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徳田拳士四段、年下に抜かれ心折れたときも 転機は記録係をした藤井聡太の竜王戦
松本博文 松本博文
徳田拳士四段、年下に抜かれ心折れたときも 転機は記録係をした藤井聡太の竜王戦
徳田拳士の師匠は小林健二九段。その門下は棋士だけでも伊奈祐介七段、島本亮五段、古森悠太五段、池永天志五段、冨田誠也四段、井田明宏四段、森本才跳四段と、多士済々だ(撮影/写真映像部・東川哲也)    AERAの将棋連載「棋承転結」では、当代を代表する人気棋士らが月替わりで登場します。毎回一つのテーマについて語ってもらい、棋士たちの発想の秘密や思考法のヒントを探ります。35人目は、徳田拳士四段です。AERA 2024年3月18日号に掲載したインタビューのテーマは「忘れられない失敗」。 *  *  *  2009年。小学生名人の徳田拳士は奨励会入会試験を受験。結果は不合格だった。 「悔しいというよりも、恥ずかしかったです。まさか落ちると思ってなかったんで。次の年もけっこうきわきわでしたけど、逆転勝ちして、なんとか入れたのは覚えてます」  例会の日、徳田少年は新幹線に乗り、大阪の関西将棋会館に通っていた。地方在住のハンディはあった? 「地方と都会の差は、段位者になってからは感じるようになりました。都会の方が練習相手は多いですから」  徳田は中学を卒業すると、地元の徳山高校に進学。2年のとき、二段に上がった。日本将棋連盟のウェブページには、2014年10月の例会で、16歳の徳田二段が香落の上手を持って勝った棋譜が紹介されている。相手は当時小6で12歳の藤井聡太初段だ。 「当時から、忙しい局面で相手に手を渡すような、小学生らしからぬ落ち着いた指し回しをしていたのは覚えてます。ものが違う。藤井さんは間違いなくすごい人になると思ってた。だからいまのうちだけでも勝ちたいと思って」  徳田と藤井は奨励会で8回戦い、互いに4勝ずつという成績が残されている。やがて藤井は、あっという間に徳田を抜き去っていった。 「年下にどんどん抜かれて、三段に先に行かれたときは、ちょっと心が折れました。僕は二段で長く足踏みして、やる気もなくなった時期もあって。そのうち、初段に落ちそうになって。誰にも言ってなかったですけど『落ちたらやめようかな』と思ってました。でも『別にまたがんばればいいじゃないか』と思い直し、のびのび指せた。そこで落ちなかったのが大きかった」 徳田拳士(とくだ・けんし)/1997年12月9日生まれ。26歳。山口県周南市出身。2009年、小学生名人戦全国大会優勝。同志社大学卒。22年、四段。山口県出身者としては初の将棋の棋士に(撮影/写真映像部・東川哲也)    徳田は同志社大学に進学後、2年のときに三段に昇段。難関のリーグで戦い始めた。そこでもまた苦戦した。 「昇級にからんでない期がほとんどで。最終日、上がり目がないのに東京に遠征にいくときはしんどかったです」  年齢制限の26歳は次第に迫りつつあった。 「就活した方がいいかなと思った時もありましたが、そっちも手遅れだなと。なんとかなるかと思い、将棋に打ち込みました」  地元山口県でのタイトル戦の対局は、記録係を務めた。 「タイトル戦で10回以上記録を取ったら(歴が長いのでなかなか)棋士になれないというジンクスがあって気にはしてたんですけど(笑)。地元の方々にはお世話になっているので、地元での対局はやろうと思ってやってたんです」  2018年12月、下関での竜王戦第7局は、羽生善治竜王(当時)のタイトル通算100期がかかっていた。 「記録を取っていて緊張するってなかなかないんですけど、本当にもう、すごい将棋だったので、緊張しました」  2021年11月、宇部での竜王戦第4局。記録係の徳田三段は藤井三冠が目の前で竜王位を獲得するのを見ていた。それがいい転機となり、さらに研究に励んだ。8期目となる21年後期のリーグ。ついに昇級のチャンスを迎えた。 「最終日の直前ぐらいまでは、ずっと他力(3番手以下)だったので。『なにも考えずに上についていこう』という感じで淡々とやってたのがよかったのかもしれません。気づいたら自力になっていて」  2022年。徳田はついに四段昇段を果たした。山口県初のプロ棋士誕生に、地元のファンは沸き返った。(構成/ライター・松本博文) ※AERA 2024年3月18日号
徳田拳士
AERA 2024/03/18 06:30
「会場のトイレで泣いたり」負けず嫌いな磯谷祐維女流初段 秒読まれるまで指して逆転
松本博文 松本博文
「会場のトイレで泣いたり」負けず嫌いな磯谷祐維女流初段 秒読まれるまで指して逆転
磯谷祐維(いそや・ゆい)/2003年1月15日生まれ。21歳。岐阜県各務原市出身。山崎隆之八段門下。23年、女流2級。24年、YAMADA女流チャレンジ杯に優勝し女流初段に昇段。好きな食べ物はしいたけ(撮影/写真映像部・高野楓菜)    AERAの将棋連載「棋承転結」では、当代を代表する人気棋士らが月替わりで登場します。毎回一つのテーマについて語ってもらい、棋士たちの発想の秘密や思考法のヒントを探ります。34人目は、磯谷祐維 女流初段です。AERA 2024年2月26日号に掲載したインタビューのテーマは「私のライバル」。 *  *  *  磯谷祐維は藤井聡太現八冠と同い年。子ども大会で負かされたこともある。いま、藤井を意識することは? 「特にないです(笑)。もう上の存在すぎて。藤井さんの棋譜は、全部並べてます。終盤も読み切ってるのが本当にすごい。いい意味で、踏み込みが異常だと思います。序盤も、どんな戦型を相手にしても指しこなせるのがすごい」  少年時の藤井は、負けずぎらいで有名だった。磯谷もまた、闘志を前面に出して戦ってきた。自分でも負けずぎらいだと思う? 「そうですね、思います。負けるといつも泣いてます。家に帰ってとか。アマチュアのときはもう、会場のトイレで泣いたりしてました」  アマ大会では、磯谷は序盤はびゅんびゅん飛ばすように指していた。女流棋士になったいまは、だいぶ変わった。 「やっぱり研究会で奨励会三段以上の人と指すと、本当に将棋の格が違うっていうか、序盤で差をつけられてしまうことが多かったので。かなり研究しないと、互角には持っていけません。YAMADA女流チャレンジ杯決勝の前日も研究会でした。そのとき三段の人に『ちゃんとギリギリまで、秒を読まれるまで指して』ってアドバイスをもらったんです。『いますごい将棋がんばってるから、序盤もちゃんと時間使ったら勝てるよ』って言われて」  決勝で戦った野原未蘭女流初段もまた、当然強い。序中盤ではリードを奪われた。それでも磯谷は屈せず、時間をめいっぱい使って指し続けた。その姿勢が功を奏したか、最終盤で逆転できた。 「秒読みであんなに『9』まで読まれることは、なかなかないですね」  現在の女流棋界は、層が厚い。鳴り物入りで女流棋士になった磯谷も、そう簡単に勝てるほど甘くはない。公式戦でふがいない将棋を指し、師匠の山崎隆之八段から苦言をもらったこともある。 磯谷祐維にはイベントでもあちこちから声がかかる。年末12月31日と年始1月2日は研究会で将棋を指していた。タイトル挑戦に近づく重要な対局も控えている。充実した毎日だ(撮影/写真映像部・高野楓菜)   「ちょっと師匠に怒られちゃったので。でもそこから、けっこう気合が入ってがんばっています。いま清麗戦の予選でベスト8に残っていて、次に加藤さん(桃子女流四段)と当たります。加藤さんは強いですし、苦手です。研究タイプで、(序盤の甘い手を)すべてとがめられてしまうというか。加藤さんにはアマチュア時代から3連敗してるんで、そろそろ勝ちたいです」  トップに立つ福間香奈と西山朋佳(いずれも女流四冠)にはまだ当たっていない。 「指してみたいですね。いまの自分で、どれぐらいまで戦えるのか」  2023年11月23日。磯谷のデビュー記念祝賀パーティーが東京でおこなわれた。関西在住の山崎師匠も、前日収録のリモートインタビューでメッセージを寄せてくれた。 「弟子になったときに『将棋しかない』っていう言葉が印象的な子だったんですけど」  師匠の目には、かつて奨励会に在籍していた頃の磯谷は、将棋がつらそうに見えた。しかしいまは楽しそうだ。現在の磯谷ほど、自分から率先して多くの研究会に顔を出し、多くの詰将棋を解いている女流棋士は、そうはいない。 「ちゃんとやってるんだなというのは感じられて、ほっとしています」  厳しかった師匠からの、そんな心温まるビデオメッセージも終わった。楽しいパーティーもそろそろお開き。そう思われたところでサプライズが起きた。師匠の山崎が会場に現れたのだ。思わぬことに驚き、涙ぐむ磯谷に、山崎は笑って花束を渡した。(構成/ライター・松本博文) ※AERA 2024年2月26日号
AERA 2024/02/24 06:30
伊藤匠七段、将棋の道のきっかけは「5歳のクリスマス」 父のブログに記された出会い
松本博文 松本博文
伊藤匠七段、将棋の道のきっかけは「5歳のクリスマス」 父のブログに記された出会い
伊藤匠(いとう・たくみ)/2002年10月10日生まれ。21歳。東京都世田谷区出身。宮田利男八段門下。20年、四段。21年、新人王戦優勝。21年度、勝率1位。23年、竜王戦挑戦で七段昇段(撮影/横関一浩)    AERAの将棋連載「棋承転結」では、当代を代表する人気棋士らが月替わりで登場します。毎回一つのテーマについて語ってもらい、棋士たちの発想の秘密や思考法のヒントを探ります。34人目は、伊藤匠七段です。AERA 2024年1月15日号に掲載したインタビューのテーマは「私の家族」。 *  *  *  東京で生まれ育った伊藤は、名古屋出身の父の影響で、中日ドラゴンズのファンだ。 「試合は一応見てます。今季はやたら炎上していたイメージがあります(苦笑)」  父の伊藤雅浩は、優秀な弁護士として知られている。その影響を感じることは? 「いや、うーん……。わかりません(笑)。わりと覚えるのが得意だったりはあるかもしれないですけど。国旗とか、図鑑に載っている怪獣とか、自然に覚えていました」  2007年。5歳だった伊藤少年は、クリスマスプレゼントに将棋盤と駒をもらった。それはどういう理由で? 「詳しく覚えてないんです。両親も特に将棋にはまっていたわけでもなかったので」  父のブログには、次のように記されている。 「今回はやや渋めに、『将棋盤と駒』にした。プラスチック製とか、マグネットのやつではなく、いちおう、ちゃんと桐箱に入ったモノである。もっとも将棋盤は足のついたゴツいのではなく、二つ折りのものだけれど。保育園の近くにある商店街に、かなり渋い『将棋・囲碁』サロンがある。毎日、夕方になると、おじさん、おじいちゃんがガラス張りのフロアで将棋や囲碁を楽しんでいて、それが長男の関心を惹いたのがきっかけだ」  父の選択は見事というよりない。翌年、子はサンタ宛てにこんな手紙を書いている。 「しょうぎねんかん(将棋年鑑)ください」  伊藤と藤井聡太は共通点が多い。2002年に生まれ5歳で将棋を覚えて夢中になり、家族に応援され、そして幸運にも近くに優れた指導者がいたことなどだ。伊藤の自宅から歩いても行ける距離には、宮田利男現八段が経営する三軒茶屋将棋倶楽部があった。 「観る将棋ファン」からは、伊藤匠はファッションセンスもいいという声も聞く。「だいたいもう、家族に全部任せてます(笑)。ファンの方からいただいたネクタイを使うことも多いです」(撮影/横関一浩)   「わりと覚えてすぐに、三軒茶屋の教室に通って。そこからは本当に、ほとんど毎日通っていたような気がします」  伊藤は2008年の竜王戦七番勝負、渡辺明竜王-羽生善治名人戦(肩書は当時)が強く印象に残っているという。 「渡辺先生と羽生先生が永世竜王をかけたシリーズの本を買ってもらって、棋譜をよく並べてました」  渡辺竜王に指導対局をしてもらった際、著書『永世竜王への軌跡』にサインをもらった様子も父は写真を撮って残している。藤井と伊藤は子ども大会で実績をあげ「天才少年」として広く名を知られた。両者は小3の時、全国大会の準決勝で初めて顔を合わせた。 「棋譜は残っていませんが、相横歩取りでした」  結果は伊藤の勝ち。藤井は対局後、大泣きしたという。 「自分で見たわけではないのでそれは覚えてないんです」  伊藤が決勝で対戦したのは三軒茶屋でしのぎを削りあった川島滉生。結果は伊藤の負けだった。 「小1ぐらいが(同世代の中では相対的に)一番強くて。そこからは下り坂で、高学年の頃には全国大会にも行けてなかったですし」  伊藤ほどの才能の持ち主でも子ども大会で無敵ではなかった。それほどまでに将棋の世界は厳しい。川島は棋士を目指さない道を選び、現在は早稲田大学に進学。学生強豪として活躍を続けている。一方、伊藤は棋士を目指した。  時を経て2022年。父はXに、次のように投稿した。 「5歳のときに『恐竜キング』の変身ベルトを欲しがっていた長男に将棋の盤駒をあげた自分の選択は正しかったのか、恨まれてないかは謎だ」 (構成/ライター・松本博文) ※AERA 2024年1月15日号
棋承転結
AERA 2024/01/15 06:30
藤井聡太八冠は将棋の可能性と自由さを伝える「完全無欠の棋士」 都立大教授・木村草太さん
鮎川哲也 鮎川哲也
藤井聡太八冠は将棋の可能性と自由さを伝える「完全無欠の棋士」 都立大教授・木村草太さん
