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年齢とともに男性のお腹に肉がつくのは悪いことばかりじゃない!?
年齢とともに男性のお腹に肉がつくのは悪いことばかりじゃない!? 年末に立て続けにあった忘年会、そして家でゴロゴロしての寝正月......。「ああ、ますますお腹に肉がついてでっぷりしてきたぞ」とお嘆きの男性も多いのではないでしょうか。見た目や健康上の理由から何かと目の敵にされる「肥満」ですが、実はそこには驚くべき進化上のメリットが隠されている、というのが本書『男たちよ、ウエストが気になり始めたら、進化論に訊け!』の著者リチャード・ブリビエスカス氏による主張です。  トンデモ健康本の提唱ならいざ知らず、ブリビエスカス氏はイェール大学の人類学、進化生物学、生態学の教授であり、その著作と研究により数々の賞を受賞しているれっきとした研究者。それだけに本書の内容もあながち間違いではない......どころか、まったく新たなエイジングが見えてくるとして、『ウォール・ストリート・ジャーナル』や『サイコロジー・トゥデイ』など多数メディアで絶賛されているのです。  では老化により筋肉が落ち胴回りの脂肪が増えることは、いったいどんなメリットがあるというのでしょうか?  第3章の「お腹のぜい肉にもメリットあり」では、まずは筆者の考えを述べています。男性は若いころは狩猟や女性をめぐる競争に勝つために筋肉を発達させる進化上の利点があった。けれど、高齢期になり筋肉の一部が脂肪へと変化することで、生殖の機会ではなく「育児」に必要な養育投資を女性に提供するという役割に切り替えられていくということではないかと投げかけています。  そのうえで、第5章では「高年齢男性が老化による身体的な影響を活かして、一夫一婦型のペア形成と父親による養育をおこなう能力を進化させたと提唱したい」とする筆者。そしてこの「年齢によって促進される脂肪の蓄積などの肥満傾向というものが人類の進化過程で活用され、父親の生存率が高まったり、配偶者を探す行動が抑えられたり、父親による養育を支持するホルモン環境への移行が進んだりすること」を「ぽっちゃり父さん仮説」と名付けています。  年齢を重ねるにつれ肥満になっていくことには、実は人類進化上でこのような利点があったとは......。これまでに出会ったことがない(少なくとも私は!)なんとも斬新な考え方ではないでしょうか。  いっぽうでは、高年齢男性が政治権力や経済力を握ることでのデメリットや同性愛の高年齢男性に関する心身の健康といった洞察もおこなわれており、一方的な視点でないのが好ましいところです。  こうして見てみると、ぽっちゃりしているのは悪いことばかりじゃないと皆さんも少しは感じ取れたでしょうか。若いころのズボンが入らなくなってきた男性も、そんな男性を夫に持つ女性も、この本を読んだ後は男性のお腹の脂肪がなんだか愛おしくなってくるかもしれません。
真っ白な詩篇が雪のように舞った先の ハン・ガン『すべての、白いものたちの』
真っ白な詩篇が雪のように舞った先の ハン・ガン『すべての、白いものたちの』 ニュースやSNSを見ているとどうして近くの隣国を貶めるような、差別的な発言をする人がこんなにもいるのだろうと首をかしげることが多々ある。例えば嫌韓とプロフィールに書いている人のヘッダーや画像には、一定の共通項が感じられる。  「私」というものに自信や誇りが持てなくなった時に、自分を託すものや根本として支えてくれるものが国家や民族になってしまうのは、揺らがないと思っていたものがどんどん崩れ落ちてしまった結果だろう。そういう人の多くは、かつて日本が経済大国だったという過去の栄光に囚われたままで、この現実を見れていないのだ、とも思う。  もし、国家が消滅したりしたらどうするのだろう? 自分たちが移民にならないなんてどうして思えるのだろう。  自分ではない他者についての想像力がなければ、自分と他者の尊厳を守ることなんかできないはずなのに、そんな当たり前のことがなんだか抜け落ちてしまっている。  と思う反面、グローバリズムとインターネットが生まれた時に当たり前にあった若い世代は、近いアジアの国、韓国や中国や台湾などに国境という境界線がないようにフラットにその国々のカルチャーを受容し交流して、楽しんでいる姿も見受けられる。