朝鮮半島で生まれながら人生の大半を日本で暮らさねばならなかった〈在日〉詩人による回想記。時折「憤怒」や「憎しみ」を口にせずには語れない壮絶な人生には、言葉を失うばかりだ。
「解放」(終戦)の時に涙するほどの皇国少年は、青年となり、南朝鮮だけの単独選挙に反対して起きた武装蜂起に加担する。「済州島四・三事件」と言われるこの事件で、島では「アカ狩り」を掲げた軍や警察による無残な大量虐殺が起きた。当然ながら著者にも生命の危機が迫ってくる。監視の目から逃れ、日本への密航船に乗り込むまでの過程は、当事者の証言ならではの臨場感が伝わり、思わず手に汗を握ってしまう。
 日本でも、どこにも属せない心細い生活が続く。そんな中、心を癒やしてくれる詩や仲間に出会うことで、〈在日を生きる〉ことへの意味に目覚めていく。著者は自らの立場に、南北対立を超えた「民族融和」という意味を見いだし、「和合せよ」とメッセージを送る。苦難を乗り越えて、平和を歌う著者の言葉だからこそその力は強い。

週刊朝日 2015年3月27日号