◆今も抱え続ける「私は母親失格」◆

 夫に罵られ、彼女は“不安の吐き出し口”をなくしてしまった。次第に、

「私がおかしいんだ。私が悪いんだ」

 と自分を責め、ふさぎこむようになった。
「夢を見るのが怖い」と、眠ろうとしない妻に夫は、

「いい母親になるために」

 と、妊婦の体操教室に通うことを勧めた。
 その体操教室で、B美とA子は出会う。
 2人は年が近いこともあり、夫の収入への不安や「子ども手当」への期待で話が盛り上がった。そんな折、どちらともなく、ふと毎晩見る「悪夢」の話を打ち明けあった。同じ悩みを抱える妊婦がいたことに驚き、2人は意気投合。今では「わが子の悪口」を言い合える仲になったという。
 一人で秘密を抱えていたときとは違い、自分を責めるようなことはなくなったというが、2人は取材中に何度も、

「私は母親失格です」

 と繰り返した。
 彼女たちのような母親は「特例」なのか──。

「そんなことはありません」

 と、きっぱり否定するのは産婦人科の宋美玄(ソンミヒョン)医師だ。

「妊婦の中には積極的に望んで妊娠していない方もいます。たとえ望んだ妊娠であっても、男女の間で十分な話し合いがなされていなかったり、金銭的な問題があったりと、いろいろな理由で不安なままおなかが大きくなっていくケースは多い。そんな患者の中には、本当は妊娠を受け入れられず、おなかの子をモンスターのように感じる人もいます。特に初産では、不安になるのが当たり前です」

 不安の出方として一般的なのが「悪夢」だ。
 彼女たちだけではなく、インターネットで〈妊娠 悪夢〉などで検索すると、

〈現在妊娠7カ月。毎日悪夢を見ます〉

〈妊娠したら怖い夢を見るようになった。それも出産後に死んじゃうとか、必ず血が流れる夢〉

 と、悪夢に悩まされる妊婦が多いのがわかる。
 A子やB美はお互いを知ることで不安を和らげることができた。しかし、はけ口を見つけられず不安を膨らませると、出産後に重症化することもある。
 知り合いを介して会うことができた会社員のC子さん(37)は、4年前に結婚して息子を授かった。
しかし、子どもの面倒は専ら夫(38)が見ているという。

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