カレー、餃子、コロッケ、オムライス、とんかつ、肉じゃが……どれも海外の料理を先人たちが日本人の舌に合うように改良したものだ。では、いつ、どのように「定番」化したのか。
 こうした「食のルーツ」的な情報は、いまやネットで簡単に手に入る。しかしなかには、不確かな一次ソースが引用、複製、拡散され「通説」として定着したものもある。ゆえに著者は、愚直に明治・大正期の料理本などの文献にあたり、検証に検証を重ねていく。また著者は、「元祖」とされる店には一切取材していない。店が語る「物語」に引きずられるのを嫌ったからだ。結果、通説に一石を投じる発見も生まれている。冷やし中華は昭和12年、仙台の中華料理屋が発祥とされるが、すでに昭和4年に「冷蕎麦」として料理本に載っていたのだ。
 本書は、食の本を読む楽しみも十分に提供している。すなわち読んでいて腹が減る。徹底した文献主義に則った丁寧で誠実な筆致は、日本が育んできた豊かな食文化のみならず、「ググればわかる」ことをあえて書籍化する意味をも浮かび上がらせる。

週刊朝日 2013年11月8日号