市場を通じて各地に運ばれる野菜や果物。オレンジやグレープフルーツ、レモンはほとんど輸入に頼る。輸入かんきつ類は海路を冷蔵で輸送され、船便での輸送機関は概ね2週間から40日程度と言われている(撮影/編集部・熊澤志保)
市場を通じて各地に運ばれる野菜や果物。オレンジやグレープフルーツ、レモンはほとんど輸入に頼る。輸入かんきつ類は海路を冷蔵で輸送され、船便での輸送機関は概ね2週間から40日程度と言われている(撮影/編集部・熊澤志保)
防かび剤使用表記のある米国産レモンと、防かび剤の使われていない米国産レモンを2個ずつ同日に購入した。1週間後、防かび剤不使用のレモン1個にかびが生え、周囲に広がった。防かび剤使用のレモンは2週間後もかびは生えていない(撮影/編集部・熊澤志保)
防かび剤使用表記のある米国産レモンと、防かび剤の使われていない米国産レモンを2個ずつ同日に購入した。1週間後、防かび剤不使用のレモン1個にかびが生え、周囲に広がった。防かび剤使用のレモンは2週間後もかびは生えていない(撮影/編集部・熊澤志保)

 輸入果物(かんきつ類)に使われている防かび剤は農薬だ。日本では食品添加物として扱われ、表示義務がある。米国は「販売障壁」として、表示の規制緩和を求めている。

 夕方、買い物客で賑わうスーパー。青果売り場には艶(つや)やかな海外産の果物が山積みだ。子連れの女性客がアメリカ産オレンジを数個買い物カゴに入れた。その向かいでは、年配の主婦が袋売りのレモンを吟味している。オレンジのポップの隅には、シールが貼ってある。「イマザリル/TBZ」。レモンの袋の隅には「TBZ、イマザリル、フルジオキソニル、アゾキシストロビン使用」と印字されている。

 これらは輸入かんきつ類に使われている防かび剤だ。長期にわたる海上輸送では、かびを防ぐ合理的な手段とされる。生産国の米国などでは、収穫後に使われるので、いわゆるポストハーベスト農薬にあたる。

 日本ではポストハーベスト農薬の使用は禁じられている。にもかかわらず、店頭に出回っているのは、日本での扱いが「食品添加物」だからだ。

 現在主に使われているのは、前述の品目のほか、オルトフェニルフェノール(OPP)、ピリメタニルなど。

 防かび剤が使用された作物には原則として表示義務がある。が、今後、この表示が消える可能性がある。

 指摘するのは、北海道大学農学研究院の東山寛講師(農業経済学)だ。懸念の根拠はTPPの日米事前協議での合意項目だ。

 米国通商代表部(USTR)は昨年4月、文書を公表した。(いずれも東山氏抄訳)「日本が、防かび剤の問題に対処することに合意した」

 さらに、今年3月には日本が防かび剤などの審査プロセスの簡素化を発表したとする文書を公開した。日本の食品表示規制にも批判を加えている。

「米国は、日本が収穫後に使用された防かび剤に表示義務を課すことを憂慮している。不要な表示が、米国産食品のニーズを阻害している」

 東山氏は、こう指摘する。

「アメリカはここで初めて、防かび剤の表示の問題についても貿易障壁だと、踏み込んできたのです」

 文書内で言及されている審査の簡素化について、厚生労働省に問い合わせたところ、「該当する公式発表はない」とのこと。ただし、TPPに関しては、

「守秘義務があり、一切答えられない」

 東京大学大学院の鈴木宣弘教授(国際環境経済学)は、「日本の食品安全行政は外圧に弱い。ポストハーベスト農薬を食品添加物に分類した経緯もそうです」と批判する。

AERA 2014年6月16日号より抜粋