主人公である中学三年生のヒロシの周りは、ちょっと複雑だ。
 ヒロシには父親がいない。小さい頃に両親が離婚し、女手ひとつで育てられた。その母親が再婚したいと言い出す。友人のヤザワは、理不尽な理由で悪意のある噂を広められ、嫌がらせの標的となる。クラスメートの女子生徒は、なにやら家庭の事情を抱えている……。
 周囲の危機に、ヒロシは半ば強制的に巻き込まれるが、正面きって助けられるほどの力はない。それでも精一杯の勇気で、おずおずと手を差し伸べ続ける。
「誰だってまともに生きていきたいと思う。けれど自分たちには、独力でそうするためのツールが、まだ与えられていない」。まだ大人じゃないせいで、自分ではどうすることもできないことがある。その無力さと憤りを抱えながら、この小説に登場する少年少女たちは、しっかりと自分の足で立ち、未来を見つめる。
 作者は本作執筆の途中、10年半勤めた会社を退職した。強い覚悟と想いが、大阪弁を交えた軽やかな文体からにじむ。渾身の一冊である。

週刊朝日 2014年12月5日号