シンギュラリティーとは、AIが人類を凌駕する技術的特異点のこと。ただし朝日新聞に連載された「シンギュラリティーにっぽん」におけるその語には、もう少し広い含意がある。AIに限らず、技術が進歩していった果てに、社会はどう変わるのか。それに伴う課題の数々に、丹念な取材を通じて焦点を当てているのが本書だ。

 投げかけられる問いは、多岐にわたっている。AIは人間から仕事を奪うのか。GAFAをはじめとする巨大プラットフォーマーによる支配から逃れるすべはないのか。顔認証システム、信用スコア、DNAのデータベースがはびこる社会は、究極の監視によって人権が損なわれるディストピアではないのか。

 テクノロジーを受け入れることは不可避だとして、その中でいかに「個人」を守っていくのか。その喫緊の課題に目を向けさせてくれる一冊。(平山瑞穂)

週刊朝日  2020年11月13日号