ゼロ年代には、どこか海外のカルチャーを閉ざすような内籠りのようにガラパゴス化していた部分があったのがまるで嘘みたいに思える。  近年では、華文(中国語)ミステリーである陳浩基著『13・67』が本読みの間でも評価が高く、大きな話題になった。また、日本語で読める韓国小説のレーベルも「新しい韓国の文学」や「韓国文学のオクリモノ」といったものも出てきて、同じアジアの文学作品が読みやすい環境が少しずつ整いだしている。  今回は「新しい韓国の文学」シリーズの第一作目になった『菜食主義者』の著者ハン・ガンの新たな代表作と言われる、『すべての、白いものたちの』について。ちなみにハン・ガンは『菜食主義者』で2016年には世界でも権威のある文学賞の一つであるブッカー賞を受賞している。  ハン・ガンの最新刊『すべての、白いものたちの』はタイトルにもあるように「白」から連想されるものたち、チョゴリ、白菜、産着、骨などといったワードと共に掌編のような文章が連なっていくものになっている。それぞれが1、2ページほどの文量で構成されている。また、紙も何十ページか毎に違う色合いになっていて、時折挿入される写真も、装丁の写真のようになにも言わないのにとても雄弁である。  人間が生まれて死んでいくまでに感じていく、経験していく、伝わっていく、「白さ」をまるで詩のような文章で構成している。  生まれたての子供に着せる産着、亡くなった時に着せる壽衣の白さ。  自分よりも前に生まれて死んでいった者への想い、異国の地で見上げた空から降ってくる雪、その「白さ」に包まれた生者の日々について綴られている。  詩篇のように綴られた言葉たちが、まるで紙片のようになって雪と同化して大地に降り注ぐように、ゆっくりと舞いながら落ちてくる速度、その確かさがこの作品にはある。  手のひらに落ちた雪がすぐに溶けて透明な水滴になってしまうような速さで、この小説に書かれた言葉たちも読み手の中に入ってくる。  あるいは、ふうっと息を吐けばひらひらと舞うかのような、ふわふわの真っ白な綿菓子が水にあっという間に溶けるように、一気に読み終えてしまう。しかし、溶けて形の変わった「白さ」だけは読み手の中にとどまり続ける。そして、その「白さ」には人肌のような体温があり、同時に無機質な冷たさもある。  そう、私たちの一生にある「白さ」をもっと身近に感じられる小説になっている。  『すべての、白いものたちの』は韓国小説を読みたいという人だけではなく、今世界に蔓延している窮屈さや、無限に増殖し考えることを放棄させようとする情報量の前で、気持ちを砕かれているような人に届いてほしい。  私たちのいつも側にある「白さ」がもっと世界を豊かなものへ、そして自分ではない誰かにもっと寄り添えるような優しさを与えてくれるはずだから。  きっとこの小説に書かれた言葉たちがそっと背中を押してくれる。
久世光彦著『ベスト・オブ・マイ・ラスト・ソング』は辞書代わりの一冊------アノヒトの読書遍歴:浜田真理子さん(後編)
久世光彦著『ベスト・オブ・マイ・ラスト・ソング』は辞書代わりの一冊------アノヒトの読書遍歴:浜田真理子さん(後編) 歌手、ミュージシャンのほかエッセイ執筆など多岐に渡る活動をする浜田真理子さん。様々なフィールドで活躍を続ける一方で、本から美しい言葉づかいや言い回しを学ぶこともあるといいます。そんな浜田さんに、前回に引き続き日頃の読書生活について伺いました。
寺田寅彦著『柿の種』のフレーズにはドキッとさせられた------アノヒトの読書遍歴:浜田真理子さん(前編)
寺田寅彦著『柿の種』のフレーズにはドキッとさせられた------アノヒトの読書遍歴:浜田真理子さん(前編) 歌手、ミュージシャンとして活動する浜田真理子さん。98年に発売したファーストアルバム『mariko』がメディアに採り上げられたことをきっかけに、楽曲が映画『ヴァイブレータ』挿入歌へ起用され話題に。ここ数年は都内を中心に、年に数回コンサートを開催するなど勢力に音楽活動を続けています。今年6月には7枚目のアルバム『NEXT TEARDROP』をリリースした浜田さん。そんな浜田さんに、日頃の読書生活についてお話を伺いました。
