「えー、基本的な枠内で新たに我が国と密接な関係がある他国に対する武力攻撃が発生して、わが国の存立そのものが脅かされ、国民の生命、えー。自由、幸福追求のですね、えー、権利が根底から狂い……覆される明白な…危険というものを形の中に入れてですね……」(菅)

 頻繁に目を原稿に落としているのに、つっかえつつ話す官房長官のわかりにくい説明。不明瞭な言葉が続き、視聴者の反応を想像したのか途中で国谷が「ふっ」と鼻で笑ったような瞬間もあった。

 番組終了が近づくなかで国谷は問い続けた。

 「しかし、そもそも解釈を変更したという原則の部分での言い方や不安というものをどうやって払拭していくか」(国谷)

 「あのー、ですから、先ほども申し上げた通りにこれだけ世の中変わって、どこの国でも一国で平和を守ることができるような……」(菅)

 この話の途中で番組は突然切れて終了。時間管理がうまい国谷の「クロ現」では珍しく不体裁な放送だった。わかりやすく伝わらない集団的自衛権に関して視聴者を代弁して説明を求め続けた圧巻のインタビューだった。

 その後、この放送に首相官邸が激怒しNHK側に抗議したという報道が週刊誌であった。これは籾井勝人NHK会長は記者会見で否定した。

●「やらせ疑惑」で潤んだ目で伝えた言葉

 週刊誌報道がきっかけで「クロ現」に激震が走った。2014年5月14日に放送した「出家詐欺」の取材VTRで「やらせ疑惑」が浮上したのだ。出家した体裁で多重債務者に別の名前を取得させることで新たな借金を可能にさせ、金融機関などから金銭をだまし取る詐欺の一種。取材した大阪放送局の記者が、「多重債務者」が「出家詐欺のブローカー」に相談する場面を隣のビルから隠し撮りしたような映像を放送したが、実はその場に記者が隠れて撮影の進行を段取りし、相談の直後に行われた「多重債務者」への直撃インタビューも「演出」で、ブローカーの「活動拠点」とされた場所も虚偽だったなど、次々に問題が発覚。15年4月28日にNHK内の調査委員会の中間報告を受けた後で、国谷は番組で視聴者に謝罪した。

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