレゼントされているわけですから。

市村:僕はこの映画から時代劇が続いてるんです。舞台で徳川家康をやっていて、年内にもう一本時代劇があって。来年は大河ドラマで明智光秀を。

役所:おお、時代劇俳優!

市村:そのうちミュージカルが時代劇っぽくなってきちゃったりして。(笑い)

--そういえば、市村さんは、先日、結婚5年目にして結婚式をあげられたんですよね。おめでとうございます。

役所:お子さん、おいくつでしたっけ。

市村:いま2歳3カ月です。抱っこで毎日、腰がつらいですよ(笑い)。松方さんにも「年を取ってできた子どもはな、そこがつらいんだよなぁ」って言われちゃった。

役所:ははは。(笑い)

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