山田ルイ53世渾身のエッセイは笑って泣ける!? 大人気連載が大幅改稿&加筆で登場
山田ルイ53世渾身のエッセイは笑って泣ける!? 大人気連載が大幅改稿&加筆で登場  お笑いコンビ「髭男爵」の山田ルイ53世が、なりたい自分になれなかった全ての人たちにおくって書いた著書、それが『一発屋芸人の不本意な日常』です。  これは、withnewsの人気連載を大幅改稿&加筆して刊行されたもので、自ら「負け人生」と語る山田ルイ53世の日常をコミカルにつづった、切なくも笑えるエッセイです。  山田ルイ53世は1975年、兵庫県生まれ。地元の名門・六甲学院中学校に進学するも、引きこもりに。その後、大検に合格し、愛媛大学法文学部に入学しますが中退。1999年、ひぐち君と髭男爵を結成し、現在に至ります。前著『一発屋芸人列伝』(新潮社)は、「本屋大賞2018年ノンフィクション本大賞」にノミネートされ、「第24回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞するなど、話題を集めました。  本書刊行に寄せ、山田ルイ53世はこんなコメントを寄せています。  「一発屋は、人生のしおり、記憶のポストイット。入学、卒業、結婚、出産といった人生の節目の場面には、『そういえば、あの頃はあの芸人のギャグが流行っていたなー…………』と必ず僕達の姿があります。この本もそうなれば幸いです。」  山田ルイ53世渾身のエッセイ、もしかしたら読んだ私たちも自分の日常をふと振り返るきっかけになるかもしれません。
気鋭のメイクアップアーティストによる"失敗メイクから学ぶ正解メイク"
気鋭のメイクアップアーティストによる"失敗メイクから学ぶ正解メイク" 数年前に巷の女性たちの間で一大ブームとなった「オフェロメイク」。お風呂上がりのようにほんわかと血色したおしゃれでフェロモンたっぷりなメイクのことをいいますが、これを生み出したのがヘアメイクアップアーティストのイガリシノブさんです。  オフェロメイクといえば鎖骨上に塗って火照ったような感じを演出するのが特徴ですが、見ていると中には「やりすぎでは?」なーんて思ってしまう女性もチラホラ......。これについてはイガリさん自身も本書で「チークを頑張りすぎて、頬の血色だけが独り歩きしちゃっている感じの女の子、意外といたな......。チークの横幅を広げすぎて、酔っ払い風になってしまっている子も......」と述懐。「やりすぎたら誰だって歌舞伎顔。バランスチェックを習慣に」とアドバイスしています。  こんなふうに、イガリさんの「少しの思い込みや、"あちゃー、やっちゃってるなそれ"といったことに気づいてもらえたら、それぞれの技術が向上して、自分ともっと楽しく向き合えるのではないか」という思いから生まれたのが本書『裏イガリメイク、はいどうぞ』。テーマはズバリ、"失敗メイクから学ぶ正解メイク"なのだとか!  イガリさんというと、若いコ向けのメイクといったイメージを抱いている人もいるかもしれません。もちろん、メイク大好きな10~20代の女のコがもっともっと可愛さを持続できるような正解メイクの提案も本書ではしています。けれどいっぽうで、本書はイガリさんと同年代である30代40代女性へのメイク指南も盛りだくさん!  「5歳若返りたくて日々メイクしているのにhow toが正しく更新されていないから逆に+10歳になってるから~!」なんて失敗メイクへの笑いとツッコミなんかは、思わずうなずいてしまう皆さんも多いのではないでしょうか。私自身もそうなんですが、メイクも10年20年と続けているうちに自分のやり方が染みついてしまってアップデートがなかなかできなくなるんです......!  だからこそ、本書に出てくる「昔の自分は過ぎ去ったの。今の自分を輝かせる方法を知る努力を」「凛としたシャープさを取り入れるのが大人メイクのルール」「自分の顔に見慣れない」といった言葉の数々は心に沁みるものが。  でも、じゃあどうしたらいいの......? そんな心の声にも本書ではちゃーんと答えをくれています。たとえば、「赤リップ」といえばいつだって女性の味方でいてくれるアイテム。けれど、赤とひと口に言っても本当にさまざまな赤があるんですね。