いっちゃなんだが、やくたいもない本である。養老孟司+南伸坊『超老人の壁』。かつて『バカの壁』を大ヒットさせた解剖学者の養老さん(1937年生まれ)と、『本人の人々』などで有名人に扮装した写真を発表しているイラストレーターの伸坊さん(47年生まれ)がとりとめのないことを語り合った対談で、『老人の壁』(2016年)の続編という。

 たとえば、頭の中で数を数える方法について。物理学者のファインマンの例を引きながら養老さんいわく、〈ファインマンは頭の中で1、2、3、4って、音にして「耳で」数えていた。友達のほうは、頭の中で「日めくりカレンダー」をめくっていた。つまり、友達は「目で」数えている〉。〈こんな、「100まで数える」という同じことをやるにしても、一人ひとり使うチャンネルが違うんです。個人差ってそういうところにも出てくるんですね〉

 あるいは、西洋と東洋の絵画の違いをとらえて伸坊さんいわく。〈西洋の絵がなんでああいう発達をしたかっていうと、光学装置を使うと、ものすごくリアルに描けるっていうことがわかっちゃったからです〉。光学装置を使うのは、素人には「写しただけ」のズルじゃないかと見えるけど〈その「ズルの歴史」が西洋画の基本の技術なんです〉。ところが、洋画の写実的な表現に日本の画家はビックリし、影や遠近法を無視した日本画に西洋の画家はビックリした。〈西洋人はそれで印象派になるし、日本人は「洋画」が「本当の芸術」になっちゃう〉

 帯では〈年を取っても世界は不可解──語りつくした「人間」という謎〉〈思索が深まる対談集〉と謳っているけど、思索、深まっていますかね。思索はむしろ雲のなかに拡散していない?

 とはいえ、このダルな感じこそお二人の持ち味。歌の歌詞の意味がわからないという話をひとくさりやった後の締めの言葉は〈養老おじいさんになったね。/南 おじいさんになりました(笑)〉。

 こういわれては、誰も文句はいえない。これぞ最強の老人力。

週刊朝日 2016年4月14日号