東日本大震災の津波に呑みこまれ、日本製紙石巻工場は壊滅状態になった。大方の従業員は工場閉鎖を覚悟した。だが、半年後、出版用紙を供給する抄紙機、通称8号マシンが復活する──。
 震災前の石巻工場は、日本製紙の洋紙国内販売量の4分の1を生産していた。中でも、全長111メートルの8号マシンは古いながらも100種類ほどの紙を造り、他の工場で同じものはできない。工場で働く人々は、ヒットして何百万部にふくれあがっても紙を切らさない覚悟で紙を造る。コミック本を手にした子供たちが嬉しくなるように紙をふわっと厚手に、それでいて柔らかな皮膚が切れないように造る。編集者から「弓なりに美しく開く本がほしい」と言われれば意図を考え抜いて形にする。そんなノウハウを蓄積してきた石巻工場の復活は、出版業界に待たれていた。従業員は思う、<きっと、出版社は自分たちの紙を待っている。出版社が8号を放っておくはずがない>。瓦礫の撤去。徹夜の整備。粘り強い作業。紙の文化を命がけで担う人々の矜持がある

週刊朝日 2014年9月19日号