本書では「ウラハラなおしゃれ感 透け赤」「元気な日はコレにキマリ 王道の赤」「時にはお姉さん気分 ローズ赤」など、なりたい気分にマッチする赤リップを教えてくれます。  ほかにも、コンシーラーといえばもともとはクマやニキビ、シミをポイント的にカバーするアイテムでしたが、今では"ただ隠すためのもの"ではなくなったというイガリさん。ファンデーション代わりに肌を作ることもあるそうで、タッチペン、スティック、パレット、チップといった4タイプのコンシーラーをあげ、それぞれの特徴や使い方などを薦めています。  メイクのマインド的な部分が多い本書ですが、こうして見ると意外と実用度も高いことがおわかりでしょうか。また、紹介されているアイテムはどれもブランド名や品番まで掲載されているので、実際に購入して取り入れやすいのもありがたいところです。  今以上に可愛くなりたいメイクに貪欲な女性はもちろん、メイクのハウツーが更新されず正解が何かわからなくなってしまっている女性にもおすすめの『裏イガリメイク、はいどうぞ』。新しい年をむかえることですし、気持ち新たにメイクもアップデートしてみるのはいかが?

この人と一緒に考える

あの独裁者も◯◯中毒だった!? ヒトラー、ケネディ...国家のトップたちのカルテとは
あの独裁者も◯◯中毒だった!? ヒトラー、ケネディ...国家のトップたちのカルテとは 当時"戦犯"とされた人物を父親に持った子どもたちのその後の人生をたどった前著『ナチの子どもたち: 第三帝国指導者の父のもとに生まれて』(原書房)でデビューした、作家タニア・クラスニアンスキ。  2作目となる『主治医だけが知る権力者: 病、ストレス、薬物依存と権力の闇』で取り上げるのは、ヒトラー、スターリン、毛沢東など8人の為政者と、それぞれの主治医たち。驚くべきことに、同書によれば、彼らの中には薬物依存状態、いわば"薬漬け"だった人物が少なくないと言います。  たとえば、独裁者アドルフ・ヒトラーの場合。同書によれば、ヒトラーが頼り切りだった主治医のテオドール・モレルは、「帝国注射マイスター」「メフィスト」「死の商人」(同書より)との異名をとった人物。ヒトラーはモレルから精神安定剤はもとより、コカイン・モルヒネなどの薬物のほか、鬱症状を改善させるために、なんと「雄牛のホルモン」まで注射されていたこともあったのだとか。  実は、ヒトラー同様に"薬漬け"だったのが、かのジョン・F・ケネディ大統領。その当時、健康状態が悪化していたケネディ大統領は、主治医マックス・ジェイコブソンから長期にわたってコカイン、ホルモン剤を投与されていました。ファーストレディのジャクリーン・ケネディともども、覚醒剤のアンフェタミン過剰摂取による依存状態に陥っていたと本書には書かれています。  国家元首と主治医との関係性を主軸に据え、従来の伝記や評伝とは一線を画して、丹念に歴史を振り返った同書。日々強いストレスにさらされていた最高権力者たちのカルテという視点から捉え直すと、彼らへの印象もまた違ったものになりそうです。
エッセイの名手・酒井若菜 不倫がテーマの処女作がファン待望の復刊
エッセイの名手・酒井若菜 不倫がテーマの処女作がファン待望の復刊 女優・酒井若菜さん。かつてトップグラビアアイドルとして君臨し、宮藤官九郎さん脚本のドラマ『木更津キャッツアイ』(TBS系)や、松尾スズキさん監督の映画『恋の門』以降は演技の道で頭角を現し、いまや演技派としてすっかりおなじみです。最近ではテレビドラマ『透明なゆりかご』(NHK)で主人公の母親役を熱演していたのをご記憶の方も多いのではないでしょうか?  エッセイストとしての評価も高い酒井さんは、自身のブログ「ネオン堂」の執筆はもとより、最新作『うたかたのエッセイ集』(キノブックス刊)をはじめ、『心がおぼつかない夜に』(青志社刊)など、"書き手"としても際立った才能を見せています。  2016年刊行の『酒井若菜と8人の男たち』(キノブックス刊)では、男性芸能人との対談と、対談相手それぞれに向けたエッセイを収録。同書では、10代の頃から自己免疫疾患の難病・膠原病(こうげんびょう)を患っていることをカミングアウトしたことでもメディアの耳目を集めました。  