木村草太(きむら・そうた)/1980年、神奈川県生まれ。専攻は憲法学。主な著書に『平等なき平等条項論』、『憲法の急所(第2版)』、『ほとんど憲法』ほか(撮影/大野洋介)    八大タイトル制覇という藤井聡太八冠が成し遂げた快挙に、各界の愛好家はいま、何を思っているのか。東京都立大学教授・木村草太さんに聞いた。AERA 2023年10月23日号より。 *  *  *  タイトル全八冠制覇は素晴らしいの一言です。あまりに強いため、一直線に必然の結果が出ただけとすら感じてしまいます。ただ八冠は容易ならざることで、途方もない才能を持った人が並外れた努力を積み重ねてきた結果だということを、改めて思い起こすべきと思いました。  羽生善治さんのタイトル戦を観戦させていただいたことがあります。盤外ではにこやかな羽生さんですが、盤の前では「とても怖い」と感じました。藤井さんも、対局のときはいつもの好青年ではなく、畏怖すら感じさせる恐ろしい風格があります。  最近の藤井さんの将棋は自由を感じさせ、誤解を恐れずに言えば素人の将棋のように見えることもあります。将棋は囲いや戦型を習得して強くなっていくわけですが、藤井さんの将棋は囲いや戦型の分類ができないくらいに自由です。相手の出方に合わせて柔軟に対応するためです。  かつて藤井さんへ将棋について子どもたちに何を伝えたいですかとお聞きしたときに「将棋はとても自由度の高いゲームであることを知ってほしい」とお話しされました。藤井さんほどに将棋を極めると、型から解放されて、将棋の自由さを感じることができるのでしょう。  将棋の観戦は、棋力を問わず楽しめます。ルールを知らなくても藤井さんの棋譜は美しいですし、ルールが分かれば、よりすごさが実感できます。また、一手のミスで大逆転してしまうところなどは、トッププロの対局でも、縁台将棋でも全く同じで、プロの感じている将棋の怖さを共有できるでしょう。  藤井聡太という存在は棋士としては完全無欠ですね。三拍子+1。(1)将棋が強い、(2)パソコンも得意でAIを使いこなせる、(3)タイトル戦に出れば全国を転戦しますが、乗り鉄なので移動も好き。さらに甘いものも好きで、スポンサーが喜ぶおやつのチョイスもする、盤外でも将棋に向いている藤井さんは無敵ですね。 (構成/ライター・鮎川哲也) ※AERA 2023年10月23日号 【こちらも話題】 「一歩一歩、歩む」シャイで真面目な努力家・松尾歩八段が語る藤井聡太の歴史的妙手 https://dot.asahi.com/articles/-/200569
藤井聡太八冠
AERA 2023/10/22 11:00
東大院在学中の棋士・谷合廣紀 藤井聡太に「『絶対勝てない』とまでは思いません」
松本博文 松本博文
東大院在学中の棋士・谷合廣紀 藤井聡太に「『絶対勝てない』とまでは思いません」
たにあい・ひろき/1994年1月6日生まれ、取材当時27歳。2020年、四段昇段。棋風は振り飛車党。現在は東大大学院博士課程に在籍中。著書に『Pythonで理解する統計解析の基礎』。趣味はピアノ(2021年9月撮影/写真映像部・東川哲也)  6月に史上最年少で名人位を獲得した将棋の藤井聡太七冠は、先日も棋聖戦を4連覇し、前人未到の八冠にまた一歩近づきました。AERAに連載した棋士たちへのインタビューをまとめた『棋承転結 24の物語 棋士たちはいま』(松本博文著、朝日新聞出版)では、渡辺明九段をはじめ多くの棋士が、藤井七冠との対局の印象を語っていて、小学生だった頃やルーキー時代からタイトルを獲得していった現在まで、藤井七冠の軌跡が感じられます。2021年11月1日号に掲載された谷合廣紀四段のインタビューでは、東大工学部卒・大学院在学中の棋士らしく、将棋界にはデジタル化が、藤井七冠には「止めてくれる人」が必要だと語っています。(本文中の年齢・肩書はAERA掲載当時のままです) *  *  * 「想像以上に反撃が厳しく、粘りのきかない展開にしてしまいました。今年の楽しみがひとつ消えて悲しいですが、強く生きます」  10月13日、谷合廣紀はそうツイートした。棋王戦ベスト4をかけた一戦。佐藤康光九段の丸太を振り回すかのような攻めを受けきれず、敗れた。一方、年度内に六冠達成の可能性もあった藤井聡太三冠(19)もトーナメント途中で敗退。藤井と谷合の対局は実現しなかった。いずれは藤井と当たってみたい? 「藤井さんとの対局はずっと中継されるので怖いです。いやもちろん、指したいか指したくないかと言われれば、指したい。でもそんな、めちゃくちゃやりたいってわけではないです(笑)」  藤井と当たって勝算は? 「『絶対勝てない』とまでは思いません。かなり勝率は低いですけど」  まだ藤井「三冠」ではなく藤井「三段」だった5年前。谷合は三段リーグで藤井に勝った。棋士としての通算成績にはカウントはされないが、いまのところは1勝0敗だ。 「まあ、そうなんですけど、だいぶ前なんでノーカン(ノーカウント)です(笑)」  改めて、驚異の快進撃を続ける藤井についてどう思う? 「八冠になる可能性はあると思います。ただやっぱり、止めてくれる人がいてほしいな、とは思いますね。藤井一強の時代を見たい方も多いとは思うんですけど、将棋界として、それはどうなのか。私が藤井さんだったとしたら、一強で敵がいなくなると、将棋に飽きると思います。もちろん藤井さんは関係なく将棋の真理を追究していくかもしれない。でもやっぱり壁みたいな存在が現れないと、藤井さん自身のさらなる成長もないような気がしますし。私は藤井さんとはめったに当たれるような立場ではないですが、他の方はどう思っているのでしょうか」  永瀬拓矢王座(29)は竜王戦挑戦者決定戦で敗れた直後「結局、藤井二冠(当時)を抜かないと」と語っていた。 「皆さん、口には出さないだけでそう思っているような気がします」  谷合自身の棋士としての今後の目標は? 「謎ですね(笑)。私だからできることをやるのがいちばんだと思うんですけど、具体的にそれがなんなのか、まだよくわかりません」  電子情報学の専門家として将棋連盟でデジタル化を推進していく立場になるのでは? 「確かにそういうのは、私がやるべき仕事になるのかもしれないですね。たとえば大盤解説もデジタルの盤面なら操作しやすい。あとは中継されていない棋譜や、新聞に掲載されている観戦記をウェブ上で手軽に購読できるようにするとか。権利の問題もあって難しいでしょうが」  コロナ禍でリモートワークが普及した。将棋界でも東西の棋士がリモートで公式戦を指す未来はあるだろうか? 「対局に関しては、アナログなところは残してほしいと思っています。将棋は日本の伝統文化としての側面もあるのが他のゲームとの違いでしょう。そこをなくしてしまうと、なかなか受け入れてもらえないんじゃないかなと。パソコンに向かってポチポチやるのは味気ないじゃないですか(笑)」  好きなお酒も、一緒にみんなで飲むほうが楽しい? 「そうですね。この間、(オンライン会議システム)Zoom飲み会に誘われたんですけど、それは断りました(笑)」 (文/松本博文) ※松本博文著『棋承転結 24の物語 棋士たちのいま』(朝日新聞出版)から一部抜粋/AERA2021年11月1日号初出
藤井聡太
AERA 2023/07/31 11:00
羽生vs藤井 数々の記録を持つレジェンドと若きスーパースターのドリームマッチ開幕へ
松本博文 松本博文
羽生vs藤井 数々の記録を持つレジェンドと若きスーパースターのドリームマッチ開幕へ
(左から)「将棋史上最強」とも称される羽生善治。50代を迎えた現在も、華麗にして正確なプレースタイルは健在だ/「史上最強候補」の藤井聡太。羽生善治を番勝負で倒して、名実ともに王者の系譜を継ぐ者となるか  将棋の王将戦七番勝負が1月8日に開幕し、藤井聡太王将に羽生善治九段が挑戦する。AERA2023年1月2日-9日合併号では、若きスーパースターとレジェンドの「ドリームマッチ」の見どころを紹介する。 *  *  *  歴史に残るドリームマッチ。そう言って、なんら過言ではないだろう。藤井聡太王将(20)に羽生善治九段(52)が挑戦する王将戦七番勝負が年明け1月8日に開幕する。  両者はいずれも将棋史上を代表する至高の存在だ。それぞれの歩みを比較しながら改めて本シリーズの意義を探っていこう。  棋士の資格を得る四段に昇段したのは、羽生は15歳、藤井は14歳。中学生のうちに棋士の養成機関「奨励会」を抜けたのは、年少順に藤井、加藤一二三九段(82)、谷川浩司十七世名人(60)、羽生、渡辺明名人(38)の5人しかいない。  羽生と藤井はデビュー以来、すさまじい勢いで勝ち始める。藤井に至ってはいきなり史上最高の29連勝を達成した。  両者はフルシーズン参戦以降、4年連続で勝率1位。過去に年間勝率8割以上を3回も達成した棋士は羽生しかいなかった。藤井は現在までに5年連続8割以上。6年目の現在も8割台をキープしている。 ■藤井を意識する渡辺  全棋士参加棋戦で優勝したのは、羽生は17歳。当時存在した天王戦を参加1期目にして勝ち上がり、準決勝で中原誠名人(現十六世名人、75)、決勝で森下卓五段(現九段、56)らを連破して早くも栄冠をつかんだ。  一方の藤井は15歳のとき。やはり参加1期目の朝日杯将棋オープンで佐藤天彦名人(現九段、34)、羽生竜王(当時)らを下して、羽生の最年少記録を更新した。  羽生は18歳のときNHK杯で大山康晴(十五世名人、故人)、加藤、谷川、中原と4人の名人経験者を連破して優勝。この最年少記録は藤井にも破られずに残っている。  棋士のほとんどにとって、タイトルは一度でも獲得するのが大変だ。しかし19歳の羽生は竜王位にまで駆け上がる。その少しあとに18歳の屋敷伸之(現九段、50)が棋聖を取り、時を経て17歳の藤井が棋聖獲得で最年少記録を更新した。 AERA 2023年1月2ー9日合併号より  A級昇級は、羽生は22歳。49歳で悲願の名人位に就いた米長邦雄(のちに永世棋聖、故人)は就位式で次のように言った。 「来年、あれが出てくるんではあるまいか」  会場は笑いに包まれる。「あれ」とは誰を意味しているのか、その場にいる誰もがすぐにわかった。米長が予想した通り、羽生はA級1期目で挑戦権を獲得。米長から名人を奪った。  藤井は2022年、19歳でA級に昇級。「神武以来の天才」と称された18歳の加藤に次ぐ年少記録だ。現在名人の渡辺は就位式で次のようにスピーチした。 「将棋界では以前、米長先生が同じような状況で名言が残されていたんですけども」  歴史は繰り返す。事情を知るファンならばみなまで言わずとも、渡辺が藤井を意識しているとわかる。藤井はA級1期目で名人挑戦権争いのトップに立つ。もし藤井が23年度20歳で名人位を獲得すれば、谷川の21歳を抜き最年少記録を更新する。 ■五冠達成者は4人だけ  羽生は22歳で五冠を達成。藤井は22年、19歳のときに渡辺から王将位を奪い、竜王、王位、叡王、棋聖とあわせて史上最年少で五冠となった。タイトル戦の数などが違うため、一概に過去と現在を比較はできないが、五冠達成者は大山、中原、羽生、藤井の4人しかいない。  羽生と藤井は12月8日、棋王戦挑戦者決定トーナメント敗者復活戦決勝で対戦。藤井が勝ち、棋王挑決二番勝負でも佐藤天彦九段(34)を下して棋王挑戦を決めた。  羽生は24歳で史上ただ一人の六冠を達成。20歳の藤井が棋王を獲得すれば史上2人目、そして最年少の六冠となる。  1996年、羽生は王将位を獲得。25歳で史上初の七冠独占を果たした。もしこのまま藤井が勝ち続け、名人まで取れば羽生以来の七冠となる。  17年に叡王戦がタイトル戦に昇格し、現在の将棋界は八大タイトル制となった。藤井が次の王座戦で挑戦、獲得となれば、最短23年の秋には史上初の八冠を達成する。  17年、14歳の藤井は竜王戦本戦で佐々木勇気五段(現七段、28)に敗れ、連勝が29で止まるとともに、竜王挑戦まではとどかなかった。このとき竜王復位をはたしたのは、47歳の羽生だった。羽生は永世竜王の資格をも得て、七大タイトルの永世称号をコンプリート。将棋史上初の国民栄誉賞を受賞した。 AERA 2023年1月2ー9日合併号より ■通算100期なるか  羽生の通算勝数は1500を超え、史上最多を更新し続けている。通算タイトル獲得数も史上最多の99期だ。一方の藤井は史上最速のスピードで通算300勝を達成した。タイトル戦に11度登場し、いまだに1度の敗退もない。そんな棋士はもちろんほかにいない。  王将戦七番勝負で藤井が五冠を堅持し、夢の八冠ロードを突き進むのか。それとも羽生がそれを阻止して通算100期を達成するのか。観戦者からすれば、これほど劇的な構図はない。  両者は初めて2日制(持ち時間8時間)で対局する。藤井はその設定で24勝4敗という圧倒的な成績を残している。下馬評では若い藤井乗りの声が多い。一方で、どちらに勝ってほしいかをあえて問われれば、それは羽生だという人も多いだろう。  羽生は渡辺、永瀬拓矢王座(30)、豊島将之九段(32)らトップクラスをなぎ倒し、史上最年長52歳で王将リーグ全勝を達成した。アルゼンチンのメッシ(35)がついにサッカー・ワールドカップで優勝したように、今期王将戦は羽生にとっても集大成の場かもしれない。  羽生がまだ20代前半の頃は、棋譜データベース導入が若手棋士の強さの秘訣(ひけつ)であろうとよく論じられた。時代がめぐって現在はハイスペックなコンピューターを用いた将棋ソフト(AI)が最新のツールとなった。もちろん、それらの影響は大きい。しかしいつの時代でも最新の環境をいかすためには、ベースとなる実力が必要なのは前提だ。 ■藤井が羽生に7勝1敗  藤井は米国の半導体企業AMDのブランド広告に出演している。最近はAMDから最新のCPUが搭載されたパソコンが提供された。藤井は自作でマシンを組み立てるなど、将棋界ではこの分野でもトップランナーだ。  一方、羽生もまたAIを用いての研究に取り組んでいる。序中盤で後れは取らず、あとは持てる底力が試される終盤になれば、これまでに培ってきた百戦錬磨の強みが発揮されそうだ。  66歳の大山は19歳の羽生に勝つなどして、史上最年長でタイトル(棋王)挑戦権を獲得した。47歳差の両者は大山3勝、羽生5勝という戦績が残されている。大山は59歳のときに王将位を保持していた。時を経て、羽生は大山の数々の最年長記録を更新しうる立場となった。  時代を代表する大棋士同士の関係としては、32歳差の羽生─藤井は、23歳差の中原─羽生に近い。中原─羽生の対戦成績は中原10勝、羽生19勝。羽生─藤井は現在まで羽生1勝、藤井7勝。藤井が大きく勝ち越しているが、この先、羽生が差を詰める可能性も、もちろんあるだろう。  中原─羽生のタイトル戦は多くの将棋ファンに望まれながら、惜しくも実現しなかった。羽生─藤井の七番勝負を見られるわれわれは、幸運というよりない。  名勝負の舞台は整った。あとは藤井王将と羽生挑戦者がベストを尽くして歴史的な名局を残せるよう、心から祈りたい。(ライター・松本博文) ※AERA 2023年1月2-9日合併号
