ユピテルってのは扮装レイプ魔か。ギリシャ神話を絵にしたものが名画としてたくさん残っているが、それが神話のどの部分をどのように描いたのかがわからないと意味がさっぱりわからない。その絵解きをしましょう、ということでコッレッジョ、ティツィアーノ、ルーベンスなどの名画の内容を詳しく解説して、そして「ギリシャ神話の神々」の行状を教えてくれる本なんですが、とにかくユピテル! 姿を変えて女とやるわけです。姿を変えてるので女はやられてると気づかないうちにやられる、と。
 有名なところでは、白鳥に姿を変えてやった、というのがあり、なんとなく「たいへん美しい話」のような気がしていたが、ここで紹介されている名画など見ていると、白鳥がやたら生々しい。ダ・ヴィンチの絵(「レーダと白鳥」)の白鳥なんか「目が好色オヤジ」である。ダ・ヴィンチといえば絵が上手い人だと思ってたが、この白鳥はヘビとか大人のオモチャとか、そういうものに近い。他にも、雲に化けるとか、金の雨に化けるとか、牛に化けるとか、あらゆるものに化けては人間界の女とやる。
 ちなみに、ユピテルというのはラテン語読みで、これがギリシャ語だとゼウス、これはイメージとして「ヒゲもじゃの絶倫おやじ」的だが、英語読みだとジュピターであって、平原綾香の「Jupiter」という歌も、今後は何か違って聞こえてきそうだ。
 ギリシャ神話など知らない私たちが、説明とともにこれらの絵を見るのはとても面白い。「すげえ世界があったもんだ」と感心する。神々には、それぞれ、シンボルになるようなものがあって、わかりやすいように絵にそれが描き加えられているのもいい。いきなり孔雀がいるとか、いきなり虹が出てるとか。そして、基本の神話本体に書かれてないことまで絵で描こうとしてしまう、その濃いつめこみぶりが楽しい。何よりも、エロな話題が満載なのがとても良いです。

週刊朝日 2013年4月19日号