日々の番組で挨拶の後に発するその日のテーマへ導く一言は、その結晶だ。

 「数年ほど前から在日韓国・朝鮮人の人々を貶めたり、差別を煽ったりする街宣活動が行われるようになってきました」「親からの虐待、貧困、望まない妊娠などによって、実の親と暮らすことができない子どもたちが大勢います」「若い女性の失業や低収入という問題は男性と比べると見えにくく、問題視されにくいと言われています」など、吟味を重ねた言葉で視聴者に入り口を示した。

 オープニングやVTRへの振りや受け、ゲストへの質問等の「言葉の確かさ」が特徴だった。

 キャスター自身が理解して言葉を発しているのか、制作者が書いた原稿を読み上げているだけなのか、テレビというメディアは映し出してしまう。国谷は毎回、膨大な資料を読み込んで、取材した記者の説明を納得いくまで聞いて本番に臨んだという。なかなかできることではない。

 そんな彼女には橋田壽賀子賞、放送ウーマン賞、放送文化基金個人賞、菊池寛賞、日本記者クラブ賞などが贈られ、世間の評価は高い。

●生インタビューの質問の的確さ

 自分の主張を声高に言うことは控えて、「私」はインタビューの質問にだけ込める。一度きりの生放送での丁々発止。テレビという媒体では、どんなに繕って見せていても当人の思想や性格、人間性が透けて見えてしまう。相手と距離感を測りながら、できるだけ心の奥に届くようにボールを投げ続けた。

 「憎悪の言葉を発しながら行動するということは日本ではなかったと思いますが、なぜこういうことが起きていると思いますか」(ヘイトスピーチ問題で、ロバート・キャンベル東大大学院教授への質問)

 「治る見込みがない。自分に残された時間が少ないと知った時、どう生きるのか」(がん患者である樹木希林への質問)

 物議を醸したのが2014年7月3日。この夜のゲストは菅義偉官房長官だった。

 集団的自衛権の行使容認を閣議決定した直後に質問をぶつけた。官房長官がたびたび目を下に落とし、原稿を読み上げるように答えたのに対し、国谷は「しかし……」を連発して憲法解釈をなぜ変更しなければならなかったのかと食い下がった。

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