AERA 2023/01/08 08:00
藤井聡太が将棋日本シリーズJTプロ公式戦で羽生善治の記録超え最年少優勝 王将戦は羽生と対決
松本博文 松本博文
藤井聡太が将棋日本シリーズJTプロ公式戦で羽生善治の記録超え最年少優勝 王将戦は羽生と対決
藤井聡太は本棋戦参加4期目にして、初の優勝達成。17歳のときにはまだ初々しかった和服姿も、いまでは風格すら感じさせる(写真:将棋日本シリーズ総合事務局提供)  将棋界の若きスーパースター・藤井聡太五冠が、名誉をまた一つ手にした。将棋日本シリーズJTプロ公式戦で最年少優勝。「レジェンド」羽生善治九段の記録を超えた。AERA2022年12月5日号の記事を紹介する。 *  *  *  将棋日本シリーズJTプロ公式戦はトップ棋士12人が参加し、日本全国を転戦する早指しのトーナメントだ。  11月20日、千葉市の幕張メッセ国際展示場での決勝戦で、藤井聡太竜王(20)は114手で斎藤慎太郎八段(29)を下し、初優勝を飾った。  誰もが大本命と目する現代将棋界の第一人者が、下馬評通りの実績を残した。今大会を簡単にまとめれば、そういうことになるだろう。とはいえ、その第一人者はまだ弱冠20歳だ。 ■意識はしていなかった  1991年。当時棋王位を保持していた羽生善治(52)は21歳で本棋戦優勝を果たした。現代の目で見ても驚異的な最年少記録であり、以後、長きにわたって破られることはなかった。そこに常識外の強さで将棋界の主たる記録を塗り替え続ける藤井が登場し、また一つ、羽生の記録を更新することになった。  記者会見におけるいつもの定跡通り、藤井は自身がほとんど意識していない史上最年少記録更新について尋ねられる。藤井は笑顔で、次のように答えた。 「たしか今年が最年少のラストチャンスと、たぶん北海道大会(2回戦)のときにちらっとうかがって。今日(決勝)はまた忘れていたんですけど(笑)。そうですね。たしか今年が更新できる最後の機会だったということで。特に対局に臨む上では意識はしていなかったんですけど。結果的によい結果を残せたことはうれしく思います」  反対側の山から決勝にまで進んできた斎藤は、渡辺明名人(38)、永瀬拓矢王座(30)とタイトルホルダーを連破している。そして最終戦で迎えるのが藤井とは、どこまでいっても楽にならない。  決勝戦。斎藤は先手で角換わりを選んだ。藤井はいつもと変わらず、どんな戦型でも正面から受けて立つ。  将棋日本シリーズはさまざまな特色がある一大イベントだ。プロ同士の対局の前に、多くの少年少女が参加する大会が開かれるのも長い伝統となっている。 藤井(中央奥)は優勝後、こども大会の参加者を見送った  斎藤は2002年、藤井は11年、ともに小3のときに低学年の部で優勝した。羽織袴(はかま)を着せてもらい、壇上で指せる決勝戦は、こどもたちにとって晴れの舞台だ。藤井が小2のとき、決勝で敗れて準優勝に終わり、人目もはばからず大泣きをしたのは、いまでも語り草だ。  本局で解説を務めていたのは郷田真隆九段(51)。羽生と同学年で「黄金世代」の一人に数えられる郷田は93年、羽生に次ぐ22歳の若さで本棋戦優勝を果たしている。郷田はそこから3回連続優勝の連覇記録を達成した。藤井がその記録に迫った際には、改めて郷田の名前もクローズアップされるだろう。 ■飛車を逆にねらう筋  本棋戦ではファンに次の一手クイズを楽しんでもらうため、対局中に一度、どちらかの対局者が「封じ手」をする。その局面を決めるのは解説者だ。 「かなり難しい局面ではあるんですけれども」  郷田がそう言いながら指定したのは斎藤の51手目だった。時間があればいくらでも考えたい局面。しかし早指しの本局では、瞬時に判断を求められる。斎藤が紙に記した一手は、本局のゆくえを大きく左右した。 「封じ手は先手1五歩です」  観戦席からさざめくような声が聞かれた。斎藤は思い切って攻めに出る。藤井は力強く受けに回った。斎藤の攻めの主力である飛車を逆にねらう筋が、斎藤の盲点になっていた。 「勝敗を分けてしまうような見落としといいますか。見えない手を指されましたので」  局後に斎藤は悔やんだ。斎藤ほどの強豪が見落とすのだから、ほとんどの観戦者にはもちろん、どちらの形勢がいいのかは、すぐにはわからない。しかし進められてみればなるほど、藤井の反撃は思いのほか厳しかった。  優位に立ってからの藤井は、まったく誤るところがない。最後は斎藤玉をきれいに詰め上げて、114手で快勝を収めた。  藤井は表彰式で賞金500万円のプレートを受け取った。22年における藤井の獲得賞金・対局料の総額は、いずれ公式発表される。1億円を超えるのは間違いない。これほど稼ぐ20歳は、そうはいないだろう。  くしくも、というべきか。藤井は今期2回戦で、これまでの最年少優勝者だった羽生と当たった。将棋史を代表する2人のドリームマッチは、67手という短手数で藤井が勝利を収めた。  残された棋譜をさらっとたどってみると、藤井が完勝を収めたようにも見える。しかし一手でも間違えれば、途端に逆転する変化は随所にひそんでいた。将棋は勝ちきるまでが難しいゲームのはずだ。しかし若い頃からの羽生と同様に、現在の藤井もまた、難しいはずの将棋をいとも簡単に勝ちきったように見せることがある。 ■王将戦で藤井vs.羽生 「将棋史上最強」と呼ばれる羽生であっても、50代に入る前後からは、かつてほどには勝てなくなった。すべての大棋士がこれまでたどってきた道である。 「現在五冠の藤井竜王と、無冠の羽生九段の対戦は今後、ほとんど見られなくなるのでは」 「羽生九段のタイトル通算100期獲得は、現実的にはもう難しいだろう」  そう危惧するファンや関係者も増えてきたかもしれないところで、羽生がまた一つ、とてつもない偉業を達成した。11月22日。王将戦挑戦者決定リーグ最終戦で羽生は豊島将之九段(32)に完勝を収め、王将位を持つ藤井への挑戦権を獲得した。渡辺名人、永瀬王座ら現役タイトルホルダーをも含むメンバーを連破して、史上最年長52歳での王将リーグ全勝達成とは、まったく恐れ入るよりない。  かくして多くのファンが待ち望み続けてきたタイトル戦が実現した。藤井が防衛し、羽生以来となる全冠制覇への道を歩み続けるのか。それとも羽生がタイトル100期を達成するのか。将棋史に残るであろうドリームマッチ・第72期王将戦七番勝負は年明けの1月に開幕する。(ライター・松本博文) ※AERA 2022年12月5日号
藤井聡太
AERA 2022/11/29 11:30
藤井聡太ブームで注目の将棋教室 「3手思考」が子どもを成長させる「三つの心」に効く理由
藤井聡太ブームで注目の将棋教室 「3手思考」が子どもを成長させる「三つの心」に効く理由
「経堂・ちとふなこども将棋教室」で指導するプロ棋士の高野秀行六段(写真中央)。著書に『こどもをぐんぐん伸ばす「将棋思考」』などがある(撮影/写真映像部・高橋奈緒)  9×9の81マスには、膨大な「選択肢」が含まれている。考えて、判断して、振り返る。将棋の基本は、子どもを成長させる。AERA 2022年4月18日号では、将棋が導く「思考力」と「人間力」を特集。 最適な一手を導き出す決断力の大切さとは――。 *  *  *  パチッ。パチッ。将棋の駒音だけが響く、静かな室内。  3月下旬、「経堂・ちとふなこども将棋教室」(東京都世田谷区)を訪ねた。この日開催されていたのは、大会出場や棋力向上を狙う子どもたちに向けて1on3で個別指導を行う、月1回の少人数レッスン。盤面の前に座る小学生3人に囲まれたプロ棋士の高野秀行六段(49)が、順々に3人を相手にしながら指導対局を行っていた。  新小学5年生の男の子が、次にどう指すか困っていると、高野さんが優しく声をかけた。 「振り返りをしてみようか?」  男の子が不利になった場面にまで盤面上の駒を戻し、高野さんは戦局を立て直すために再チャレンジを促した。 「最初、矢倉(守りを固める自陣の王将の囲い方の一つ)をよく組めていたよね。その後、先生の『歩』で『金』を取られちゃいました。じゃあ、ここを立て直すにはどうしたらいい? 考えてみよう」  高野さんはそう言い残して、別の生徒の方へ移った。そこから男の子は、深い集中モードに入っていく。男の子は自分でベストだと思う手を見つけるまでに、2分ほど熟考していた。  パチリ。男の子が指し手を進めると、高野さんが戻ってきて「いい手だね。その調子」と褒めた。男の子は安堵の表情を浮かべた。 コロナ前はパンク寸前  世は、藤井聡太ブームである。  こども将棋教室を主宰して14年目になる高野さんのところにも入会を希望する子どもたちが殺到し、新型コロナウイルス感染症が流行する前は、一時期教室が「パンク寸前」の状態になったこともあったという。  この日、レッスンを受けていたもう一人の生徒で、川崎市に住む新小3の青木淳平くんは、藤井聡太の連勝記録をテレビで見てから5歳の時にルールを覚えた。高野さんの教室に通い始めたのは1年前。地域の子ども大会で高学年の出場者を破り、優勝した経験もあるという。 小3の青木淳平くんは、指導する高野さんが巡回するのを待つ間も背中がピッと伸びていて、駒台の駒の並びも綺麗。集中を切らさなかった(撮影/写真映像部・高橋奈緒) 「もう一つ習っているサッカーは何時間もやると体が疲れるけれど、将棋はいくらやっても疲れないし楽しい」(淳平くん)  母親の絵美さん(44)は、将棋に取り組むようになってからの淳平くんの変化をこう話す。 「集中力がついたのと、毎日やることを自分で決めて実行できるような習慣がついたことですね。『詰将棋がいいと先生が言っていたから』と自分で計画表を作って、解き終わったら『お母さん、ここにハンコを押して』って。目標を少しずつ自分で決めて達成する中で、級が上がったり、大会で成績を伸ばしたりして、自信もついていっているのかなと思います」  将棋が子育てに役立つポイントとして、プロ棋士や指導者たちが真っ先に挙げるのは、子どもの「自立心」が育めるということ。藤井聡太五冠も小中学生時代、将棋の教室に通いながらも、自宅で棋譜を見たり、気になった局面を盤に並べたり、詰将棋を解いたり、将棋ソフトを相手にしたりと、一人で研究しながら学んでいたことを師匠の杉本昌隆八段は著書『弟子・藤井聡太の学び方』で記している。  先の高野さんは、長い人生を生き抜く自立心を育むのに、将棋ほど貴重な体験はないと語る。 すべてセルフジャッジ 「たとえばスポーツの試合なら、監督やチームメイトから助言をもらうこともできますが、将棋の対局はすべてセルフジャッジ。自分で考えて、決断して駒を動かす。その連続です。最初から最後まで一人でやり抜かなければならない。その結果としての勝敗を毎回受け入れ、悔しさを覚えたり達成感を味わったりする中で、子どもは自然と自立していくんですね」  高野さんは、将棋が子どもの成長を育む「三つの力」として「自立心」のほか、「決断力」や「思いやりの心」も挙げる。 「決断力」とは、多くの情報から選んで決める力だ。9×9マスから選んで指す初手から終局までのパターンは、10の220乗にも上る。高野さんは、膨大な選択肢がひしめく中で一手を選ぶのは「プロでも容易ではない」が、世の中に決断力が求められるシーンは、今後ますます増えていくだろうと予想する。 「将棋でも、AIで評価値がつく時代。中継で観ている人たちが優勢なのか劣勢なのかを知る手がかりとしたり、棋士たちが普段の研究で参考にしたりしています。けれど、勝負をする相手は人間であり、AIが示す評価値は『正解』には決してならない。根拠を検証するのも、あくまでも人間です。人間が今までよりもっと自分で考えて、決断しなきゃいけない時代になっていくと思います」 「思いやりの心」が育める理由として高野さんは、 ◯最初の「お願いします」の挨拶◯負けた側が敗北を認めて「負けました」と頭を下げる負けの宣言◯終礼「ありがとうございました」  という将棋ならではの基本マナーを挙げる。 「3手」で手損の計算 「小さい子でも、負ける悔しさを何回も味わううちに、相手の気持ちもわかるようになるから、勝った、勝ったと相手の前ではしゃがなくなる。簡単には勝てない相手と勝負したがるようになる。すると、『負けました』と言えるようになり、その後、いい勝負が出来たことへの感謝として、『ありがとうございました』という言葉が自然と出てくる。子どもの成長のステップがまた一段上がるんです」  家庭でも「三つの力」を身につけるのにいい方法は? そう尋ねると、高野さんは、将棋特有の「3手思考」のトレーニングが有効だと答えた。 「3手思考」の基本(AERA4月18日号から) 「将棋の場合、自分、相手、自分と、お互いの指し手を三つ先まで読む『3手の読み』が最も基本の考え方です。一つひとつの選択に、必ず理由をつけて考える癖をつけるといいですよ」 「3手思考」のトレーニング方法としては、定番の詰将棋のほか、先々に自分が得になるのか、不利になるのか、勝敗に影響する「手損の計算」をする方法もある。