自宅にある作曲部屋「音楽室」で、作曲をするときのポーズを取る佐村河内氏。座禅のように床に座り、ひたすら曲のイメージに集中する。降りてきた音はすべて記憶し、その後、一気に記譜するとメロディーが完成するという(撮影/安部俊太郎)
自宅にある作曲部屋「音楽室」で、作曲をするときのポーズを取る佐村河内氏。座禅のように床に座り、ひたすら曲のイメージに集中する。降りてきた音はすべて記憶し、その後、一気に記譜するとメロディーが完成するという(撮影/安部俊太郎)

 昨年6月、アエラは佐村河内(さむらごうち)守氏(50)に対し3時間に及ぶロングインタビューをした。心を動かされた部分は確かにある。だが、どこか腑に落ちなかった。そして、違和感の数々――。掲載は見送った。取材当時のことを振り返る。

 インタビューは手話通訳者を介して行われた。それは、実に自然であった。会話にもっと苦労するだろうという先入観は、すぐに消えていた。

 取材が始まると、佐村河内氏は実に饒舌だった。「HIROSHIMA」に込めた思い、この曲で全国ツアーが間もなく始まること、音楽の道を目指そうとした幼少期の話などが、よどみなく流れるように出てきた。全聾で耳鳴りも激しく、そうした中でどう作曲をするのか。素朴な疑問をぶつけると、やはり明解な回答が返ってくる。

「瞑想的作曲法と言っていますが、座って、いま目指している曲に集中していると、音が降りてくる。でも、ノイズの壁に阻まれる。大きな宇宙船の中にノイズの壁があって、その隙間から音が降りてくるんです。それはこちらから迎えに行くと、やっと受け取れる大事な音なんです。そうやって内側から生まれてきた音は、聞こえなくなったからこそ出てきた真実の音。その音が集まって曲になるんです」

 実際に作曲し、譜面に記譜しているところを取材できないかと交渉すると、

「神様が降りてくる神聖な瞬間なので、見せることはできない」

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