2月9日「がんを”生ききる”」では、15年間がんと闘い続ける女優の樹木希林が生出演。樹木は出演を打診された際に「出ます」と即答したと明かした。「国谷さんに会いたいから」「国谷さん本当に素敵な仕事ぶりだと思っているの。NHKは大変な財産をお持ちだなあと。私はいつも大好きな番組です」と国谷への賛辞を惜しまなかったのは、すでに降板が報じられた国谷へのエールと言えた。

 3月16日の国谷の最終回は「未来への風~”痛み”を越える若者たち~」。この「失われた20年間」で若者たちが競争激化や管理強化、同調圧力で声を上げにくい社会になったと、ブラック企業問題の改善を求めたり、集団的自衛権の容認に反対したりとさまざまな活動に取り組み声を上げる若者たちの姿を特集した。今の若者たちが抱える「痛み」とそのなかでも声を上げる人間が出始めている「希望」を伝えた。

 最終回の最後、国谷は涙も見せずに清々しい表情で挨拶をし、視聴者に別れを告げた。23年間という時間の長さは途方もない。最前線でさまざまな問題を伝え続けた国谷。彼女がその代わりに犠牲にしてきたものはけっして少なくないはずだ。

 国谷が去って2週間後、「クローズアップ現代」は22時開始という時間帯に移動し、番組名に「+」という記号とカッコ型の赤色のロゴが付いて模様替えして放送を再スタートさせている。その初回を見た。キャスターのカメラ目線はなくなり、そこにジャーナリストの存在はない。代わりにいたのは目を落として原稿を読み上げる人形のような女性アナウンサーだ。かつての「クロ現」とは似て非なるものがそこにあった。

 23年間、国谷が歩み続けて積み上げたもの。それは「テレビ報道への信頼感」という大切な財産だったのではないか。テレビはそれを永遠に失ってしまったのだ、とその大きさを痛感した。

国谷裕子ラストメッセージ

 23年間担当してきましたこの番組も、今夜が最後になりました。この間、視聴者の皆様がたからお叱りや戒めも含め、たいへん多くの励ましをいただきました。クローズアップ現代が始まった平成5年からの月日を振り返ってみますと、国内・海外の変化の底に流れるものや、静かに吹き始めている風をとらえようと日々もがき、複雑化し、見えにくくなっている現代に、少しでも迫ることができれば、との想いで番組に携わってきました。23年が終わった今、そのことをどこまで視聴者の皆様がたに伝えることができたのか、気がかりですけれども、そうしたなかでも長い間番組を続けることができましたのは、番組にご協力いただきました多くのゲストの方々、そしてなにより、番組を見てくださった視聴者の皆様のおかげだと、感謝しています。長い間本当にありがとうございました。

みずしま・ひろあき 法政大学社会学部教授(テレビ報道論)、元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター兼解説委員、札幌テレビ・ロンドン特派員、ベルリン特派員。近著に『内側から見たテレビ』。