長沼毅が選ぶ「生き物を愉しむ本」ベスト5

番外編

2014/08/08 19:31

『深海世界』は、あまたの深海生物モノにあって、出色のビジュアル本。たしかに深海は暗黒だが、目を凝らして見れば、それは生き物たちが発する光に満ちた闇だった。日本初のプロ宇宙飛行士・毛利衛さんは宇宙の闇と深海の闇の両方を知っている。毛利さんは「宇宙の闇は何もない闇だが、深海の闇は何かがたくさんある闇だ」と喝破した。そう、深海にだって生命は満ちているのだ、見えないだけで。それをかくも美しく見せてくれる。解説は簡にして要を得ているし、学名も記されているので、もっと高い、いや、深いレベルへも行きやすい。
 私たち人間の体は、しょせん魚から進化したのだ。魚が持っていたものだけで、今の人体ができている。『ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト』によると、私たちの手足も元々は魚のヒレ、魚にあったものから全てができている。寄せ集めや流用や転用などなど、それらの過程にはものすごい創意工夫があったはずだ。そして、同じくらい、いや、もっと多くの失敗もあったはず。そう、進化とは失敗の歴史であり、失敗を乗り越えてきた歴史であり、失敗を抱えたまま生きることでもある。
 その進化を身近に「感じて」みよう。進化は、目的も方向性もないランダムな突然変異にはじまり、これが表現型として体のつくりやはたらきに表出すると自然淘汰や競争にさらされる。ただし、せっかくよい方向に突然変異しても、それをうまく使いこなせなければ、その個体の系統は死に絶えてしまう。逆に、多少の不具合があっても、新しいライフスタイルを開拓して使いこなして結果オーライにするのが進化だ。『図解・感覚器の進化』を読むと、毎日感じている当たり前のことが新鮮で愛おしく思えてくる。続編の『内臓の進化』も面白い。

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