電通過労自殺事件 多面的に展開可能な労働問題 なぜ民放テレビは淡白だったのか (3/3) 〈GALAC〉|AERA dot. (アエラドット)

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電通過労自殺事件 多面的に展開可能な労働問題 なぜ民放テレビは淡白だったのか

水島宏明GALAC

 私自身は2008年末に年越し派遣村が実施されたことに象徴される、<働き方による貧困>がクローズアップされた時期に派遣労働などの「働き方」の問題を取材し、テレビ報道してきた。民放の討論番組でも「働き方」について、経営者や労働組合などが一堂に会して議論したが、あの頃に比べると特に民放番組の労働問題への淡白な姿勢が目につく。

 長時間労働の弊害について問題提起をし、議論する場を設けることはテレビ番組の大切な役割のはずだ。

 いうまでもなく「働き方」は現在の日本社会の大きな課題のひとつであり、安倍政権も最重要課題に位置づけるテーマだ。政権は裁量労働の対象範囲の拡大や派遣労働での規制緩和など「労働分野の規制緩和」を大胆に進めつつ、他方で今回の電通のような悪質なケースを取り締まる一罰百戒の姿勢を示す。カジノ容認に象徴されるようにさまざまな分野で規制緩和して自由競争を加速させ、結果として格差が広がっても法令違反だけ懲らしめる姿勢。そんな政策の現状や懸念などの問題点を示し、働き方の法的規制は現在のままでよいのかメディアは問うべき責務がある。

 ところが積極的な報道姿勢をみせるNHKを除けば、民放各社は軒並み消極的だ。長時間労働を過少申告するサービス残業が、電通のみならずテレビ各社でも共通する実態などと関係があるのか。「残業申告が多い人は異動の対象に」。そんな脅しめいた忠告を報道現場等の社員で聞かなかった人はいまい。

 24歳の若さで消えた高橋まつりさんの命。悲劇を繰り返すまいという人としての思いが民放の伝え手から響いてこないのはどうしたことだろう。

 一方、NHKで女性キャスターたちが「怒り」の感情を滲ませながら伝えていたのが強く印象に残った。「日本社会全体の問題として徹底的に考えていく必要がある」(桑子真帆)、「こうした悲しい出来事をきっかけに日本の働き方の風土を変えていけるのかどうかが問われています」(鈴木奈穂子)。決して他人事にしない。そんな覚悟をテレビで久々に見た気がする。(上智大学文学部教授・水島宏明)


水島宏明(みずしま・ひろあき)
上智大学文学部教授(テレビ報道論)、元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター兼解説委員、札幌テレビ・ロンドン特派員、ベルリン特派員。近著に『内側から見たテレビ』

※『GALAC(ぎゃらく) 2月号』より


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