お互いの力関係を計算する手がかりになるのが、自分と相手の「持ち駒」の強さだ。  持ち駒が、どちらも「歩」の場合、勝負はイーブンに。一方、相手に渡したのが「銀」なのに対して自分の持ち駒は「歩」の場合は、自分が劣勢になる。なぜなら歩は1マスしか進めないのに対して、銀は五つのマスに進められる。つまり「歩よりも力が勝る」ためだ。 セルフジャッジの連続が子どもを育てる(撮影/写真映像部・高橋奈緒)  「このように攻め方を3手ずつ先読みしてみて、どちらの場合の方が得かなと。1手だけじゃなくて、3手先のことまで考えて動かしてもらいたい。駒を取って安心しないで、取った駒の『力関係』のところまで考えて先を読んでもらえると、グンと強くなる。何度も頭の中でシミュレーションすることが、3手思考のよいトレーニングになります」(高野さん)  とはいえ、あまりにも選択肢が多いと、子どもは混乱状態に陥ることもある。学び始めは、選択肢を絞ることも有効だという。あらかじめ「捨ててもいい選択肢」を決める手伝いを大人がしてあげればいい。 いい取捨選択の心掛け 「たとえば美濃囲いや矢倉囲いのような囲いを作るというのも方法の一つ。囲いが完成した場所は、しばらく放っておいても守りが強固だから、そのゾーンでの展開はしばらく考えなくてもよくなる。いい取捨選択は、いい人生を創る。競技上の選択でも、人生でも同じですよね」  高野さんは、実感を込める。  自分、相手、自分。交互に目配せして向き合う3手思考は、日常のコミュニケーションに似ている。高野さんが続ける。 「将棋は、盤を挟んだコミュニケーション。ある時、将棋教室で相手に焦れる小さいお子さんを傍で見ていた高学年の子が、『待つのも将棋だよ』と声をかけていたことがあった。今、そういうコミュニティーの場が減っていますが、長い目で人生をみた時に、子どもの将来に効いてくるのは、互いの立場に立ってものを考える人間力。将棋で大事なのは、そこだと私は思っているんです」 (ノンフィクションライター・古川雅子) ※AERA 2022年4月18日号
将棋
AERA 2022/04/16 11:30
「まだ森林限界の手前、頂上はまったく見えない」 藤井聡太にとって将棋の頂点とは
松本博文 松本博文
「まだ森林限界の手前、頂上はまったく見えない」 藤井聡太にとって将棋の頂点とは
王将戦第4局で渡辺明王将に勝利し、感想戦で対局を振り返る藤井(代表撮影)  図抜けた強さで将棋界の記録を更新する藤井聡太。名実ともに、将棋を指す人類の頂点に立つ。それでも「頂上が見えない」と言う。その真意は何なのか。AERA2022年2月28日号の記事を紹介する。 *  *  *  1996年2月14日。羽生善治現九段(51)は史上初めて全七冠制覇を達成した。藤井新王将誕生と同じ時節なのは偶然ではなく、羽生もそのとき、4連勝のストレートで王将戦七番勝負を制していた。  藤井の現在の実力を前提として考えれば、五冠達成はなんら不思議ではない。この先、八冠になったとしても同様だろう。将棋界の歴史をたどってみれば、図抜けたトップが第一人者として君臨する時代が長い。藤井以前に五冠を達成した大山康晴十五世名人(故人)、中原誠十六世名人(74)、羽生の例を見れば明らかだ。  将棋界の覇者たちは、楽に勝ち続けたわけではない。同時代にはライバルがいて、熾烈(しれつ)な争いを繰り広げてきた。そしてわずかの差で勝負を制し、実績では大きな差をつけていった。  藤井は現在、名実ともに、将棋を指す人類の頂点に立つ。どれだけタイトルを保持するかを目的とするならば、藤井はすでに世界の半分以上を手に入れたことになる。しかし藤井が求めて願うものは違う。  富士山でいえば、何合目ぐらいに登っているイメージがあるか。藤井は記者会見でそんな質問をされた。ありふれた問いかけと言っていいだろう。対して藤井の回答が話題を呼んだ。 「将棋というのはとても奥が深いゲームで、どこが頂上なのかというのもまったく見えない」 「頂上が見えないという点では森林限界の手前というか、まだまだやっぱり、上のほうには行けていないのかなとは思います」  富士山では5合目あたりから樹木が生えなくなる。それが森林限界だ。多くの人から見れば、藤井はすでに目もくらむような高みにいるように感じられる。しかし藤井本人の意識からすれば、現在の場所はまだ山の中腹の深い森の中。将棋の真理という頂点ははるかかなたの見えない先にある、というのだろう。 AERA 2022年2月28日号より  藤井に見えている景色は、藤井の頭の中にだけ存在する。それがどれほどの絶景であったとしても、私たち観戦者はそれをのぞいては見られない。仮に見られたところで、その美しさを理解し感じることもできないのかもしれない。藤井が残す棋譜によって、いくらかその一端を感じるだけだ。 ■升田幸三の理想主義 「森林限界の手前」という藤井のコメントを聞いて、オールドファンなら思い起こす升田幸三の故事がある。まだ「指し込み」の制度があった当時の王将戦で大山名人を圧倒し、1957年、当時のタイトル三冠をすべて制覇したときの揮毫(きごう)だ。 「私も、まだまだまだ将棋、わかっとらんですよ。だからぼくは、三タイトルとったり、名人を香落ちに指しこんだりして勝ったときに書いたのが、 ──たどりきて未(いま)だ山麓 という言葉でしたよ」 (升田幸三『勝負』)  升田は大山に巻き返され、その天下は短かった。しかしいまなお升田が残した棋譜と、升田が掲げた理想主義的な精神は、将棋界に多大な影響を与え続けている。 AERA 2022年2月28日号より  2019年。タイトルを取る前の藤井(当時七段)はニコニコ生放送において、将棋の神様が100わかっているとすれば、自分はどれぐらいわかっているか、と尋ねられた。 「いやいや、全然わかんない。1以下です」  その思いは五冠となったいまも変わらないのだろう。(ライター・松本博文)※AERA 2022年2月28日号より抜粋
藤井聡太
AERA 2022/02/25 11:00
史上最年少五冠にチャレンジ決定 四冠を達成したばかりの藤井聡太 渡辺明王将と対決へ
松本博文 松本博文
史上最年少五冠にチャレンジ決定 四冠を達成したばかりの藤井聡太 渡辺明王将と対決へ
藤井聡太は小4のとき、クラスの文集に「名人をこす」と記した。竜王を含む四冠となり、席次の上では名人を超え将棋界の頂点に立った(代表撮影)   藤井聡太が竜王戦七番勝負で4連勝を飾り、史上最年少の19歳で四冠を達成した。名人と並ぶビッグタイトルの竜王獲得で将棋界の席次も1位に。「藤井時代」がついに到来した。渡辺明王将への挑戦も決まり、次は史上最年少五冠を目指すことになる。 *  *  *  あえて、われらが藤井聡太、と書こう。  若き国民的スーパースター藤井は今年度、竜王戦の挑戦者となった。そして秋に開幕した七番勝負で、王者・豊島将之(31)を相手に4連勝ストレートで竜王位を奪取。史上最年少の19歳でタイトル四冠同時保持者となり、将棋界の席次は1位に。われらが藤井聡太は、名実ともに将棋界の頂点に立った。 「将棋史に残る戦いにふさわしい名局でした」  渡辺明名人(37)は、藤井新竜王が誕生した第4局(11月12、13日)をそうたたえた。藤井の節目の勝局が毎度のように「名局」と言われるのは盛り過ぎでもなんでもない。現実にそうなのだから、仕方がない。 ■「藤井曲線」とはならず  本局、先手番の豊島は得意の角換わりを選んだ。しかし序盤からポイントを積み重ね、中盤で優位に立ったのは藤井だった。 「先手番で作戦があまりうまくいかなかった」  短手数で敗れた第2局と合わせて、豊島はそう振り返った。  通算勝率8割4分を超える藤井は多くの場合、形勢を少しずつ広げてそのまま勝つ。コンピューター将棋ソフト(AI)が示す評価値をグラフにすれば、俗に「藤井曲線」と呼ばれる右肩上がりの図が示される。しかし本局はそうならなかった。豊島はギリギリのところで踏みとどまって巻き返す。  104手目、藤井は自陣の危険を承知の上で、相手陣に飛車を成り込み、豊島玉に迫った。もはやどちらが勝ちかはわからない。持ち時間8時間のうち、残りは藤井9分なのに対して、豊島は2時間29分。これは豊島の勝ちパターンだ。今年度に入って藤井が勝ち越すようになったとはいえ、最初は豊島が藤井を圧倒していた。豊島がそれまでの棋士人生で、タイトル戦でストレート負けを喫したこともない。本局は豊島が勝ち筋を見つけ、逆転でカド番をしのぐのかとも思われた。 1987年に創設された竜王戦は、大棋士たちにとっての「登竜門」。藤井聡太、羽生善治は19歳、渡辺明は20歳の若さで竜王位に就いた  豊島は盤に向かって、こんこんと読みふける。しかし明快な勝ち筋が見つからない。 「将棋の終盤は悪手の海」  とも言われる。分岐まで含めれば、人間にとっては無限とも思われる変化の中で、正解はただ一つしかないという場面が現れるのが将棋の難しさだ。  考えること1時間39分。豊島は意を決して指し進めた。その先の変化で、桂で藤井玉に王手をかけるか、王手をかけずに相手の角を取るか。運命を決する選択で、豊島は前者を選んだ。この瞬間、将棋史は新たなステージに進むことが決まった。  残り時間がほとんどない藤井は、その先、一切の手順を間違えることがなかった。終局後、渡辺名人をはじめ多くの棋士が驚いた通り、豊島玉はあらゆる変化でぴったり詰んでいた。それを藤井は読み切っていた。 「三桂あって詰まぬことなし」  という有名な言葉がある。その由来は諸説あるが「算計」や「三計」などにひっかけていると言われる。要するにダジャレの類いであり、現実には使いづらい桂馬が3枚あっても、相手玉は詰まないことが多い。しかし天才藤井は違う。本局、最後の詰み手順の変化で、藤井からは使いづらいはずの桂3枚を見事に使い、禁じ手の「打ち歩詰め」を回避する順まで現れる。 「三冠あって詰まぬことなし」  と言うべき場面だった。 ■フィクションを超えた 「藤井の存在はあらゆるフィクションを超えている」  そう言われるようになって久しい。藤井が意識せぬうちに生み出していく、数々の記録はまさにそうだ。しかしそれだけではない。藤井がライバルたちと盤上で紡いでいく棋譜は、どんなフィクションよりも劇的だ。  藤井は盤も見ず、がっくりとうなだれたようにうつむく。顔をしかめるように、目をつむる。藤井が勝ちを意識して、感情を表すのは珍しい。しかしそれは勝ちを目前とした者の姿のようには見えない。 「99% 藤井聡太三冠」  中継画面の形勢表示がなければ、どちらが勝勢なのか、ほとんどの人にはわからないだろう。 ■「すーん」ではなかった  昨年度最高の名局に選ばれた棋聖戦五番勝負第1局。タイトル戦初陣の藤井七段(当時)は「現役最強」の呼び声が高かった渡辺明棋聖を相手に、劇的な終盤を制して乗り切った。渡辺の妻で漫画家の伊奈めぐみは、藤井の落ち着いた様子を「すーん」という擬音を使って描いた。本局の終盤で見せた藤井の様子は「すーん」ではなかった。藤井もまた決して「神」などではなく、「人の子」だ。  万感の思いは静かに去っていったのだろうか。122手目。藤井は冷静な手つきで金を打ち、豊島玉に王手をかけた。  最後、完全に詰まされてしまうところまで進めないのは、400年来変わらぬ、上級者のたしなみである。豊島は居住まいを正し、次の手を指さず、美しい終局図を残して投了した。 「実力不足を痛感したので、実力をつけていかないといけないと思います」  王位戦、叡王戦、そして竜王戦と続いたタイトル戦を振り返って、豊島は静かにそう反省した。一方で藤井はどうか。 「実力が足りないというのは一局指すごとに感じることで。対局ごとにうまく判断できない局面があるので、そういう局面を減らしていかないといけないと感じています」  言葉だけを聞けば、どちらが敗者だかわからない。盤上の真理に謙虚に向き合う者だけが、この世界では生き残っていく。  2017年。藤井四段(当時)がデビュー以来無敗で29連勝し、最初のフィーバーを巻き起こした頃。筆者はあるベテランの名棋士に、藤井について尋ねた。 「いまの段階でタイトルをいくつ取っても、まったくおかしくありません」  自分にも他者にも厳しく、とりわけ若手に対してめったに甘いことを言わないその棋士は、藤井の図抜けた才能を激賞した。藤井は14、15歳の段階で、すでにトップに匹敵する実力の持ち主だった。 ■羽生も10代で竜王獲得 「藤井聡太が竜王になるまで、あと4年かかりますよ」  17年に戻って当時の人々にそう告げたとすれば「あの藤井でもそんなにかかるのか」と思われるかもしれない。  1989年。10代にしてすでに図抜けた実力の持ち主であった羽生善治(51)がついに初タイトル挑戦を決めた際、河口俊彦八段(故人)はこう記した。 「あえて、我等が羽生、と書こう。羽生善治五段が、竜王戦の挑戦者になった。(中略、15歳で四段デビューし)それから約4年で、棋界最高の位に手をかけた。十代でタイトル戦出場は、史上初のことである。私の感じでは、ようやく出て来てくれたか、であるが、記録を見ると、けたちがいに早い出世と判る」(河口俊彦『一局の将棋 一回の人生』)  羽生もまた、藤井と同じ19歳で竜王位を獲得した。将棋界を知らない人にとっては驚嘆すべき早い出世に見えるかもしれない。しかし羽生や藤井が盤上で表すまばゆいばかりの才能を感じ、将棋の天才が生きる時間軸を想像できたとすれば、決して早いとも感じないだろう。  天才の周りでは、異次元のスピードで時間が過ぎていく。11月19日、藤井が王将挑戦権を獲得し「史上最年少五冠」へのチャレンジが決まった。羽生善治が奇跡の全七冠制覇を達成したように、8大タイトル制となった現在、藤井聡太もまた、着実に全八冠制覇への道を歩み続けている。 (ライター・松本博文)  ※AERA 2021年11月29日号を一部改変
