「安定期に入って、どんどんおなかが大きくなっていくうちに、赤ちゃんが気持ち悪くて、怖くて、しょうがなくなった」

 一方で夫は、学校から帰ると真っ先におなかに向かって話しかけた。まだ見ぬわが子に鼻の下を伸ばす姿を見ていると、とうてい“ホンネ”は言えなかった。

「旦那はもちろん、周りの人も『おなかに赤ちゃんがいると幸せそうでいいなあ』とか、『お母さんらしい顔になったなあ』って言うから、口が裂けても『キモい』なんて言えへん。そうやって我慢してたら、変な夢を見るようになった。赤ちゃんがエイリアンみたいにおなかを食い破って出てくるような怖い夢ばっかり。毎日、自分の叫び声で起きてしまうねん」

 A子の苦しみを少しだけ軽くしたのは、“同志”の存在だった。
 フリーターのB美(24)は、突然の妊娠にとまどった。彼氏(26)と自分の収入に不安を抱いていたからだ。
 それでも、民主党政権の「子ども手当」をアテにすれば、

「なんとか子育てができるだろうと踏み、出産、結婚を決意した」

 という。
 だが妊娠3カ月を過ぎたあたりから、悪夢に悩まされるようになった。

「たいてい大出血して私が死んでしまったり、陣痛が1週間続いても生まれないという恐ろしい内容ばかり。しかも、夢でも強烈な痛みを感じるんです」

 そのうち、おなかの中で子どもが動くたびに恐怖を感じるようになる。

「そんなこと考えたらダメと思えば思うほど、赤ちゃんに対して『怖い』『気持ち悪い』という嫌悪感が湧いてきた」

 ある日、耐え切れなくなったB美は、ついにその嫌悪感を夫に告白した。すると、夫は涙を流し、怒鳴り声を上げたという。

「母親のくせに信じられない! 頼むから俺の子どもをそんなふうに言わんといてくれ!!」

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