
「食」に関する記事一覧

炭水化物が人類を滅ぼす
気がついたら70キロあった体重が半年で11キロ減っていた。夏井睦『炭水化物が人類を滅ぼす』は人もうらやむダイエット成功本である。〈中年オヤジでもスリムに変身できる方法を紹介する〉とお医者さんである著者ご自身も胸を張る。 方法はとても簡単。糖質を摂らない。ほぼそれだけ。具体的には主食(米・パン・麺など)をやめる。砂糖の入った食品もやめる。日本酒を焼酎に変える。でもカロリー制限はなし。唐揚げもフライもオッケーだ。 すると、あら不思議。糖質制限をした結果、体重が減っただけではない。高血圧が治った。中性脂肪やLDLコレステロールの値が正常に戻った。二日酔いをしなくなった。昼食後も眠くなくなった。イビキと睡眠時無呼吸症候群も治った……。 ええーっ、ほんと? あやしくない? だいいち炭水化物はタンパク質や脂肪と並ぶ「三大栄養素」でっせ。糖質なしでは脳も働かないでしょ。と思いますよね。私もそう思いました。しかし、ここから先が本書の真骨頂。三大栄養素のまやかしやカロリー神話の誤りにはじまり、草食動物と肉食動物の消化吸収のメカニズムとか、狩猟採集と農耕の効率の問題とか、話はやがて地球規模の文明論にまで及ぶのである。 人の身体にとって必須脂肪酸と必須アミノ酸は外から取り入れるしかないが、炭水化物(糖質)はなくても生きられる。ブドウ糖は体内でタンパク質から合成できるからだ。 ではなぜ人は炭水化物(糖類)を求めるのか。それは酒やタバコと同じ嗜好品だから。〈血糖の急激な上昇が、食後の陶酔感と幸福感をもたらし、その後に血糖値が低下し始めると、体は「血糖切れ」状態となる〉。早い話が人類はみな糖質依存症。〈糖質を要求するのは「体」ではなく「心」だ〉といわれると超納得。 しかも、その目で見直せば、レストランもコンビニも、世は炭水化物だらけ。でもね、心の栄養だからこそ炭水化物(糖質)は文化を生んだわけで。断糖はむずかしいっす。

フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人
本書は現代日本の食事情を土台に政治意識を考える、という斬新なコンセプトに貫かれている。 近年、日本人の食意識は二分していると著者はいう。他方には地産地消やスローフードに代表される健康志向の「フード左翼」が、もう他方にはマックやB級グルメなど、安さと量を重んじるジャンク志向の「フード右翼」が存在する。多くの日本人は後者にあたるという。友人や家族など身近にも当てはまる人はいるだろう。「左翼=革新/右翼=保守」という構図に照らせば、前者は大量生産による食の安全性破壊を批判し、他方後者は食に競争原理を組み込み市場多様化を追求する。 一見、政治と食とは無縁に思える。しかし例えば、アメリカではコーヒーを飲みながらアップル製品でネットニュースを読む都市リベラル層を「スターバックス・ピープル」と呼ぶ。政治は生活スタイルや消費態度の問題でもあるのだ。なぜこれまで両者を切り離していたのか疑問に思えてくる。切り口の面白さはもちろんのこと、遠くにある「政治」を足元から再考できる良書だ。