AERA 2021/11/20 08:00
藤井聡太棋聖「完璧に指せた将棋は一局もない」「強くなることで違う景色を」と思い吐露 記録に興味がない理由も語る
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藤井聡太棋聖「完璧に指せた将棋は一局もない」「強くなることで違う景色を」と思い吐露 記録に興味がない理由も語る
藤井聡太棋聖 (c)朝日新聞社  棋聖戦五番勝負で渡辺明名人を破り、初防衛を果たした藤井聡太棋聖。これにより、史上最年少のタイトル防衛と九段昇段も達成したが、当の本人はそうした記録にはあまり興味がない様子。その裏には、どんな思いがあるのか。AERA 2021年7月19日号で取材した。 *  *  *  2005年。渡辺は竜王2期の昇段規定をクリアし、史上最年少21歳7カ月で九段になった。 「それが破られると、自分が持っている最年少系の記録は全滅します」  渡辺は自身のブログにそう記していた。皮肉にも渡辺は藤井に敗れ、記録更新を許した。  改めて藤井が達成した史上最年少記録について確認してみよう。藤井は16年、14歳で史上最年少四段。20年、17歳で史上最年少タイトル挑戦・獲得を達成。18歳で王位を奪取し史上最年少二冠。タイトル通算2期で史上最年少八段。そして今回棋聖位を防衛し、18歳で史上最年少タイトル防衛。さらにはタイトル通算3期で史上最年少九段となった。  段位は将棋界における実績を表す。難関の奨励会(棋士養成機関)を抜けると新人四段。順位戦で棋界トップ10のA級に昇級すれば八段となる。「A級八段」は戦後ずっと一流棋士の代名詞だった。加藤一二三九段(81)が18歳という途方もない若さでA級八段になったときには「神武以来の天才」と称賛された。  九段ともなれば功成り名遂げた大家だ。30歳前後で八段に昇段し、その後は規定のタイトル数を獲得するか、あるいは250勝をあげれば九段に昇段する。そこまで達成できれば棋士としては大成功者と言ってよい。  時代が進むにつれ、昇段条件は増え、若干ゆるやかになった。それでも藤井が達成したタイトル2期八段、3期九段は厳しい条件である。  18歳はまだ大学1年の年齢。それが九段となれば、18歳で有名教授になったようなものだ。一般的な段位として、九段の上には何もない。タイトル七つの永世称号を持ち「史上最強」と言われる羽生善治(50)であっても段位は九段だ。藤井はデビュー5年も経たずその階段を上りつめてしまった。14歳四段とともに18歳九段もこの先、破られる可能性はほとんどないだろう。 ■受け継がれた求道精神  記録にあまり興味がないのはなぜか。そんな問いに、藤井はこう答えた。 「結果ばかりを求めていると、逆にそれが出ないときにモチベーションを維持するのが難しくなってしまうのかな、というふうにも思っているので。結果よりも内容を重視して、やっぱり一局指すごとに改善していけるところというのが新たに見つかるものかな、と思うので。やっぱりそれをモチベーションにしてやっていきたいというふうに思っています」  さらに続けてこう言った。 「これまで公式戦で200局以上あったかと思うんですけど、その中でも完璧に指せたな、という将棋は一局もないですし。自分が強くなることで、いままで見たことのないような局面にも出合えるかなというふうにも思っているので。強くなることでやっぱりそういった、いままでと違う景色を見ることができたらな、というふうには思っています」  将棋史上最高の天才かもしれない藤井にして、この謙虚さがある。筆者は木村義雄十四世名人の言葉を思い出した。藤井の師弟関係を上にたどっていくと、4代前には木村の名がある。木村は著書『勝負の世界』にこんな言葉を残している。 「私はこれまで、おそらく1300番を越える公開対局をやっている。が、その中で『お前が後世に残して恥ずかしくないと思う棋譜は何局あるか?』と尋ねられると、私は残念ながら一局もないと断言せざるを得ない」  木村の求道者精神は、時を経て藤井に受け継がれたと言ってよさそうだ。木村は戦前から戦後にかけて無敵を誇り「常勝将軍」と呼ばれた。玄孫弟子の藤井は間違いなく新時代の覇者となる。それは約束された未来であって、あとは時間の問題に過ぎない。ただしそれは、藤井にとっては興味のない話だろう。  藤井はこのあと、王位戦七番勝負の防衛戦が続く。さらには叡王戦五番勝負での挑戦も控えている。王位戦第1局では苦手の豊島将之竜王・叡王(31)に完敗した。藤井はここからどう巻き返していくのか。豊島は高い壁であり続けるのか。そしてまた、新たな名局は生まれるのか。ファンの興味は尽きずに続いていく。(ライター・松本博文) ※AERA 2021年7月19日号より抜粋
AERA 2021/07/17 11:30
藤井聡太棋聖、タフなダブルタイトル戦乗り越えれば…「藤井時代」到来? 「19歳で将棋界の第一人者」の可能性も
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藤井聡太棋聖、タフなダブルタイトル戦乗り越えれば…「藤井時代」到来? 「19歳で将棋界の第一人者」の可能性も
藤井聡太棋聖 (c)朝日新聞社 谷川浩司(たにがわ・こうじ)/1962年生まれ。76年、14歳で四段昇段。83年、史上最年少の21歳で名人就位。97年、十七世名人資格取得(撮影/写真部・高野楓菜)  藤井聡太棋聖(18)が、棋聖戦五番勝負で渡辺明名人(37)に2連勝した。初防衛に王手をかけた形だが、この後、藤井棋聖には王位戦七番勝負も待っている。ダブルタイトル戦というタフなスケジュールを乗り越えた先には、「藤井時代」の到来も見えてくる。AERA 2021年7月5日号では、十七世名人資格者の谷川浩司九段(59)に、藤井棋聖の今後の展望などを聞いた。 *  *  *  29日には藤井王位に豊島将之竜王(31)が挑戦する王位戦七番勝負が開幕。藤井は「ダブルタイトル戦」に臨むことになる。以下は棋聖戦開幕前にインタビューした際の谷川の言葉だ。 「初防衛を目指す側は重圧がかかります。過去の成績を見ても初防衛戦で番勝負を制する確率は3割ぐらいだそうです。しかし藤井さんは重圧など感じず、これまでどおり自然体で臨むでしょう。挑戦者のほうが本来気持ちは楽なはず。とはいえ今回は年上の渡辺さん、豊島さんのほうに重圧がかかるのではないでしょうか。将棋界全体の流れでいえば、これから『藤井時代』が訪れるのかどうかをうらなう二つのタイトル戦です。もし藤井さんが二つとも防衛すれば、それ以降はタイトルを増やす戦いになる。そうすると19歳、20歳で将棋界の第一人者になることもありえるでしょう」 ■タイトル四つが必須  谷川が唱える第一人者の定義はかなりハードルが高い。 「(別格の)竜王か名人、どちらかを持った上で、タイトル四つは必要と考えます」  現在、将棋界のタイトルは全部で8。それが7の時代に谷川は四冠となり、厳しすぎる条件をクリアした。そして現在、渡辺もまた棋聖位を獲得すれば初の四冠となる。逆に「渡辺時代」が来る可能性もあるのか? 「そういうことになりますかね。ただ、ある程度は長く続けなければいけない。私の四冠は半年ほどの短いものでした。渡辺さんは30代後半に差しかかっているので、本人もタイトル四つ取って一安心はできないと思います。一方で(まだ18歳と若い)藤井さんが四つ取れば、けっこう続くのかなと思います」  もし藤井が今年度、竜王挑戦、獲得を果たせば、本格的な藤井時代の到来といえそうだ。  一方で藤井が最短で名人になれるのは2年後。制度上、順位戦でB級1組、A級と駆け上がる必要がある。谷川は史上最年少の21歳で名人となった。その記録更新を言及されることについては、どんな心境だろうか。 「割合早くに可能性がなくなってしまうのも寂しい。でも藤井さんがA級に上がり、そこで勝ち進む状況になると、複雑な心境になるだろうな、とは思いますね。そうは言っても今期も大変ですし。A級に上がったとしても、当然メンバーは手厚い。藤井さんといえど、そう簡単ではないと思います」 ■過密日程の先に栄冠  谷川や羽生善治九段(50)らタイトル戦に多く登場する超一流棋士たちにとって、ハードスケジュールは宿命。今回の藤井も同様だ。 「藤井さんはダブルタイトル戦で、去年も同じような感じです。私の頃も当然過密スケジュールはありました。今から30年前の1991年、29歳のときに2カ月で25局指したこともあります。ただ現在は対局前の準備が非常に大事になってきました。30年前はまだコンピューターのデータベースもなく、棋譜は紙に書かれたもの。過密日程の中、対局前の準備はおおまかに作戦を決めるぐらいでした。序盤戦は五分に進め、戦いになればなんとかなると思っていました」 「光速流」と呼ばれる谷川の終盤力は古今屈指だ。四冠時代の谷川は羽生らの強敵を相手にすさまじい切れ味を見せた。 「当時、自分が一番将棋に打ち込んでいるという自負はありました。戦いを五分で迎えられれば、終盤戦も自信がありました。しかし現在のトップクラスは、戦型によっては戦いが進んだかなり先のところまで準備しなければいけない」  王位戦のような2日制のタイトル戦も様相は変わった。 「昔はとてもゆるやかでした。1日目の朝にちょっと疲れていても、対局しながら休養を取り、2日目は元気いっぱい、ということもありました(笑)。いまは1日目から神経をすり減らすような戦いになります」  コンピューター将棋ソフト(AI)の登場などにより、将棋界も大きく様変わりした。過去と現在、どちらのほうが大変か。 「一般的に対局の持ち時間は30年前よりも短くなっています。一方で前日、前々日、準備に必要な時間は圧倒的に増えた。いまの研究は始めてしまうとキリがなく、どこでやめればいいのかが難しい。昔であれば、対戦相手の棋譜を調べればそれで一区切りでした。いまはAIにかければ、いくらでも課題が増えてきます。昔といま、どっちが大変なのかは、よくわかりません(笑)」 (ライター・松本博文) ※AERA 2021年7月5日号より抜粋
AERA 2021/07/03 07:00
「女流棋界のレジェンド」蛸島彰子が多くの人から慕われる理由
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「女流棋界のレジェンド」蛸島彰子が多くの人から慕われる理由
たこじま・あきこ/1946年3月19日生まれ。75歳。女性初の奨励会員。女流棋士第1号。初代女流名人。2018年、現役引退。現在は日本女子プロ将棋協会(LPSA)特別相談役。愛称は「タコちゃん」(撮影/写真部・東川哲也)  AERAの将棋連載「棋承転結」では、当代を代表する人気棋士らが月替わりで登場します。毎回一つのテーマについて語ってもらい、棋士たちの発想の秘密や思考法のヒントを探ります。渡辺明三冠(名人、棋王、王将)、森内俊之九段(十八世名人資格者)に続く3人目は、「初代女流名人」の蛸島彰子女流六段です。6月14日号に掲載したインタビューのテーマは「影響を受けた人」。*  *  *  2018年。「女流棋界のレジェンド」とたたえられ、数々の偉大な記録を残してきた蛸島が、静かに競技生活を終えた。現在は75歳。悠々自適な生活を送っている。 「友達から『まだ若く見えるわよ』って言われて、いい気分で帰り道、電車に乗ったら若い方から席を譲られて……。やっぱりいい年に見られるんですね(苦笑)」  将棋界のプロ制度には主に二つの枠組みがある。一つは羽生善治九段(50)、渡辺明名人(37)、藤井聡太二冠(18)らが活躍する「棋士」の世界。もう一つは現在、里見香奈女流四冠(29)、西山朋佳女流三冠(25)らがトップを占める「女流棋士」の世界だ。蛸島は「棋士」を目指した女性のパイオニアであり、また「女流棋士」の第1号だ。オールドファンは若き日の蛸島が毎週日曜日、NHK杯で棋譜読み上げをしていた姿も思い出すだろう。 「年上の(男性棋士の)先生方から『タコちゃん、タコちゃん』って呼ばれていたのは、つい昨日のことのような気がします。気がついたらいつの間にか、将棋界では自分が最年長になっていました」  蛸島は初代女流名人。後進からは仰ぎ見られるような「大先生」だ。しかし、本人は気さくで、威張るようなところは一つもない。そうした人柄もまた、多くの人から慕われた。現役生活を引退した現在も普及活動に携わり、アマチュアの指導を続けている。 「いまはコロナでちょっとお休み中ですけれど、将棋教室は45年ぐらい続けています。もう亡くなった方もおられますが、まだ3人ぐらいの方が続けておられます。お互いに『誰かがダメになるまでやろうね』って言って(笑)。教室に初めて来られる女性はほとんどが初心者です。駒の動かし方を知らない方も大歓迎です。お友達同士で指すようになったり、それから大会に出るようになったり。自然に輪が広がっていく感じです。将棋と長く付き合うことができる仲間ができます」 蛸島彰子は高1のとき、女性で初めて棋士養成機関の奨励会に入会した。一方、女子高では将棋部を立ち上げてコーチ役を務め、多くの部員に駒の動かし方から教えた(c)朝日新聞社  蛸島は将棋を指す女性として、誰よりも長い道のりを歩んできた。しかし、自ら過去を振り返ることはあまりない。 「新しく気になることがあると、すぐ眠れなくなるようなタイプですけど、『あそこでひどい目に遭った』とか『素晴らしいことがあった』とか過去を回想することは少ないです。女子校のお友達同士で高校時代の話をして『ああ、そうだったね』というのはありますけどね。40代で子供が大きくなり、育児が一段落してから、九州や東北に1泊のバス旅行をしたりしています」  東京・日出女子学園(現・目黒日大)高在学中に将棋部を作り、自らは指導者になった。おそらくは日本初の女子校将棋部だ。学校は楽しかった。しかし、棋士の養成機関である奨励会ではつらいことも多かった。 ※AERA2021年6月14号より一部抜粋 (構成/ライター・松本博文)
