◆子ども生まれて家に帰る楽しみ◆

市村:でもねえ、家に帰る楽しみができましたよ。前は寝る以外はほとんど芝居のことだけ考えていたようなところもあったけど、いまは稽古と本番だけやれば、あとはもう違うことやっていいんだ、くらいの余裕ができた。

役所:役者って切り替えが難しいですからね。本番のときだけ「フッ」と役になれたらと思いますけど、なかなかそうはいかなくて、引きずっちゃいますよねえ。

市村:何をしてもつい「このことが何かに役に立つかも」とか思っちゃうじゃないですか。でも子育てしながらそれは思わないしね。

役所:僕も若いときは家に帰っても役にどっぷりでしたよ。「うわー、胡散臭いのが家帰ってきた」みたいに思われてたでしょうね。いまでも自分では切り替えてるつもりですけど、周りから見るとやっぱり違うんだろうなあ。

市村:まあうちの子チャンバラ好きなんで、いまのうちから仕込んでそのうち子役で......なんて(笑い)。役所さん、お子さんは?

役所:うちのはもう24歳です。男の子で、俳優をやりたいとか、映像撮りたいとか、ちょこちょこやってますよ。自主映画もやってるみたいで。(照れ笑い)

市村:勧めたわけじゃないんだ。

役所:勧めてはいませんね。でも僕も好きで始めたことだし、好きになっちゃったら、もう自分で突き詰めてやるしかないですからねえ。大賛成とはいかないけど反対はできない。

市村:やっぱり父親の姿を見てるうちに......か。反抗期とかはどうでした?

役所:うちの場合は遅かったですね。いまが反抗期じゃないですか。

市村:子どものころ、怒ったりしました?

役所:うーん......そんなには怒ってないですねえ。いまのほうが、意見が食い違うことはありますよね。社会人になると自分の人生ですから、まあそういうぶつかり合いも正常かなと思いますが。

市村:ね、子どもから学ぶことってある?

役所:それは、ありますよ。

市村:あ、何かはいいや。あんまりそこまで深く聞かない。いやこれからそういう目にあうから、ぜひアドバイスをと。参考になりました。(笑い)   (構成 中村千晶)

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 やくしょ・こうじ 1956年1月1日、長崎県生まれ。出演作「うなぎ」(97年)がカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞。主な映画出演作品に「Shall we ダンス?」(96年)、「ガマの油」(09年)、「

最後の忠臣蔵」

など

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 いちむら・まさちか 1949年1月28日、埼玉県生まれ。劇団四季出身。主な出演作品に、演劇「屋根の上のヴァイオリン弾き」、映画「ベロニカは死ぬことにした」(06年)など。エッセー

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