「(問題の)番組はその一部が視聴者の期待に反する取材・制作が行われていたと指摘されるに至りました。私としてもまことに残念であり、改めてお詫びいたします。22年間、この番組が続いてきたのは多くの視聴者の方々の番組への信頼という支えがあったためであり、今回のことはそのことを損ねてしまいました。この信頼を再び番組の支えとしていくためにはこれからの1本1本の番組を今回の調査報告の指摘も踏まえて真摯な姿勢で制作していくことしかありません。今、その思いを改めて強く、嚙み締めています」

 こう語る国谷の目は赤く潤み、無念さを伝えた。

 ”出家詐欺”問題では、その後NHKが「過剰な演出」と「編集」に問題があったものの「いわゆる『やらせ』は行っていない」とする調査報告書を出す。しかしBPO(放送倫理・番組向上機構)は二つの委員会でNHK内部の調査の甘さを指摘する意見をまとめた。BPOはこの問題で、NHKに行政指導した総務省とNHK幹部を呼び出した自民党の「圧力」を強く批判した。そのうえで「キャスターの言葉通り、視聴者に信頼され、社会の真実に迫る意欲的な番組が今後も生み出されていくことを強く期待している」と結んだ。

 2016年1月に入り、国谷のキャスター降板が新聞で報道された。「NHK上層部の意向」だという。真っ先に報道した朝日新聞の川本裕司編集委員は、菅官房長官をスタジオに呼んだ際の放送がキャスター降板の引き金になったと解説。NHK幹部の「官邸を慮った決定なのは間違いない」という声や、NHK関係者の「経営陣は番組をグリップし、クロ現をコントロールしやすくするため、番組の顔である国谷さんを交代させた」という見立て、さらに「クロ現」関係者の「降板決定の背景にあるのは、基本的には忖度だ。言いたいことは山ほどある」という制作現場の不満の声が掲載されている。

 筆者自身も国谷を降板させるのは筋違いだと憤りを感じ、ネット記事で再考を促す記事を書いた。しかし降板は動かしがたいものになっていた。

●今年に入って見せた「最後の意地」

 2016年に入ってからの「クロ現」は、以前にも増して「現代」の問題に深く切り込み続けた。2月22日の「広がる〝労働崩壊〟」では、公立の保育園で民営化が広がり、正規職員が非正規にさせられたり雇い止めに遭ったりしている実態を伝え、保育園問題を先取りしてギャラクシー月間賞にも選ばれた。3月14日の「女性たちの”戦争”~知られざる性暴力の実態」は、ISなどのテロリスト集団によって拉致・監禁されてレイプされた少女たちを取材した力作。15歳で拉致されて性暴力の犠牲になった少女がその後に恐怖のあまり自らガソリンをかぶって大やけどをした姿をさらけ出す映像などが痛々しかった。国谷は得意の英語を使って国連の担当者に中継インタビューを行い、現状の深刻さを尋ねた。

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