棋承転結
AERA 2021/06/14 18:00
将棋界の新星「ポスト藤井」は小学6年生 世界的数学者の父から「数学脳」を継承
将棋界の新星「ポスト藤井」は小学6年生 世界的数学者の父から「数学脳」を継承
喫茶店で山下数毅君が注文したのはココア。取材が終わると記者にはにかみながら手を振り、自転車で帰宅した/2020年11月7日、京都市内(撮影/編集部・大平誠)  藤井聡太フィーバーに沸いた2020年が終わり、次の展開が待ち遠しい将棋界。プロへの登竜門、奨励会では藤井二冠と同様の「小学生初段」が活躍中だ。AERA 2021年1月11日号では、「ポスト藤井」と目される期待の小学生に取材した。 *  *  *  高校生の藤井聡太二冠(18)が初戴冠、二冠奪取、八段昇進と最年少記録を次々と塗り替えた2020年が終わり、将棋界も新年を迎えた。藤井二冠と渡辺明名人(36)、豊島将之竜王(30)、永瀬拓矢王座(28)で8大タイトルを独占する4強時代が続くのか、ベテランの復権や新星の台頭があるのか、興味は尽きない。 ■数学脳+名伯楽の指導  そんな中、プロ予備軍の奨励会では、早くも「ポスト藤井」とも目される新たな才能が輝きを放ち始めている。  関西奨励会所属の小学6年生、山下数毅君(12)は20年2月に2級、8月に1級へスイスイと昇級し、10月には初段になった。小6で初段になったのは藤井二冠、豊島竜王ら過去に数人しかおらず、渡辺名人や羽生善治九段(50)ですら中学生になってからなので、傑出した才能と言えるだろう。  父の剛さんは京都大学数理解析研究所講師で、世界的な数学者。母の紀子さんも大手予備校「河合塾」で数学講師を務めるという「数学脳」の継承者でもある。  その山下君が紀子さんと一緒に、取材に応じてくれた。身長150センチ、半ズボンでランドセルを背負った姿は凛々しくもあどけない。5歳のころ、タブレット端末のパズルの中に詰将棋があり、駒の漢字に興味を覚えたのが将棋を好きになるきっかけだったという。ほどなく近所の将棋教室に通って実力をつけ、小4で名伯楽として知られる森信雄七段(68)の門下生に。奨励会にもこのころ入会した。  森七段は、羽生九段の好敵手ながら闘病の末29歳で壮絶な死を遂げた村山聖九段や、大阪大学大学院在学中に竜王位を獲得した糸谷哲郎八段(32)らトップ棋士を多数育てており、山下君はその弟弟子となる。  家族や親戚では、剛さんが趣味でチェスをするぐらいで、将棋をする人はいない。山下君は日々公立小学校に通い、帰宅して宿題、食事と入浴を済ますと、自分の決めた課題をこなすまでパソコンなどで将棋の研究に没頭しているという。 「将棋そのものが好きなようで、毎日コツコツと取り組んでいます。対局で負けて大泣きしたこともないし、勝敗を気にしていないように見えますね。本人は悔しがっているらしいんだけど(笑)」と紀子さん。 ■パソコン好きも共通項  山下君に今後の目標や好きな棋士を尋ねても、返ってくる答えは超然としている。 「棋士にはなりたいけど、あんまり考えていません。自分が強くなった実感もないし、初段になってからは相手が間違えてくれなくなりました。好きな棋士というか、大山さん(康晴十五世名人)の棋譜が好きです。受けが強くて崩れないところを見習いたいです」  得意な教科は算数で、星新一や江戸川乱歩の小説を読むのも好きだ。趣味はプログラミング。いまのパソコンのメモリーやCPU(中央演算処理装置)の能力にやや不満があるようで、紀子さんによれば暇があるとカタログを見比べて目を輝かせているという。パソコン好きといえば、藤井二冠も最新のCPUなどパーツを集めてモンスターマシンを「自作」している。メーカーやデザインではなく、もっぱら性能に興味があるところが2人の共通項だ。  師匠の森七段はこう話す。 「将来的には藤井二冠と戦える位置付けにはなってほしいし、私自身楽しみでもあります。しかし、期待値の高さはプレッシャーになったり逆に増長する原因にもなりかねないし、すぐに棋士になれるかといえばそんなに甘い世界ではありません」 (編集部・大平誠) ※AERA 2021年1月11日号より抜粋
AERA 2021/01/06 11:32
藤井聡太二冠を見続けた東大卒将棋ライターが語る、天才棋士の「思考力」とは?
藤井聡太二冠を見続けた東大卒将棋ライターが語る、天才棋士の「思考力」とは?
令和を代表する棋士になるであろう藤井聡太二冠(18)の表情には、まだあどけなさが残る。底しれぬ魅力に、みなが刮目する (c)朝日新聞社 AERA 2020年10月5日号より  一人の天才棋士が、将棋の見方を変えた。黙って盤を見つめ、言葉を交わすことのない棋士の「対話」に、私たちは魅せられる。AERA2020年10月5日号では、将棋と棋士の思考力について特集。その中からここではトッププロになる条件などを紹介する。 *  *  *  空前の将棋ブームである。  18歳になったばかりの天才少年・藤井聡太二冠(王位、棋聖)が牽引し、脇を固める実力者たちも個性が際立つスターが揃っている。雑誌やウェブマガジンで次々に特集が組まれ、ややもするとマニアックだった棋界と社会との距離が、確実に近づいている。 「将棋の奥深さを感じた」  王位のタイトルを獲得し、八段昇段を決めた翌日の8月21日、会見でそう語った藤井二冠。謙虚でありながら「まだまだ考えが足りないと思うところもあった」と自分自身を常に成長させる姿勢に、ファンならずとも「将棋」に魅せられる。 ■将棋文化の裾野広がる  だが、今の将棋ブームは降って湧いたものではない。地道な活動が結実したともいえる。  プロ棋士が所属し、タイトル戦などの大会や各種イベント運営を手がける日本将棋連盟が、「学校教育課」を立ち上げたのは2006年。東京都教育委員も務めた米長邦雄会長(当時)の肝いりで、伝統文化としての将棋を次世代に継承する目的で、学校教育への将棋導入推進事業を始めた。  小学校、中学校、高校を対象に申し込みに基づいてプロ棋士や女流棋士、指導棋士を派遣し、1校あたり年10回を上限に総合学習で将棋の歴史を学んだり、放課後やサタデースクール、部活動やクラブ活動など幅広い取り組みに対応してきた。申し込みは07年度の43校から順調に増え、16年度にいったん113校に落ち込んだものの17年度には170校に回復、昨年度も176校を数えた。 「派遣先は将棋会館のある東京、大阪を中心にした関東と近畿圏が主になりますが、これとは別にアマチュアの普及指導員が全国で千人以上フル活動していて、統計に表れない普及が浸透しています。小中学校の3人1組の団体戦も地方予選からの参加者が増えています」(将棋連盟普及課)  この事業は、新進棋士奨励会(以下、奨励会)のようなプロの養成に直結する活動ではなく、庶民の遊びである将棋の魅力を伝えることで文化の裾野を広げることが目的であり、期待に違わぬ成果が出ていると言えよう。  普及や教育の一方で、棋士に備わる「思考力」がどのように身につくのか、また学校の教科における学力との相関関係の考察はあまりない。要するに、地頭がいいから将棋が強いのか、はたまた将棋を続けることが学力向上につながるのか──。  これについて、将棋ライターの松本博文さん(47)は、こう説明する。 「棋士の才能はイコール年齢だと思っています。少なくとも6歳ぐらいまでに将棋を始めた、同世代の中で突き抜けた存在の『筋のいい子』が、時間が許す限り将棋に没頭することがトッププロになる条件。伸び悩む子もいるけど、最終的に残るのはそういう人です。棋士と学問の適性は別モノです」 ■早い段階であきらめる  たとえば、東京大学法学部を卒業した片上大輔七段(39)や、東京大学工学部から同大学院に進んで車の自動運転を研究している谷合廣紀四段(26)ら「東大出身棋士」は、ともにタイトル争いに絡んだ経験はない。  実は、松本さん自身も東大法学部を卒業し、在学中は将棋部で団体戦全国大会優勝戦に貢献するなど活躍した。それでも、「プロ棋士になろうと思ったことすらない」と言う。 「私は山口県下関市の出身で、将棋好きの祖父に教わり始めたのが小3の頃。たとえば私がアマチュア初段だった小6のころ、同い年で小学生名人戦で優勝した野月浩貴八段はアマチュア五段でした。高校全国大会で優勝した1学年下の少年に『プロ入りを考えたことは?』と尋ねたところ、『そんな夢は見ていられない』と首を振っていました」  松本さんは、子ども時代をそう振り返りつつ、続ける。 「だから、年下の藤井少年に勝てなかった子たちは、余計に早い段階で棋士をあきらめて方向転換をした例が多いと思いますよ。あれだけの才能を目の当たりにしたら、逆に将棋の強い頭のいい子たちは切り替えも早いので」  日本将棋連盟の会長を務め、数々のタイトルを獲得した先述の米長邦雄氏の「語録」として、棋界では有名な言葉がある。 「兄たちは、頭が悪いから東大に行った」  米長氏は4人兄弟の末っ子で、3人の兄はみな東大に進学。この言葉が本当に発せられたかどうか実は定かではないが、「米長語録」の一つとして知られるだけでなく、棋士を目指すことの難しさを象徴する言葉となった。 ■東大将棋部の猛者たち  では、松本さんも在籍した東大将棋部には、どんな猛者たちが集っているのだろう。 「麻布高校とか灘高校とか将棋の強豪高校出身者が多くて、たまに奨励会をドロップアウトして東大に入学した人も入ってきます。1年生のうちは結構人数が多いけど、最後まで残るのは学年に10人もいないですね。もちろんみんな強いので、団体戦7人のメンバーに入るのも大変です」  現役の東大将棋部は、今年の朝日杯オープントーナメントで谷合四段、上村亘五段(33)、佐藤秀司八段(53)を次々に破った天野倉優臣・学生名人(2年生)が在籍する黄金期で、団体戦では早稲田大学や立命館大学などの強豪と覇権を競っている。  松本さんは現在、主にインターネット媒体に執筆を続け、多忙な日々を送っている。将棋界全体が、藤井二冠の活躍で嬉しい悲鳴を上げている。 「藤井さんが中学生棋士になったときから取材をさせてもらいました。年齢イコール才能はほぼ外れないので、史上最年少の14歳2カ月でプロになった彼が強いのはわかっていましたが、これほど早く頭角を現すとは正直想像できなかった。しかし、今にして思えば小学校4年生のときの文集に『名人を超える』と書いていたように、早くからトップに立ち、将棋界を背負って立つ気構えができていたのでしょうね」  対局で無類の強さを見せるだけでなく、過去の将棋界の文献も読み込んだ上で受け答えする姿勢に、松本さんは舌を巻いた。藤井二冠の「思考」は、ここにも表れる。 「彼は14歳にして、質問に対してもじっと『最善』の答えを考えていました。面白いことを答えようとか、会話中の沈黙が気まずいから適当な答えでお茶を濁そうとか、そういうことが一切ない。深く考え、言葉を選ぶ。そして、将棋の対局では、最善でしかも華のある手を指します」(松本さん)  AI(人工知能)が人間の棋力を凌駕して久しいが、将棋は鍛え抜かれた強者同士が盤上で技術を交錯させ合う人間ドラマだ。コンピューター同士で自動で指し続ければ棋譜は無限に生成されるが、ファンが見たいのはそんなものではない。  17歳の高校生に敗れて棋聖位を失った渡辺明二冠(36)が初挑戦で名人位を奪い、敗れた豊島将之竜王(30)が対藤井二冠無敗を伸ばす5勝目を挙げて壁として立ち塞がり、さらに永瀬拓矢王座(28)から持将棋(引き分け)2局を含むフルセット九番勝負で叡王位をもぎ取った。この「4強」に強豪棋士が入り乱れて繰り広げるドラマは、しばらく続きそうだ。(編集部・大平誠) ※AERA 2020年10月5日号より抜粋
AERA 2020/10/01 08:00
藤井聡太棋聖は「『少年ジャンプ』の主人公のような成長スピード」 AIネーティブの台頭が将棋界を変える
藤井聡太棋聖は「『少年ジャンプ』の主人公のような成長スピード」 AIネーティブの台頭が将棋界を変える
