著者自ら首長選の現場を旅して書いた、異色のルポだ。地方の首長選というと無投票による多選のイメージが強い。もし仮に選挙が行われても、現職の再選率が84・2%といわれている。

 たずね歩く舞台は、61年ぶりの選挙で話題になった大分県姫島村はじめ、マグロと原発の町や飛び地の村など土の香り漂う七つの町村だ。現地に足を運んだだけあって地元の秘め事にも触れており、その場の空気やそこに住む人々の体温すら立ち上がってくる内容になっている。

 本書の舞台で地方選が成立したのは対抗馬がいたからだ。近所同士で敵味方に分かれれば、しこりが残ることはわかっている。それでも、彼らが立ち上がったのには重い理由がある。敢然と不利な戦いを挑んだ、彼らの勇気を讃えたい。その勇気によって、民主主義は守られたのである。(吉村博光)

週刊朝日  2021年2月19日号