主人公の〈私〉は、出版社で文芸書を担当するベテラン編集者。大の本好きだ。太宰治の小説「女生徒」を読むなかで、女生徒が引いた辞書、すなわち太宰治の辞書は何だったのか? 最後の一文「もう、ふたたびお目にかかりません」とはどういう意味か?など、さまざまな疑問を抱く。それら一つひとつを丁寧に調べ、真相に近づいてゆく。
 本書は、著者のデビュー作『空飛ぶ馬』からつづく〈私〉シリーズの最新作。1998年発売の第5作から、17年の時を経て刊行された。
 現実の世界と同じだけ歳を重ねた登場人物たちとの再会に、うれしい驚きを感じる読者も多いだろう。
「小説は書かれることによっては完成しない。読まれることによって完成するのだ」と本文にあるように、〈私〉によって丁寧に読まれた小説たちは新たな輝きを持ち始める。まさに「本のための本」なのである。

週刊朝日 2015年7月10日号