著者は以前『原発危機と「東大話法」』(明石書店)で激烈な知識人批判を繰り広げた東大教授。『ジャパン・イズ・バック』はその安冨歩先生が、安倍政権とその支持者の謎を解き明かした快著である。
 書名は2013年2月、安倍首相が訪米し、オバマ大統領と初の日米首脳会談を行った後の講演の演題に由来する。Japan is Back.<「日本は戻ってきた」という意味で使っているのだと思いますが>、一方では<「日本は後れている」とか「日本は後戻りしている」とかいう意味にも受け取れるのです>。
 日本社会を覆い尽くしているのは「立場主義」だと著者はいう。夫や妻としての立場、親や子としての立場、会社や地域社会の一員としての立場。個人の意見より立場を優先する日本の民主主義はじつは「立場民主主義」であり、かつての経済成長を支えたのも、与えられた役割を黙々とこなす立場主義だった。
 ところが今日、職場も家族も危機に瀕し、人々は「立場」を求めるようになった。さよう、いまや日本は<われらに「立場」を!>の時代になったのである。すべての立場を失った者にとって唯一残された「立場」は国籍、すなわち「日本人であること」だけ。「日本を取り戻す」、安倍式に発音すれば<イッポンをトレモロす>とは<あなたの立場を取り戻す>の意味なのだと。
 いわれてみればたしかにそうかも。やる気はあっても「立場」がなければ評価されない社会。「立場上やむをえず」の行動がかつては戦争への道を開き、いままた明後日の方向を向いたアベノミクスを支える。
 立場主義の三原則は<一 「役」を果たすためには、なんでもしなくてはならない。/二 「立場」を守るためなら、なにをしても良い。/三 人の「立場」をおびやかしてはならない>。立場主義から脱却する方法は簡単。納得できなかったら<「ハ?」/と言うだけ>。「俺(私)の立場はどうなるんだ」と年中叫んでいる人に読ませたい。

週刊朝日 2014年5月9日-16日号