第24回 『いとしのレイラ』デレク&ザ・ドミノス |AERA dot. (アエラドット)

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第24回 『いとしのレイラ』デレク&ザ・ドミノス

文・大友博

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 エリック・クラプトンがボビー・ホイットロック、カール・レイドル、ジム・ゴードンと組んだバンド、デレク&ザ・ドミノスのアルバム録音は1970年8月下旬にスタートしている。クラプトン/ホイットロックが共作した《アイ・ルックド・アウェイ》、《キープ・オン・グロウイング》、クラプトンが1人で書き上げた《ベル・ボトム・ブルース》のベーシック・トラックをこの4人だけで仕上げた段階で、すでに書いたとおり、ドゥエイン・オールマンが準メンバーとして参加。奇跡的なケミストリーが生まれ、マイアミでのセッションは一気に熱を帯びていくこととなる。時代の流れとして、大量のマリファナやコケイン、アルコールに支えられてという面も無視できないわけだが、ともかく彼らは、わずか10日余りで(オーヴァーダブを除く)、歴史に名を残す2枚組の大作を仕上げてしまったのだった。

 録音がスタートした時点では、クラプトンの《許されざる愛》、彼が抱える苦悩や焦燥感が漠然としたテーマになること以外、アルバムの全体像は固まっていなかったようだ。だが、ドゥエイン・オールマンの卓越したギター、彼とクラプトンのギター・コンビネーションという新たな要素が加わったことで、急速に焦点が絞られていく。ベッシー・スミスのヴァージョンで知られるブルース・スタンダード《ノーバディ・ノウズ・ユー・ホエン・ユア・ダウン・アンド・アウト》、やはりブルース・スタンダードで「親友の彼女を愛してしまったら」という刺激的な言葉が歌われる《ハヴ・ユー・エヴァー・ラヴド・ア・ウーマン》、ジミ・ヘンドリックスの叙情的なバラッド《リトル・ウィング》など、充分に練り上げられた形で選ばれたカヴァー曲も、結果的に、事前に想定したものより数段上の仕上がりになったのではないだろうか。

 メイン・トラックの《レイラ》は、ペルシャの詩人ニザーミの作品で、愛に苦しむ男を描いた「ライラとマジュヌーン」からヒントを得てクラプトンが書き上げたもの。歌詞の細部からはロバート・ジョンソンの影も感じられる。ただし最初のセッションで完成したのは、前半のみ。なんとなく物足りないと思っていた彼は、数日後、ゴードンがピアノで弾いていたメロディを気にいり、それをもとに後半部を録音することを思いつく。最終的にはプロデューサーのトム・ダウドが2つのトラックをレコーダー上でにつなぎ、名曲《レイラ》は完成したのだった。

 アルバム・タイトルの原題は、『レイラと、その他、愛の歌詰めあわせ』といった意味。日本国内では、前回にも苦言を呈したレコード会社が決めた表記という壁もあり、アルバム、シングルともに、相変わらず『いとしのレイラ』という恥ずかしいタイトルが一般的に使われてしまっている。ちなみに、「いとしい」は、本来、身近な人への想いを表現するときに使われる言葉であるはず。当時のクラプトンの苦悩や焦燥感とはまったく無縁の言葉であり、やはり恥ずかしい。[次回11/5(水)更新予定]


(更新 2014.10.29 )


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プロフィール

大友 博(おおとも・ひろし)

 1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。

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