本書『こぼれる』は、そんな酒井さんが2008年に初めて描いた小説作品の復刊。物語は、人間同士の関係性を立体パズルのルービックキューブになぞらえて、こんな書き出しで始まります。  「本人も気づかなかったある一面が、他人には見えることだってあるのだ。その場合、極端に言えば、自分が誰かにとっての『加害者』になっている可能性もないとは言えない。物でも人でも、角度を変えて見れば全く違う存在になるのに。その時に『加害者』という一面が自分の中に突然現れたら」(本書より)  本書の22歳の主人公・雫は、器用な生き方ができない憎めない女性。やがて妻子ある男性と恋に落ち、いわゆる不倫状態に陥るのですが...。連作短編集というスタイルで、登場人物4人―--雫・雫の不倫相手・不倫相手の妻・雫に片思いする男性―--それぞれの視点で紡がれる物語は、さながらルービックキューブのように多面的な構成を取っています。  人との関係性、こと恋愛関係においては誰しもが加害者であると同時に被害者にもなり得るという、人間の愚かさと切なさを端然と描く本書は、書き手・酒井さんの魅力を存分に味わわせてくれる、渾身の1冊と言えるでしょう。
天龍源一郎史上“最も聞き取りやすい”、人生を行き抜く上でのヒント
天龍源一郎史上“最も聞き取りやすい”、人生を行き抜く上でのヒント 65歳まで日本プロレス界の「生ける伝説」として第一線で活躍し続け、現在はタレントとして多岐にわたる活動をおこなっている天龍源一郎さん。バラエティ番組などで見せるあまりの滑舌の悪さが印象に残っている皆さんも多いかもしれません。  そんな天龍さんが雑誌『月刊BUBKA』で連載してきた「天龍源一郎の人生相談 龍魂一答」を単行本化したのが本書。仕事や恋愛・結婚、人間関係、生き方などに関する相談や質問への天龍さんの回答は優しく、ときに強く、そしてとても正直。世界一滑舌は悪くとも"最も聞き取りやすい"、生きる上でのヒントが詰まった一冊となっています。  たとえば「いい上司であり、いい部下であることを求められる中間管理職になってストレスがたまります」という仕事のお悩み。これはある程度の年数、組織の中で働いている人であれば誰しもぶつかることではないでしょうか。  これについて天龍さん、「上司にも部下にもどっちにもイイ恰好をしようと思っているから疲れるんだ」とバッサリ。では上司と部下、どちら側につけばいいのかというと......。  「それだったら、そのとき力のある人間に寄り添って生きていくのがいちばん間違いがないし、疲れないよ」とのこと。続いて、全日本プロレスでがむしゃらに自分をステップアップさせ、ジャイアント馬場から信頼を得るようになった、そうしたら後輩を飲みに連れまわしても文句を言われなかったと語ります。自身の体験談、しかもあのジャイアント馬場まで登場するとなれば、なんとも説得力のある答えですよね。  ほかにも「二次元の女性キャラが好きで、生身の女性の魅力がわかりません」という恋愛の悩みを持つ男性には、「生身の女性は変化があるからいいんだよ」との回答をする天龍さん。 「生身の女性と付き合うと、うまくいかなかったり葛藤もあるけど、逆に100%応えてくれるときの嬉しさもある。年をとるにしたがって自分の色に染まっていく女の人を見るというのは満足感が高いものだよ」と話します。年齢を重ねてきた人間ならではの円熟味ある回答にこれまた納得させられます。  勝負の世界で体ひとつで生き抜いてきた天龍さんだけに、ガツンとした豪快なアドバイスを喰らわせるのかと思いきや、そこにあるのは相談者に寄り添うように悩みと向き合う、優しく繊細な姿。これにはBUBKA編集部も「はじめに」で「ただひとつ予想外だった」と本音をこぼしています。プロレスでの天龍さんとはまたちがった一面を見ることができるのも、ファンにとってはうれしい一冊ではないでしょうか。  そして天龍さんの特別なファンではなくとも、本書の悩みはきっと多くの人たちに共通するもの。人生というリングでもがくすべての人たちに、勇気や励ましが届くような内容になっている本書。年末年始、自分を見つめ直すことも多いであろうこの時期に皆さんの役に立つ一冊となってくれるに違いありません。
メニュー、部位、食べ方など焼肉にまつわる用語を多数のイラストを交えて徹底解説!
