経済の入門書をうたった本は数あれど、どれもわかりにくいんだよな、な方にオススメなのが浜矩子『地球経済のまわり方』である。
 そもそも経済活動とは三角形で表されるものである。<三角形の三辺を構成しているのが、成長と競争と分配という三つの要素である。成長をいいかえれば雇用創造、競争をいいかえれば強者生存、分配をいいかえれば弱者救済だ>。ほらね、わかりやすいっしょ。ついでに<競争なき分配経済が純粋社会主義経済>で、<分配なき競争社会が純粋資本主義経済である>とさらっとカマし、経済活動のサイクルはスティーブン・キング『狼男の一周期』(邦題は『人狼の四季』)を、金融はシェイクスピア『ベニスの商人』を例にとって解説する。<余っているところから足りないところに資金を回す。それが金融機能というものだ。そのための報酬が金利である>。
 中高生を読者対象に想定したちくまプリマー新書の一冊。が、著者は読者を子ども扱いしていない。1990年代の「失われた10年」は<経済活動はすっかり縮み上がり、形を判定するどころか、そもそも三角形そのものがみえないほどに貧弱なものになってしまった>状態だった。こういう時期には競争の強化が必要だが、悲しいかな、始動のタイミングが遅すぎた上、動きはじめた後の勢いが激しすぎた。<これほど情けなくて恐ろしいことは無い>。
 アベノミクスもピシャリと一喝。<そこにあるのは見違いではなくて、意図的な偽装工作であるかもしれ>ず、<相当にタチが悪い。そうではなくて、単純な誤解だとすれば、思い違いにも、ほどがある。いずれにせよ、つける薬がない>。
 安全保障政策がデタラメで、経済政策もデタラメでは、ほんとにもう、つける薬がないじゃん!
 よきエコノミストの必要条件は、独善的で懐疑的で執念深いことだなんていう一言も。中学2年でエコノミストを志したという浜先生の快刀乱麻な筆が冴える一冊である。

週刊朝日 2014年7月18日号