さらなるタイトル獲得が期待される藤井聡太棋聖(C)朝日新聞社 2017年に第2期電王戦で佐藤天彦名人(当時)に勝利したPonanza(C)朝日新聞社  この数年、棋士が将棋AIを活用して棋譜研究を本格化させている。今では、トップ棋士の戦略を変えるまでになった。日進月歩で進化する将棋AIと棋士たちの関係は、今後どのようになっていくのか。『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)の著者で、将棋中継記者の松本博文氏に話を聞いた。 *  *  * 「トップ棋士によるAIの活用は、もはや当たり前となっています。これからトップに上り詰めようとしている棋士でAIを活用していない人は、ほぼいないでしょう」  松本氏は、将棋界の現状をこう語る。誰もがコンピューター将棋を活用している今、AIを使っていることはもはや「前提」となっている。  では、棋士による将棋AIの活用は、いつ頃から始まったのか。  松本氏が先駆けの一人として挙げたのが、千田翔太七段。Floodgate(コンピューター将棋ソフト同士が対局をしているWebサイト)を熱心に眺めるAI棋譜マニアで、「AI将棋の申し子」の異名を持つ。  千田七段は過去に朝日新聞の取材で、2012年ごろからAIの棋譜を参照するようになり、14年ごろから棋力向上のため、本格的に使い始めたと明かしている。AIの棋譜を眺めるようになってからは、人間の棋譜で勉強する時間はゼロになったという。  2014年ごろからは、他の棋士たちも徐々にAIを取り入れるようになった。同年の将棋電王戦(プロ棋士とコンピューター将棋の対局)に出場した豊島将之七段(現・竜王名人)もその一人。大会を機に将棋AIの強さを認識し、積極的に活用するようになった。  当時、豊島氏と対戦した将棋AIのソフト「YSS」や、2017年に佐藤天彦名人(当時)を下した「Ponanza」をはじめ、数年前まではソフトは非公開が大半を占めていた。だが、特定の棋士だけが指せる機会を持つのは不公平だという意見もあり、その後はソフトが無料公開される流れが加速した。  松本氏によると、AIの活用が棋士の間で主流になったのは、2~3年前からだという。 「『Apery』や『技巧』など、無料なのに強いソフトが公開されたことで、プロアマ問わずAIを活用するようになりました」(同)  そして、2017年にPonanzaが佐藤天彦名人(当時)に完勝したことで、将棋AIは名実ともにトップ棋士を超えた。AIは日々、めざましいスピードで進化を遂げている。AIは同一ソフトの1年前のバージョンと対戦すれば、7割の勝率を収めると言われている。 「人間の場合、トップ棋士が1年前の自分と戦って同様の戦績を収めるのはまず不可能でしょう。トップ棋士ともなれば、伸びしろはそこまで大きくありません。正直言って、AIはどこまで強くなるか想像がつかない。いずれ頭打ちするのではないかとささやかれたこともありましたが、青天井かもしれません」(同)  例えば、15年前に最強と称されたBonanzaが今のソフトと戦ったら、まったく歯が立たないという。  佐藤天彦名人がPonanzaに完敗した2017年から3年の間に、人間のトップ棋士とAIの差は、どれだけ開いているのか。  囲碁界では、世界のトップ棋士がハンディをつけてAIと公開対局を行う機会も比較的多いが、日本の将棋界は「ローカルでクローズドな世界」。トップ棋士がハンディを付けて対戦することはほとんどないため、AIとトップ棋士の差がどこまで開いているのかを測るのは難しいが、松本氏はこう推察する。 「一部では、すでに現在のトップ棋士と、角落ち(角を抜くハンディ)か飛落ち(飛車を抜くハンディ)の差がついているのではないかと言われています」  だが、AIがどんなに進化しても、人間のトップ棋士同士による対局の価値が下がることはないだろう。藤井聡太棋聖のブームに顕著なように、驚異的な成長スピードで進化を遂げる棋士の姿は、AIの「強さ」とは別の部分で見ている人を魅了するからだ。 「14歳のデビュー当時からすでに異次元の強さででしたが、その成長スピードは驚異的で、今は当時よりもはるかに強くなっている。この4年でコンピューター将棋に見劣りしない成長をみせたと言っても、言い過ぎではないと思います。藤井さんの成長スピードも、もはや『少年ジャンプ』の主人公を見ているような勢いです」(同)  藤井棋聖はタイトル獲得後の会見で、「探究」と記した色紙を掲げて抱負を語った。これが象徴するように、彼を支えるモチベーションは、名人といったタイトルよりも「強くなりたいという」一点にある。 「かつて羽生善治さんが台頭した時に『この人が史上最強の棋士で間違いない』と確信していたのですが、まさかここまでの天才が出てくるとは思わなかった。おそらく今後も、我々が想像する以上にすごい記録を打ち立ててくれると思います」 「天才の出現」は、時に周囲のレベルをも一変させる。天才・羽生九段が台頭した際も、佐藤康光(永世棋聖)や森内俊之(十八世名人)をはじめ、彼と年の近い「羽生世代」と呼ばれる棋士たちがタイトルを独占した。 「羽生さんの時もそうでしたが、ずばぬけて強い人が出てくると、周囲のレベルも底上げされる。藤井さんの影響で将棋を始める子供たちが増えると思いますが、彼らは初心者の頃からコンピューター将棋と指せる『AIネーティブ』の子たちです。もしかすると、AIネーティブの子たちが藤井さんの強力なライバルとして渡り合えるようになるかもしれない」(同)  松本氏が『藤井聡太はAIを超えるか?』というタイトルで本を出したのも、さまざまな人から同様の質問をされたからだという。 「実際のところ、AIを超えるのは難しいかもしれません。ですが、2012~2015年当時、人類が勝てなかったソフトと今対戦すれば、人間の方が勝てるかもしれない。佐藤天彦名人に完勝したPonanzaにも、15年後、20年後になれば、勝てるようになるかもしれません」  人間が脈々と築き上げてきた棋譜を端緒に、圧倒的な強さを手に入れたAI。そして今度は、AIが人間を強くしている。「AIネーティブ」が台頭した後の将棋界は、新たな黄金期を迎えることになるかもしれない。(取材・文=AERAdot.編集部・飯塚大和)
dot. 2020/08/09 11:30
藤井聡太棋聖、強さの秘密は「湯水のように使う持ち時間」 「AI泣かせ」上村五段が明かす
藤井聡太棋聖、強さの秘密は「湯水のように使う持ち時間」 「AI泣かせ」上村五段が明かす
ヒューリック杯棋聖戦第4局で渡辺明三冠(当時)を破って史上最年少でタイトルを獲得し、対局を振り返る藤井聡太新棋聖(奥)/7月16日、大阪市福島区(代表撮影) 弁護士 杉村達也さん(33)/2014年に弁護士登録、千葉県弁護士会所属。趣味の将棋でAIソフト開発に取り組み、今年5月のオンライン世界大会で優勝(写真:杉村さん提供) 世界一になった将棋ソフト「水匠」。画面は開発者の杉村さんが今回の棋聖戦第3局の棋譜を読み込ませ、計測したものだ(写真:杉村さん提供)  藤井聡太・新棋聖(18)が、ヒューリック杯棋聖戦で渡辺明二冠(36)を破り、史上最年少で8大タイトルの一つを戴冠した。その圧倒的な強さはどこから来るのか。AERA 2020年8月3日号では、AI超えの妙手が武器のライバルが強さの源泉について語った。 *  *  *  AI時代の将棋にあって、AIがクエスチョンマークをつけている戦型で強豪を倒してきた上村亘五段(33)の将棋には勝負師としてのロマンがある。『天才 藤井聡太』(文藝春秋)の著書(共著)がある中村徹氏はこう言う。 「上村五段が得意にしているのは『後手番の横歩取り』。後手が横歩を取ると将棋AIの評価はガクンと下がるため、この戦法を採用するプロ棋士は現在数名しかいません。しかし上村さんはこの戦法で、それまでプロ入りしてから先手番で無敗だった藤井さんに初めて土をつけたのです」  お互い四段だった2017年9月、銀河戦のブロック戦。スピード感にあふれた88手で、藤井棋聖との初顔合わせを制した上村五段が当時を振り返る。 「振り駒で先手後手を決める対局だったので、先手番も想定し、藤井戦に向けて研究に許される時間を全て充当して臨みました。その甲斐あってか、初手から最後までミスがなく、将棋の神様にも怒られないレベルで勝つことができました」  それ以来の対局となる今年3月、王位戦の挑戦者決定リーグ戦は上村五段の先手番が決まっていた。将棋の戦型は、お互いの得意戦法でもある角換わりで進んだ。 「作戦的にはうまくいって有利に進んでいたと思うのですが、終盤に読んでいない手を指されていつの間にか逆転されてしまった。こちらが途中、踏み込みを欠いたというか、一手緩んだところで差を詰められ、局面が難しくなった。もちろん緩い手を指したつもりはないので、対局後にAIで調べてわかったことですけど」(上村五段)  お互いAIを使って研究を重ねているが、未知の局面にも対応できる地力の強化の大切さを感じた対局でもあった。  上村五段は、棋士には研究中には気づかずに駒を進めるような局面でも、いざ実戦になると指しやすい展開ではないと不安を覚えるようなことが多々あると話す。そして藤井棋聖の強さの秘密がこの「実戦」の時間にあるのではないか、とみる。 「棋聖戦や王位戦の戦いぶりを見て、藤井さんが大事な場面では湯水のように持ち時間を使っているのを皆さんお感じになったと思いますが、これはタイトル戦に限ったことじゃない。藤井さんは普段の対局から徹底的に時間を使い切って自分の糧にしているのです」(上村五段)  序中盤で優勢になれば、テンポも早まって指すのが待ち遠しくなりそうなものだ。しかし。 「形勢のいかんにかかわらず、どの局面でも最善手を探すというスタンスが確立しています。将棋の真理を追求するようなこの姿勢が続く限り、藤井さんはどんどん強くなり周りとの差を広げていくのでは」  こう評価する上村五段は、藤井棋聖がまだ一度も勝ったことがない豊島名人・竜王をこの7月、棋王戦挑戦者決定トーナメントで破った。引き金になったのは「必殺」の後手横歩取り。AIだけでは測れない将棋の魅力が、盤上にはまだ広がっている。今年の世界コンピュータ将棋オンライン大会で優勝した将棋ソフト「水匠」を開発した弁護士の杉村達也さん(33)はこう言う。 「将棋AIは序盤の指し手がまだ甘くて、序盤の評価値が良くても振り返ると実は不利だったというケースがよくあります。渡辺二冠は棋聖戦第3局で90手ぐらいまで想定していたと言われていたので、どうすれば高い精度でそこまで検討できるのか教えていただきたいぐらい。ソフト開発と棋士の研究が一緒にできれば素晴らしいと思います」  AI並みのスピードで進化する藤井棋聖の時代が来るのか、渡辺二冠ら最強棋士たちが巻き返すのか、それともAIネイティブ世代の超新星が現れるのか。一つ確かなことは、今、将棋が面白いということだ。(編集部・大平誠) ※AERA 2020年8月3日号より抜粋
AERA 2020/07/31 08:00
藤井聡太棋聖の進化は「AIの成長速度に匹敵」 最強AIの開発者が読み解く強さの源泉とは
藤井聡太棋聖の進化は「AIの成長速度に匹敵」 最強AIの開発者が読み解く強さの源泉とは
ヒューリック杯棋聖戦第4局で渡辺明三冠(当時)を破って史上最年少でタイトルを獲得し、対局を振り返る藤井聡太新棋聖(奥)/7月16日、大阪市福島区(代表撮影) 弁護士 杉村達也さん(33)/2014年に弁護士登録、千葉県弁護士会所属。趣味の将棋でAIソフト開発に取り組み、今年5月のオンライン世界大会で優勝(写真:杉村さん提供) 世界一になった将棋ソフト「水匠」。画面は開発者の杉村さんが今回の棋聖戦第3局の棋譜を読み込ませ、計測したものだ(写真:杉村さん提供)  史上最年少で8大タイトルの一つを戴冠した藤井聡太棋聖の強さはもはや事件と言える。世界一の将棋AI作者がその強さの源泉を語った、AERA 2020年8月3日号の記事を紹介する。 *  *  *  18歳の誕生日を目前に8大タイトルの一つ「棋聖」を獲得し、最年少戴冠記録を30年ぶりに更新した藤井聡太・新棋聖(18)が強過ぎる。あどけない表情や時折見せる破顔と対照的な、相手の攻撃を受けきって返す切れ味は、戦慄を覚えるほどだ。人間の棋力を上回って久しいとされるAI(人工知能)の活用が巧みな故か、はたまた別の要因か。「天才」の二文字で片づけられない強さの源泉を探った。  7月16日のヒューリック杯棋聖戦五番勝負第4局で藤井棋聖に敗れ、棋聖位を失った渡辺明二冠(36)は翌日、自身が負けた1、2、4局についてブログにこうアップした。 「負け方がどれも想像を超えてるので、もうなんなんだろうね、という感じです」 「今後に向けてという点ではこの指し方を真似するのは無理なので、自分の長所を生かして対抗できる策を見つけるしかないと思いますが、(それが上手くいったのが第3局)勝ちパターンがそれしかないのでは厳しいので、次の機会までに考えます」  渡辺二冠は羽生善治十九世名人(49)の次、藤井新棋聖の前に中学生でプロ棋士(四段以上)になった「天才」の系譜であり、獲得したタイトルは合計25期。竜王と棋王については永世称号の資格を持つ。現在は名人位をかけて豊島将之名人・竜王との七番勝負に臨んでいるこの「現役最強棋士」を、17歳の少年がここまで圧倒するのは「事件」に近い衝撃だ。異次元の強さを引き出したのは、藤井棋聖が積極的に研究に採り入れているというAIなのか。 「藤井さんが中終盤に強いのは、AIに依存しているのではなく、彼自身の努力の結果だと思います。AIがあるから強くなったのではなく、強くて努力されている方がAIも利用してより高みに行ったという印象です」  こう語るのは、今年5月に行われた世界コンピュータ将棋オンライン大会で優勝した将棋ソフト「水匠」を開発した弁護士の杉村達也さん(33)だ。人間同士の将棋の指し合いでは、中終盤になるとAIが想定していた手からは必ず外れていくものだ。棋聖戦第2局、その中盤で繰り出した藤井棋聖の一手は、まさに衝撃だった。  58手目、藤井棋聖は渡辺二冠の攻めを受け止めるために、持ち駒を使って「3一銀」と指した。渡辺二冠が驚きの表情を見せただけでなく、テレビ中継の解説陣も全く読んでいなかったこの一手は、一見凡庸に見えた。しかし、実はその後の形勢をどんどん有利に運ぶ、勝ちにつながる最善手だったのだ。 「この手は将棋AIがとても読みづらい手で、28手先までの6億パターンを読んで初めて見つかるような最善手でした。ですから藤井さんは、相当な大局観と読みを持っていると感じました」(杉村さん)  それでもなお、AIと藤井棋聖のイメージが重なる点があるとすれば、それは棋力を増大させていくスピードかもしれない。 「当時からすると、角1枚は強くなっているのかなと思います」  藤井棋聖は木村一基王位(47)に挑む王位戦第1局前のインタビューで、こう述べた。当時とは、四段昇進を決める直前、すなわち4年前の自分との比較だった。将棋で「角1枚」の差はとてつもなく大きい。 「将棋AIは今も進歩を続けていて、1年前の自分に7割ぐらい勝つ実力を更新し続けています。藤井さんが三段時代より角1枚強くなっているとすれば、コンピューターの成長速度に匹敵するような凄まじさかもしれません」(杉村さん) (編集部・大平誠) ※AERA 2020年8月3日号より抜粋
AERA 2020/07/30 08:00
米長邦雄だけは見抜いていた!「雷の三碧」羽生善治はなぜ、勝ち続けるのか?