メニュー、部位、食べ方など焼肉にまつわる用語を多数のイラストを交えて徹底解説! その言葉を耳にするだけで、光景を想像するだけで、幸せな気持ちになれる「焼肉」。ジューッという肉の焼ける音、箸ではさんだ肉からしたたる肉汁、噛むごとに口の中に広がる旨味......これを嫌いだという人なんてこの世にいるんでしょうか。  そんな焼肉をさらにおいしく感じられるようになる一冊が『焼肉語辞典』。肉マイスターとして知られる田辺晋太郎さん監修のもと、牛、豚、鶏などの肉の部位についてやおいしい焼き方、タレ、流通など焼肉全般の知識やうんちくを、多数のイラスト、テキストを交えて解説した焼肉用語辞典です。子どものころからこれまでに辞典なんて何度も引いてきたけれど、こんなに開くのがワクワクする辞典って初めてかも!  さて、この辞典の読み解き方ですが、わからない言葉や知りたい言葉の頭文字から検索して確認するというのは通常の辞典と同じ。そうすることで焼肉のメニューに対する知識、焼き方や食べ方のテクニックなどを深めていくことができます。そして焼肉の業界や市場についての見聞を広めることも。また、途中に挿入されたコラムページからはコアな専門知識を得ることができます。まさにこの一冊に焼肉のすべてが詰まっているといっても過言ではないかもしれません。  具体的にどのような言葉が載っているのか知りたい人も多いでしょう。ここで一部を抜粋すると......。あ行はアイスクリーム、赤センマイ、赤身肉、か行は回転焼肉、カイノミ、さ行はサーロイン、サイコロステーキ、サウスダウン種、た行は大根おろし、大山鶏、ダイチョウ......といった感じ。ごはんや麺類、サラダなどのサイドメニューや調理器具の用語まで並んでいるのにビックリですね。  けれど、本書の冒頭に「焼肉は素材から焼いて口に運ばれてくるまでのストーリーが存在する。腹一杯になればいいというものではなく、その過程をいかに楽しむかが焼肉の充実度を決めるのではないだろうか」と書かれているとおり、焼肉とはそれにまつわる何もかもが、おいしく食べるために欠かせないものだと考えられます。単なる食事という概念にとどまらず、焼肉にはエンターテイメント性がある。これほどまでに私たちを魅了してやまない理由のひとつもそこにあるのかもしれません。  本書を読み終わるころには、皆さんもきっと焼肉を食べに行きたくなっているはず。そして本書を読んだ後に食べる焼肉はまた格別なものとなるに違いありません。  ちなみにこのシリーズとして『パン語辞典』や『コーヒー語辞典』『ビール語辞典』なども出ていますので、興味を持った方は手に取ってみてくださいね。
クスリ、ヤクザ、貧困ビジネス...大阪・西成での日々を綴った潜入ルポ
クスリ、ヤクザ、貧困ビジネス...大阪・西成での日々を綴った潜入ルポ 大阪市西成区あいりん地区。この地に軒を連ねるのは、生活保護受給者や日雇い労働者などを対象にした、通称「ドヤ」と呼ばれる簡易宿泊所。1泊1000円ほどと格安で利用できることから、東南アジアの安宿を利用するような感覚で、近年ではバックパッカーのような旅行者や出張ビジネスマンにも重宝されているのだとか。   今回ご紹介する『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』は、そんな貧困地域に潜入した日々を描くルポルタージュ。著者の國友公司さんは1992年生まれのフリーライター。筑波大学を卒業するも就職活動に失敗し、卒業の翌月から、俗に飯場(はんば)と呼ばれる作業員宿舎に住み込みます。解体作業などの肉体労働に従事したほか、生活保護受給者から搾取する貧困ビジネスが横行する現場も目撃することに。  最終的には、使用済みの注射器がザクザク出てくるホテル(ドヤ)のスタッフとして働きますが、ここで同僚となったのは、刺青が入った「皆川さん」、コミュニケーション能力に欠ける「K太郎」など、いずれも訳アリな顔触れ。  働きながらこの地域に流れ着いた人々を観察した結果、「あくまで体感として、その内の六割が覚せい剤を経験し、四割が元ヤクザといった感じである」(同書より)と言います。