宇宙船からの映像で、地球が海陸模様の一枚皮を着た丸い天体であることは疑いを容れない。それでも地べたにはりついているとボールの上で暮らす実感はなかなか持ちにくいのだが、飛行機もない幕末からその発明後も実用未だの明治にかけて、東回りに、西回りに海山越えて世界はつながっている、地球は丸いと肌で知った先人の事績を本書は伝える。
 五大陸すべての土は踏まないまでも、著者が独自の物差しで認定した世界一周の猛者の素顔は様々だ。
 海外視察の命を帯びた幕末明治の役人。鎖国下、欧米やロシアの船に救われ幾年を経て日本に帰り着いた漂流民。学者。時代を先駆けた豪華クルーズのハイソな観光旅行。どの例も当時を思えば大冒険に等しい。とりわけすごいのが「五大州探検家」を標榜、韓国を起点に掛け値なしの世界一周を、しかもヒッチハイカーさながらの無銭旅行で貫徹した愛知県出身の帽子商中村直吉の猪突猛進だ。出立は1901年、この時36歳。中村は07年に戻り60カ国約24万キロの旅を終えている。いやはや大変な風来坊がいた。

週刊朝日 2013年12月20日号