元「小説新潮」編集長が、水上勉、渡辺淳一、城山三郎、藤沢周平、井上ひさしら21人の作家を、実際に見聞きしたエピソードとともに描く。タイトルは「作家という職業がもたらした特殊な習慣や傾向」を指す。
 掉尾を飾るミステリー作家・山村美紗の項は驚き。山村は、ベストセラー作家の西村京太郎とコンビを組み、編集者仲間に「京都時代」とよばれるほどの盛況を作った。新年会・誕生会はホテルの会場が使われ、社によっては社長も出席する。山村の娘紅葉が出る芝居は見るなど、忠誠心を見せなければならない。ある年の新年会での福引籤の総額は1千万円! 「山村は、人がいかに金や物に弱いかということを知っていたが、単純に『人に物をあげるのが好き』という性格でもあったのだろう」と著者。雑誌の表紙で自分の名が特別扱いされていないことに腹を立てた山村に、「あんなの、載せたうちに入らないわよ!」と叱られ、ホワイトデーにはその山村にネグリジェを送る。
 編集者は旅する。作家から作家へ。著者のはりつめたきくばりも読みどころ。

週刊朝日 2015年10月16日号