また遭遇した社会不適合者の面々の中には、恐らくADHD(注意欠如・多動性障害)などの何らかの発達障害が背景にあるように見える人もいたと述懐。  西成の感覚にどっぷり浸かりつつあった著者は、東京に戻るタイミングを亡失し、当初1カ月の滞在予定が78日間にも及ぶことになりますが...。  「お前はこれから西成の本を書くんやろ? その本で有名な作家になって、K太郎のことや俺らのことや西成のことなんてさっさと忘れて次に進め。お前も自分がどうなるか分からないって不安があるのも理解できるが、お前にはこの街にいる人間と違って未来があるんや。とにかく頑張り」(同書より)  そんな同僚の言葉をきっかけに、まもなくそのホテルを辞め、執筆したのが同書。新人フリーライターが「大阪市民も恐れる魔窟」(同書より)にどっぷり浸かった日々を綴った同書は、現代日本に生きる私たちに知られざる裏社会の存在を伝えてくれる、稀有な一冊と言えるでしょう。

特集special feature

    AIが当たり前となるこれからの時代、私たちはどう生きていくべきか?
    AIが当たり前となるこれからの時代、私たちはどう生きていくべきか? AI(人工知能)、仮想通貨、電子マネーなど10年前にはまだ一般的とはいえなかったこれらのワード。今では私たちの日常にありふれたものとして存在しています。少し前までは「AIが人間の仕事を奪うようになる」と言われてもピンと来なかったものですが、今セルフレジを導入するスーパーマーケットやアパレルショップなども日に日に増えているのが現状です。  逆に言えば、これから先の仕事や会社、キャリアについてだって、10年後どころか5年先すら予期できない状況といえるのではないでしょうか。では、新たに始まる世界の中で私たちはどう生きていくべきなのか......?  その手がかりを示してくれる一冊が、堀江貴文さんと落合陽一さんによる『10年後の仕事図鑑』。お金、職業、仕事、会社、学校など、今考えられる新たな社会の姿を、常に時代の先端を走り続ける堀江さんと気鋭の日本人研究者として注目を集める落合さんが、あますところなく語っています。  少し前にAIでなくなる職業が話題になったことがありますが、実際に「自分の仕事はこの先も通用するのか?」「AIに取って代わられることはないのか?」と危機感を抱いている人も多いはず。本書では「消える職業」「生まれる職業」など含め、50近くの職業の未来をイラスト入りで紹介していて参考になります。  たとえばビジネスマンの筆頭職ともいえる「営業職」。本書では「AIが信頼されるようになると、『この人なら買ってもいい』と思われるようなお客さんがついている営業職だけが生き残れるようになる」と予想されています。そしてこの兆候はすでに「YouTuberの動画コマースなどに表れているのではないだろうか?」とも。  たしかにひと昔前であれば、何か商品を買おうとした際、営業職の人から説明を受け購入するかどうかを判断する場合が一般的でした。けれど今、ネットで少し探すだけで商品の情報が豊富に見つかり、購入者のレビューを見ることができ、さらに自分の好みや希望に合わせた最適な商品までオススメしてくれる。営業マンよりもYouTuberの動画紹介のほうがはるかに購買欲をそそられる場合もあります。将来的には「フォロワーのいる営業職だけが生き残る」というのもあながち間違いではないかもしれません。  他はどうでしょうか。なり手がいないということでニュースなどでたびたび取り上げられる「介護職」。これについては「サービスのあり方が変わる」としています。行動にともなう安全管理といったAIに任せられる部分が増えれば、人がやるべきでない業務が減る。「仕事は最適化され、対話など、人間にしかできない仕事の価値が総じて高くなるだろう」と書いています。仕事の価値が高くなることで介護士の賃金が高くなる未来もありうるのであれば、AIの進化も悪いものばかりではないといえそうです。  本書では、おとずれる未来に対して不安ばかりを煽っているわけではありません。今後、今のような形の仕事や会社はなくなるかもしれませんが、それを希望と見るか絶望と見るかはあなた次第だと説いている本書。この先、自分なりのポジショニングをどうすべきか見極めたい、これから社会にはばたく学生、将来の職業について考える10代など、幅広い人たちが生き方のヒントをもらえる一冊となっています。
