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就活で70社に落ち摂食障害、うつ病、ひきこもりに… 43歳ロスジェネ男性を襲った現実
1997年、氷河期世代が新卒採用だったころの就職説明会。バブル崩壊の影響で企業が採用を控える一方、団塊ジュニア世代で人数が多かった (c)朝日新聞社
内閣府の担当者(右端)に要請書を手渡す就職氷河期世代の人たち。正規雇用への移行とともに、貧困から生まれる将来の不安解消も必要だ (c)朝日新聞社
政府が示した就職氷河期世代への支援プログラムによれば、支援の対象は100万人ほどいると見込まれる。その半数は不本意に非正規雇用で働く人たち、ほかにも長期無業者、社会参加に向けてより丁寧な支援を必要とする人たちがいる。
※【ロスジェネ再挑戦支援 正規雇用30万人増やせるか】よりつづく
千葉県の不破徳彦さん(42)は、1日9500円の日雇いの仕事に月に何度か就きながら、社会復帰を目指す。生活費は主に両親を頼っており、貯金はおよそ20万円。12月上旬、ネクタイをしめてスーツ姿で取材に現れた不破さんは、この20年間を語ってくれた。
●アルバイトを転々と、摂食障害とうつ病を患った
首都圏の私立大を00年3月に卒業した。企業に勤め、そのうち結婚もして、子どもができる。こう想像していた将来は、第一歩目の就職でつまずいた。
「エントリーシート(ES)を書いても足切りされてばかりで、実際にSPI試験(総合適性検査)に進んだのは2社くらいでした。そこは、ESがなかったから受けられたんですけど」
鉄道会社を希望し、私鉄を中心に就活した。難しそうだと察知すると、アルバイトの経験を生かして食品関係の企業などにも対象を広げた。約70社にアプローチしたが、大学4年の夏に心が折れた。いったん就活はやめた。
卒業後はアルバイトを転々とし、精神疾患とも闘う生活が始まった。食品関係や、美術品の燻蒸(くんじょう)処理のアシスタントを経験した後、求人に応募して警備会社に契約社員として採用されかけた。しかし、健康診断で引っかかり、内定が取り消しに。当時は、身長180センチで体重105キロ。脂肪肝による健康状態の不良を指摘された。ダイエットしながら、リバウンドの怖さにおびえて摂食障害に。うつ病も患った。24歳だった。
しばらく引きこもり、次に働いた食品工場ではミスをした。ギョーザをつくるのに粉の配分を間違えた。3日目の昼、派遣会社の営業担当者と食事をしながら言われた。
「今日付で退職になった。申し訳ない」
想像していた人生からどんどん離れていった。デイケアに通い、福祉施設の作業所での軽作業などを転々とした。
「定職に就きたいとは今も思っています。ただ、年齢や体調のことを考えると……」
●働きたくても働けない、社会に参加できる支援を
仕事のない日はなるべく自宅から出て近所を自転車で走ったり、相談支援の事業所に顔を出して、プログラムに参加したりしている。正規雇用は考えていない。自分に合ったところで生きていく。だから、政府の支援プログラムにはこう感じている。
「支援から漏れてしまって、敗北感だけが残る人が出てこないか心配です」
政府の支援には、どこまで期待ができるのか。支援に取り組むNPO法人育て上げネットの工藤啓理事長(42)は言う。
「3年間の限定だが、取り組むこと自体に意味はある。働けていない方々を支援の対象に入れたことは特徴的だ」
ただ工藤理事長は、この政府の支援プログラムは基本的な設計が雇用政策であり、欠けている視点があるという。
「病気や精神的不調などですぐに働きたくても働けない人たちが存在する。この人たちの居場所を作らなければいけない」
働けないことで貧困と直面したり、社会とのつながりを持てなくなったりするケースも多い。
「彼らが力を発揮できる働き方が可能な社会、つながりたい社会をつくることと、そこに参加できるための支援が必要だと考えています」(工藤理事長)
正規雇用者を増やすことだけでなく、その「つながりたい社会」を見つけられるような支援、例えば、その「社会」に参加するための交通費の補助なども求めている。
12月10日、前出の不破さんや、自ら当事者でもあり、氷河期世代の雇用問題の調査などを手がけている「氷河期世代ユニオン」代表の小島鐵也さん(44)ら7人が内閣府を訪れた。担当者に要請書を手渡し、「最低賃金に代わる最低保証所得の導入」など5項目を求めた。小島さんは訴える。
「氷河期世代の問題はずっと置き去りにされてきた。雇用の確保と同時に、本人が努力したくてもできない場合、所得が少なくても困窮せずに生きていける仕組み作りを強く求めたい」
(編集部・小田健司)
※AERA 2019年12月23日号
