「すべての道はローマに通ず」の名言を残した17世紀フランスの詩人、ラ・フォンテーヌは、イソップ童話をもとにした寓話も書いている。しかしそこに出てくる教訓はイソップの優等生的それとは大違い、ちょっと青ざめるくらい辛口の人生訓ばかり。したたかに人生を生き抜くフランス人の知恵を学ぶ。
 同じ話でとらえ方が日本人とこうも違うか。『キツネとブドウ』でキツネが負け惜しみを言うのは「愚痴をこぼすよりもまし」でむしろ精神の健康によいといい、狡猾なペテンを働くキツネの話では「騙される方が悪い」。子羊に言いがかりをつけるあくどいオオカミも「最も強い者の理屈はつねに最も正しい」。社会はそもそも理不尽で汚いもの、危機を乗り越えるための現実的な術を身につけよと説くのだ。
 この厳しい寓話をフランス人は子供の頃から教え込まれる。そういう世界の中で人を微塵も疑わぬ日本人ののほほんぶりを著者は何度も怒っている。本当にその通りだけど、寓話の形で語られる教訓ってなんかちょっと腹も立つ。自分がマヌケなロバだってことにいちいち思い当たるからだろうな。

週刊朝日 2013年5月17日号