    加藤ミリヤとインスタグラマーが考える「インフルエンサーの未来」とは
    加藤ミリヤとインスタグラマーが考える「インフルエンサーの未来」とは 11月28日、渋谷ブリッジ1階のカフェ「NO RAILS, NO RULES.」でトークイベント「インフルエンサーの未来についてぶっちゃける」が開催され、シンガーソングライターの加藤ミリヤさんが登場しました。  同イベントは、雑誌『an・an』(マガジンハウス)で連載されていた加藤さんの人気作品が書籍化された小説『28 twenty eight』(ポプラ社)の「読書サロン」として行われ、著者である加藤さんと、ファッション動画マガジン『MINE』編集長の秦 亜衣梨さんが登壇。さらに参加者として、会場にはインスタグラムなどを中心に情報を発信するインフルエンサーの女性約10名が集まり、様々なトークが展開されました。  『28 twenty eight』は、高校の同級生でありながら、生き方も性格もまったく違う28歳の女性5人が女子会を通じてそれぞれの人生に向き合っていく姿を描いた小説。一方の秦さんが手掛ける『MINE』は、「明日の自分を提案する」をコンセプトに30歳前後の女性に向けたコンテンツを配信するオリジナル動画メディアです。  加藤さんと秦さんは、「自分自身で未来につながる旅」を計画し、その様子をシリーズで配信する『MINE』の特別企画『Future is MINE』で連載を持っていたことが縁で今回のイベントの開催に至ったそう。トークイベントはまず、本のタイトルにちなんで登壇者2人の「28歳」からスタート。  「『28 twenty eight』に出てくる5人は、どこかが自分か自分の友達に当てはまっていて、その時に感じていた苦しさを思い出しました」とまず秦さん。それに対し加藤さんは、「『28 twenty eight』は、高校を卒業して10年が経った節目に高校時代の友人たちと再会した際の会話をもとに書いた物語なんです。キャリアアップしたかったのに結婚と出産を経験し後悔していると語る子もいれば、結婚を高らかに宣言して『ミリヤはいつまで仕事するの?』と言ってきた子もいて、それにカッチンときたり(笑)。でも、人と比べるわけじゃないけど、私は自分の人生で良かったと思えています」と語りました。
    心温まるエッセイが詰まった『泥酔懺悔』はおいしいお酒を飲んだ時のよう------アノヒトの読書遍歴:山中千尋さん(後編)
    心温まるエッセイが詰まった『泥酔懺悔』はおいしいお酒を飲んだ時のよう------アノヒトの読書遍歴:山中千尋さん(後編) グローバルに活躍しているジャズ・ピアニストの山中千尋さん。世界を舞台に活躍を続ける一方で、時間があれば本屋を巡り、月に50冊ほどの蔵書を購入されるといいます。そんな山中さんに、前回に引き続き日頃の読書生活について伺いました。
    1カ月の本の購入数は50冊以上、時間があれば神保町で古本屋巡りも------アノヒトの読書遍歴:山中千尋さん(前編)
    1カ月の本の購入数は50冊以上、時間があれば神保町で古本屋巡りも------アノヒトの読書遍歴:山中千尋さん(前編) ジャズ・ピアニストの山中千尋さん。名門校「バークリー音楽大学」を首席で卒業した後、米メジャーレーベルと契約し全米デビュー。これまでにリリースしたアルバムは国内のあらゆるジャズチャートで1位を獲得し、名実ともに日本を代表するピアニストに。今年6月には、最新アルバム『ユートピア』をリリースしました。現在はアメリカ・ニューヨークを拠点として、世界各地で活躍している山中さん。グローバルな活躍と同様に、さまざまなジャンルの本を読むとか。今回は幼少期からの読書遍歴を伺いました。

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