「川豊」は成田参道のうなぎ店の代表。店頭の威勢のいいうなぎのさばき実演で大人気。比較的リーズナブルなのもうれしいところ。もちろんふっくらうなぎの味は保証つき。難点は何しろ行列しないと食べられないのと食券制がちょっと面倒。そんな方にはJR成田駅の北口に、落ち着いた別館もあり、参道よりも待ち時間は少なく食べられます。


「菊屋」は、英語の堪能な名物女将が切り盛りするこじんまりしたお店。割烹料理も充実していますし、もちろん鰻も美味。店内の内装も細かいところにセンスを感じます。外国人観光客が多いのもこの店の特徴みたいです。
「駿河屋」は成田山総門のすぐそばに立地し、川豊と並んで店頭の鰻さばき実演が見られる大人気店。鰻の産地にもこだわる分、少し値は張りますが味は絶品、この店の鰻重ファンも多い。やや押しの強い明るい女将さんの薀蓄と、外で天日干ししている鰻の骨せんべい、肝吸い・肝焼きも名物です。

「大野屋旅館」は、物見やぐらのある四階建ての重厚な建物が登録有形文化財。歴史的建造物の多い成田山参道でもひときわ目立つランドマーク的なお店です。基本的には旅館ですが、一階でうなぎを提供しています。旅館ですので、成田観光の各種案内・アドバイスもしてくれます。ちなみにこの大野屋旅館を中心にした坂道付近は成田山の表参道の中のハイライト。新春の時期はごった返しますが、シャッターチャンスをさがして記念写真をモノにしましょう。
「名取亭」は参道ではなく、成田山の奥、成田山公園の裏手にたたずむ歌舞伎の成田屋とゆかりの深い老舗。広い日本家屋の畳敷きの座敷に通されると、田舎の祖父母の家に来たような懐かしい気持ちになります。鰻はていねいにやわらかに仕上げられていますが値段はちょっとお高め。時間もけっこうかかりますので、ゆっくりお酒でも飲みながら待つといいでしょう。食事の後にはお守り札をいただけます。

「近江屋」「鰻腹亭」「三はし」も、こってりしたうな重、うな丼かおいしい老舗店。
以上にあげたお店は筆者が実食したお店ですが、ほかにも美味しいお店はきっとあるはず。何しろこれだけ鰻店が密集する場所というのも全国でもほかにはなく、美味しくなかったらたちまち淘汰されてしまうでしょう。懐具合や腹具合と相談しつつ、お気に入りの味を見つけてみては。

最後にひとつだけ変り種をご紹介。参道の坂道の手前、「下田康生堂ぱん茶屋 」はパン屋さんですが、先代までは有名なうなぎ屋で、大きな天狗の面のお店といえば、川豊と人気を二分するほどでした。筆者もここの鰻が大好きで、廃業すると聞いたときにショックでしたが、あとを継いだ息子さんは、先代のたれに漬け込んだ鰻をパンにつつんだ鰻パンを開発。これがまたとてもおいしいのです。パン好きの方にはたまらないはずですよ。

その② 造り酒屋、漢方薬、漬物、竹細工・・・江戸の昔から続く名物店
門前町の中ほどに、成田の地元の造り酒屋、「滝沢本店」とその直営小売店「藤屋」があります。参道に造り酒屋があるってすごいですよね。江戸末期、成田山を参拝した滝沢栄蔵が夢でお不動様のお告げを受けてこの地の井戸水を汲みあげて酒造りをはじめました。この井戸水が大変おいしく、また飲んだものが病気が平癒したなどのうわさとなり、滝沢本店の看板商品は「長命泉」と名づけられました。フルーティで切れのよい純米酒は成田周辺でしか手に入りません。またこの時期はシャンパンのような炭酸発泡性の活性清酒も売られています。正月のこの時期は、参拝客に新酒のふるまい酒が。ぜひ一度飲んでみてください。ただし飲みすぎにはご注意を!
店頭の鰻の仕掛け魚篭(びく)が目を引く「藤倉商店」は竹細工専門店。名物若主人に声をかけると、マシンガントークがはじまります。竹細工の大根おろし機がお勧めだそうです。外国へのお土産にも竹細工は喜ばれるようです。
「一粒丸(いちりゅうがん)三橋薬局」は重厚な蔵作りが有形文化財に指定されている創業三百四十余年の成田山参道を代表する漢方薬局。「 はらのくすり成田山一粒丸・血留め切りきずの薬」は、江戸の昔から参拝者の健康を支えてきた名物中の名物です。
先述したパン屋さんと名前が同じ屋号の漢方薬局「下田康生堂」は、山やカメ、蛇の剥製がともかく印象的ですが、こちらも漢方薬の種類は充実しています。店員の方に症状を説明すると、丁寧に処方してくれます。
「鉄砲漬け」もまた成田山の名物。はぐら瓜の中心をくりぬき、そこに紫蘇を巻いた青トウガラシをつめこんで醤油や味噌漬けにした成田発祥の漬物です。「鷹匠本店」「江戸久」「田中屋」など、漬物のお店もいくつもあります。鰻重の香の物と出されることが多いですので、その際食べてみて気に入ったら、どこのお店の漬物かたずねて、お土産にしてはいかがでしょう。
立派な真新しい建物がひときわ目につく「なごみの米屋」総本店は、千葉県各地に支店を持つ羊羹・和菓子の老舗。なんといっても看板は栗羊羹ですが、それ以外にもドラ焼きやピーナッツ最中、それにピーナッツ最中アイスなどの洋菓子も。また敷地内には、都から上総に上陸した空海作の不動明王増が最初に成田に鎮座した場所とされる記念碑もあり、一見の価値あり。

その③ 買い食い、甘味、珍味。参道の醍醐味
「金時の甘太郎」はいつも行列を作っている大人気店です。ごろごろとした小豆あんと白あんの今川焼きのお店です。イートインスペースもあります。
甘味どころの「三芳家」は、表参道の建物の間の路地をぬけたところにある隠れ家のような甘味カフェ。餡蜜やアイス大納言、お汁粉、ピーナッツ安倍川がおいしく女性に大人気のようです。ほうじ茶のサービスも寒い時期にはうれしい。
「林田のおせんべい」は成田参道のせんべい屋の元祖であり、生地から手作り。歩きながら食べやすいよう、バラ売りの「串せん」、千葉の名物濡れせんべいも人気です。
千葉落花生や甘納豆、そして成田近郊の農家の野菜も豊富に露店に並びます。もし大和芋のむかごを売っていたらぜひ試食を、こってりしていてとても美味です。
初詣のこの時期は露店も数多く、甘栗売りも成田山の名物。気軽に試食させてくれます。ほかにもケバブやインドカレーの出店、房総の郷土料理祭り寿司の実演販売など、枚挙に暇がありません。そうそう、猿の曲芸の大道芸もいつもやってきます。今年は申年、きっと例年より張り切った芸を見せてくれるでしょう。

近年は、特に新勝寺から離れた駅周辺の店舗は入れ代わりが激しくなり、さすがの成田山にとっても厳しい時代だと感じます。でも一方で、ますます国際色豊かな都市、多国籍な門前町として、古い伝統と新しいものとを融合していこうとする旺盛なダイナミズムも感じます。
成田山ご参拝の際に、拙文が少しでも参考になれば幸いです。