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第65回  「座右の銘」がないので困るが、世の中「メッセージ」だらけなのも困る

文・谷川賢作

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稽古場はグラウンド 本番まで何時間も何時間も時のたつのを忘れて稽古します アドレナリン沸騰!(撮影/谷川賢作)

稽古場はグラウンド 本番まで何時間も何時間も時のたつのを忘れて稽古します アドレナリン沸騰!(撮影/谷川賢作)

この連載でもいっぱいの本を紹介してきたなあ でも読めども読めども、面白い本は次から次に湧いてくる (撮影/谷川賢作)

この連載でもいっぱいの本を紹介してきたなあ でも読めども読めども、面白い本は次から次に湧いてくる (撮影/谷川賢作)

 こんな私でも人気商売の端くれ。コンサート終演後に色紙にサインしてと言われることが時々ある。で、そんな時困ってしまうのが「なにか一緒に、お気に入りの一言書いてください。座右の銘ってありませんか?」と言われてしまうこと。

 そりゃあないことはないのだけど、私、すぐ違う別の一言を“発見”して気持ちが移ったり、ある時「これ、いいな!」と感じた一言も、次の瞬間にはあっけなく忘れてしまったりするのです。そ、そんな、気持ちが移ったり、忘れたりするような言葉は「座右の銘」とは言わないのでは?

 はい、その通り。返す言葉もありませんが、ちゃんと「ピカソから7つの助言」なんていうのはiPhoneのメモに貼り付けてあって、いつでも引っ張り出してきて、それをさらさらっと書いてもいいのですが、なんとなくリアリティがないというか、正直でない気がします。

 今、自分にとって”旬”の一言に常に出会っていたい。ということなのかなあ。「ピカソ」が“旬”でなくなった訳ではないのですが、なにかその一言を発見した時のトキメキはもう失せているというか。

 そんなことで言うとタモリさんの座右の銘「適当」というのが、いつでもどこでも自分に一番当てはまる気がする。でも勇気がないので色紙に「適当」は書けないな。あはは。

 「のほほん」とか「ヨレヨレ」とか「てろんてろん」果ては「アジャパー」c伴淳三郎「アッチョンブリケ」cピノコ、とか座右の銘でなくともいいのであれば、語感が好きな「お気に入りの一言」はいっぱいある。しかし、どうもそれも色紙に書くことは、はばかられる。

 やはり色紙には「一心不乱」「完全燃焼」「勤倹力行」みたいな力強い四字熟語が似合うのではないか、とつい思ってしまうのは私の偏見なのか!?

 しかし、最近よく繰り返しぼやいていることだが、「座右の銘」はともかく、世の中、吹けば飛ぶような軽い「メッセージ」であふれかえっている。これでいいのだろうか?まずインタビューとかラジオのトーク番組の最後のシメの「それでは最後にメッセージを一言頂けませんか」は、もうなくてもいいのではないだろうか。その人のことに興味があれば、それまでに語られたことそれ自体が十分に「メッセージ」たり得てると思う。シメにそんな気の利いた特別な一言を言える訳でもないし、結局「○○の制作がんばりました。ぜひよろしくお願いします」のようなことを、と言うしかないではないか。まあ「お約束」でシメるということが世間的にはOKなのでしょうが。


(更新 2017.7.24 )


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プロフィール

谷川賢作

谷川 賢作(たにかわ・けんさく)作/編曲家 ピアニスト

1960年東京生まれ。ジャズピアノを佐藤允彦に師事。演奏家として、現代詩をうたうバンド「DiVa」、ハーモニカ奏者続木力とのユニット「パリャーソ」に所属。また父である詩人の谷川俊太郎と、朗読と音楽のコンサートを全国各地で開催。80年代半ばより作・編曲の仕事をはじめ、映画「四十七人の刺客」「竜馬の妻とその夫と愛人」、NHK「その時歴史が動いた」テーマ曲等を手がける。88、95、97年に日本アカデミー賞優秀音楽賞受賞。2014年度船橋市文化芸術ホール芸術アドバイザー。音楽を担当した最新映画は「カミハテ商店」「SAYAMAみえない手錠をはずすまで」。最新刊『げんきにでてこい』(カワイ出版)、最新CD『うたがうまれる』 谷川賢作オフィシャルサイトhttp://tanikawakensaku.com/