著者には、東大を卒業し大企業に就職した後、重責に押しつぶされて退職した挫折経験がある。その後、紆余曲折を経て働き始めた阿部梨園で、農家の右腕として経営改善に取り組み、大きな成果を収めた。本書は、その奇跡のストーリーと実用的なノウハウが詰まった一冊である。

 税理士やコンサルタントが、外部から農家を経営支援することは多いだろう。一方著者は、内部から3年で500件という膨大な数の小さな改善を積み重ねた。その経験は稀有なものだ。しかし「東大卒」でなくてもできるものばかりである。農家に限らず、他業種でも活用可能だ。

 さらに読みどころはもう一つある。若くして家業を継いだ阿部梨園代表者の「懐の深さ」である。彼の姿勢から、レガシー産業の変革には「経営者の覚悟」が欠かせないことをあらためて教えてもらった。
(吉村博光)

週刊朝日  2020年10月23日号