米長邦雄だけは見抜いていた!「雷の三碧」羽生善治はなぜ、勝ち続けるのか?
羽生善治さんを「9code」でみた結果は…?(※写真はイメージ)  99%の人間関係は『9code(ナインコード)』で解決できる!  経営コンサルタントである著者が、歴史上の偉人から有名タレント、経営者まで、世界最古の『易経』をベースに、運命学、帝王学などを交え、1万人のサンプリングを体系化。「水の一白」「大地の二黒」「雷の三碧」「風の四緑」「ガイアの五黄」「天の六白」「湖の七赤」「山の八白」「火の九紫」など、歴史上の偉人から有名人まで、人間は9タイプしかいない。「本当の自分」がわかり「人間関係」の悩みが解消するという『“強運を呼ぶ”9code(ナインコード)占い』が発売たちまち第4刷となった。 『9code(ナインコード)』とは一体どんなものか?2034年までの幸運バイオリズムが一目でわかるという著者にこっそり語ってもらった(文中敬称略)。 ●将棋界のレジェンド羽生善治を「9code」で斬る  最近は、将棋界発の話題が一般のマスコミに出てくることが多くなりました。  藤井聡太さんの29連勝という躍進ぶりや、“ひふみん”こと加藤一二三さんの引退劇とその後の名タレントぶり。  そして、羽生善治さんによる前代未聞の「永世七冠」という大快挙と国民栄誉賞。  この羽生さんの若き頃に、藤井さんをダブらせる将棋ファンも多いことでしょう。  今回は、注目の的である、羽生善治さんを「9code」で見ていきましょう。 ●「雷の三碧」の羽生だからこそ  羽生善治さんは1970年9月27日生まれ。「9code」は「雷の三碧」です。 「雷の三碧」と言えば勇気りんりん! 若々しさと情熱あふれるパワーが魅力です。  陽気が立ち始める中、突然春雷がとどきわたるように、その強さとエネルギーあふれる行動力に周囲は魅了されます。  羽生さんのこれまで積み上げてきたその軌跡を振り返っただけでも、羽生さんの「雷の三碧」らしさが多々、見受けられます。  羽生さんのすごいところは、2017年12月の竜王位獲得が通算99回目のタイトル獲得で、これは将棋界ダントツなのです。  現役棋士で2番目は通算27回の谷川浩司さん(1962年4月6日生まれ)ですから羽生さんの偉大さが明白です。  相撲で言えば大鵬、北の湖、白鵬。とにかく強い。  将棋の世界は、プロ棋士が二百名程度の狭い世界ですが、トップをとれるのはそのうちほんの一握りの人たち。ましてや複数のタイトルを保持するなんて、片手にも余るほどの弱肉強食の厳しい勝負の世界です。  そんな厳しい世界に羽生さんは、1985年、15歳の時、中学生棋士としてプロデビュー(「9code」のバイオリズムは【陽1年】)。  1989年、19歳で初タイトルの竜王位を獲得(同【陽5年・陰1年<合期>】)。  1996年(同【陽3年】)25歳で七冠の同時制覇という空前の記録も達成しています。  厳しい世界で勝ち続ける羽生さんは、竜王を除く永世六冠を獲得していましたが、「永世竜王」までの道は長かった。  永世竜王の達成基準は連続五期か通算七期。あと一期だけ足りない状態がここ数年あり、もうチャンスはないと周囲から思われていた中での2017年12月、竜王位の獲得は、羽生さんのバイオリズム【陰2年】でありました。収穫の秋2年目の輝かしい成果となったのです(*バイオリズムについては『“強運を呼ぶ”9code(ナインコード)占い』参照)。 ●「10の220乗」の棋譜数を操る「三碧」ならではの圧倒的な直観力 「雷の三碧」は、暗闇を強烈な光で明るく照らすように、先がわからない未来を自らの強烈な意思と勇気で切り開いていく力、インスピレーションを持っています。  将棋の棋譜数は「10の220乗」とも言われ、盤面はもはや無限に広がる宇宙のようなものです。そんな中でいかに駒の流れをつくっていくのか。  次のような「雷の三碧」らしい羽生語録があります。 「一局の中で、直感によって、パッと一目見て『これが一番いいだろう』と閃いた手のほぼ7割は正しい選択をしている」(羽生善治著『決断力』より)  将棋の世界は、「直感」「読み」「大局観」。  これらを駆使して戦いに望んでいると言われています。  羽生さんはプロの世界に入ってからすぐに頭角をあらわし、常にトップ棋士として経験を積んできました。  その結果が、今時点での通算成績1400勝565敗(2018年4月19日対局分まで*日本将棋連盟ホームページより)。  この膨大な経験値が、羽生さんの「直観力」の成熟度をあげないわけがありません。  この語録通り、羽生さんの直観力=インスピレーションは、確信に近いレベルにまで昇華させ、さらにそれを自分への信頼と自信へという「強さ」の糧にしてきたともいえるでしょう。羽生さん自身が「雷の三碧」の「天の才」の塊のようなものですね。 ●純粋さが光る「三碧」の強さ!世界を極めた原動力は〇〇!  すでに将棋界の頂点に達した感のある羽生さん。  もちろん、今後も記録の更新など楽しみはありますが、一つの世界を極めた人がさらに前進していくのに何が必要でしょうか。  今後は何が羽生さんのモチベーションになっていくのでしょうか?  米長邦雄永世棋聖(故人)が生前受けたある出版社のインタビューで、羽生さんの強さは単純明快だと語っています。  米長さん曰く 「純粋に将棋が好きであり、愛している」 「それも度が過ぎるほど好きだから強い」 「それだけなんです」  羽生さんはトップ棋士として君臨している今でも、少年の頃の「将棋・愛」を持ち続けているのです。  好きなことをとことん突き詰めていく。  どんな困難なことがあってもあきらめないで前へ進んでいく。  そんな「雷の三碧」羽生善治さんの生き方を見ると、なんだか勇気が湧いてきますよね。 中野 博(Hiroshi Nakano) 信和義塾大學校創設者兼塾長、経営コンサルタント 早稲田大学商学部卒業。 ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院ブランディング実践講座エグゼグティブコースを修める。ハーバードビジネススクールでは経営学を学ぶ(いずれも短期集中型の経営者クラス)。1992年、地球サミットに国連認定ジャーナリストとして参加したことを契機に環境ジャーナリストとして活動。1997年の地球温暖化防止京都会議を機に、株式会社エコライフ研究所設立。環境ジャーナリストとしての取材・分析力と経営コンサルタントとしての提案力をベースに、800社以上を環境ビジネスに参入させ成果を挙げる。その傍ら、住宅、環境を軸にした本を多数出版(本書が30冊目)。講演依頼も多く、国内外で2000回以上の実績。2005年、教育研修会社の株式会社ゴクーを設立。1万人のサンプリングを体系化した『9code(ナインコード)』をもとに、信和義塾大學校で指導にあたるほか、企業や各種組織で『9code』を利用したコンサルティングや人材活用研修も多い。現在、信和義塾大學校は、世界6ヵ国20都市以上にあり、塾生は700名超。
ダイヤモンド・オンライン 2018/07/09 16:28
藤井聡太六段をAIが分析 驚異的な強さの秘密とは?
藤井聡太六段をAIが分析 驚異的な強さの秘密とは?
2月17日、決勝に臨む藤井聡太六段(当時は五段)。準決勝で羽生善治竜王、準々決勝では佐藤天彦名人も破った。朝日杯は八つあるタイトル戦に次ぐ棋戦で優勝賞金は750万円。「特に使い道は決めていないですけど。それで遊ぶことのないようにがんばっていきたいと思います」 (c)朝日新聞社  将棋の藤井聡太六段(15)が新たな歴史をつくった。名人、竜王らを連破し 初優勝した朝日杯将棋オープン戦から見えてくるものは。 *  *  *  藤井将棋には「華」がある。  朝日杯将棋オープン戦の本戦1、2回戦の名古屋対局、そして東京・有楽町での準決勝、決勝の現場で、そう実感した。  例えば、決勝でA級棋士・広瀬章人八段(31)を相手に放った、飛車で取られる地点にただで桂馬を捨てる手(4四桂)。準々決勝、佐藤天彦名人(30)戦では、左側中段にいた飛車を右側下段に大転換。飛車や角のダイナミックな動きも特徴だ。  プロでさえすぐには気づかない妙手で、かつ「美しい」。つまり、駒の機能が最大限に発揮され、無駄のないフォルムを体現しているのだ。しかも、指された後にその前の手の積み重ねをさかのぼると、一貫した論理、あるいは意志が浮かび上がってくる。  盤上の宇宙の中から最も美しい星を瞬時に見つける。しかも気づくと星座が広がっている、とでもたとえられるだろうか。  藤井将棋の一つの原点には、幼少期から親しんできた「詰将棋」の存在が間違いなくある。創作では、11歳で専門誌「詰将棋パラダイス」に初入選。解くほうでは、一流棋士も参加する「詰将棋解答選手権」で3連覇中だ。  詰将棋は、玉を詰めるパズルで、将棋から生まれたものではあるが、将棋とは別の独立したジャンルだ。作者は初めに駒を自由に配置できるため、現実に対する実験室、あるいは盤という画布の上に描く絵画ともたとえられよう。詰将棋を解くことは将棋の終盤を鍛えるトレーニングになるが、一方で、「美しさ」や「意外性」を追求する芸術性の高い作品を解いたり作ったりするのに夢中になると、将棋がおろそかになるという通念もある。  準決勝・決勝を生放送したCS「テレ朝チャンネル2」に出演した加藤一二三九段(78)は「詰将棋はほどほどにしたほうがいいという考え方がある」と言及。解説の佐藤名人が「でも藤井さんは詰将棋が趣味なんですよね」と返すと、「そうか、趣味をやめさせるのもかわいそうですね」と笑いを誘った。  現代を代表する詰将棋作家の一人で英米文学者の若島正さん(65)は少し違う見方だ。 「広瀬戦の4四桂のように、普通の人には見えない手が見える。これは詰将棋から来ている感覚なのかもしれません。つまり、詰将棋では普通『ありえない』手がありえるということ、将棋の可能性として、盤にはとんでもない手が眠っているということ、そういう認識がどこかで藤井くんの読みの中に感覚として身についているのではないかと思っています」  藤井六段を小学生時代から知る若島さんは、こうも話す。 「詰将棋とは関係なく、自然に強いということも感じます。実は、詰将棋慣れした人間にはこれがなかなかできません。だから、わたしの目からすると、藤井くんは将棋の才能もあるのだなあ、という感じです」  CS放送では、将棋のAI(人工知能)「Ponanza(ポナンザ)」による形勢判断も随時、画面に表示された。準決勝、決勝を通じて、「藤井劣勢」とされた局面はなかった。ポナンザが常駐するアプリ「将棋ウォーズ」を運営する「HEROZ」の林隆弘社長(41)はプロ棋士の棋譜をポナンザにかけて分析している。強い棋士には、ポナンザの推す有力な手との一致率の高さだけではなく、もう一つの特徴があることに気づいたという。 「それは、急所の局面で踏み込むことです。藤井六段は派手な手も多い一方、極めてミスが少なく、そして急所ではリスクをとっています」  藤井六段は次回の朝日杯は本戦(ベスト16)から登場する。一段と美しく強くなった「華」を見るのが今から楽しみだ。(朝日新聞文化くらし報道部・山口進) ※AERA 2018年3月5日号
AERA 2018/03/02 07:00
医師676人のリアル

医師676人のリアル

すべては命を救うため──。朝から翌日夕方まで、36時間の連続勤務もざらだった医師たち。2024年4月から「働き方改革」が始まり、原則、時間外・休日の労働時間は年間960時間に制限された。いま、医療現場で何が起こっているのか。医師×AIは最強の切り札になるのか。患者とのギャップは解消されるのか。医師676人に対して行ったアンケートから読み解きます。

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