第2次大戦下、ビルマ駐屯の軍曹と住民たちの日々の逸話を描いた戦場小説。

 太平洋戦史を下敷きに市井の人々の葛藤をテーマにしてきた著者の今作は、ビルマの山村が舞台。住民係の西隈軍曹は、ペストの予防注射を住民たちに施そうとして古老の反対にあい、捕獲した鼠まで逃がされてしまう。制空権は英軍に奪われ、毎日の空爆で道路は陥没。補修員を集めようとするが、「2時間の昼寝」は習慣だからと譲らない彼らに翻弄される。軍の視点では「怠惰」なビルマ人だが、熱心な仏教徒である彼らの視点に立てば、軍人が目をふさぐ「戦争の現実」が現れる。

 インド北東部のインパールの攻略に突入していく前夜、美しい一日の光景で唐突に話は終わる。何のために生きるのかを問う、著者の最高作といえるだろう。(朝山実)

週刊朝日  2020年6月19日号