撮影:岡野昭一
撮影:岡野昭一
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 写真家・岡野昭一さんの作品展「紅鮭 生命の詩」が9月2日から東京・新宿のオリンパスギャラリー東京で開催される。岡野さんに聞いた。

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 4年に1度、ベニザケが産卵のために海から川へ押し寄せるように遡上(そじょう)する「ビッグラン」。

 岡野さんは30年ちかく、カナダ・バンクーバーに注ぐフレーザー川の支流、アダムス川に通い、ビックランを撮り続けてきた。

 サケにはふるさとの川に回帰する習性があり、アダムス川で生まれ育ったベニザケは太平洋に下り、アラスカ沖を回遊した後、母なる川へ戻ってくる。

 1匹のメスが産卵する卵の数は約4000個。しかし、自然は過酷だ。

「孵化(ふか)するまでに、卵のほとんどが死ぬんですよ。川底から流れ出て、紫外線に焼かれて白くなって死んでいく。残りもほぼカモメにつつかれる。もしくは、カビが生えて死んでしまう」

 川から海へ下り、成魚になるのはわずか10匹ほどでしかない。そのうちの約8匹が漁師に捕獲される。

「それがいわゆるアラスカ産のベニザケで、それをぼくたちは『お買い得だね』とか言って、スーパーで買ってくるわけです」

撮影:岡野昭一
撮影:岡野昭一

■「釣りキチ三平」で知った外国

 サケが遡上する川は北太平洋沿岸に無数にある。なぜ、岡野さんはアダムス川を選んだのか?

 そう、たずねると、岡野さんは「最初のきっかけは、これだったんです」と言い、漫画「釣りキチ三平」の単行本を取り出した。

 いやー、これはなつかしい! 表紙に巨大なキングサーモンを手にする三平が描かれた、「サーモンダービー編」だ。

 サーモンダービーとはバンクーバー周辺で行われる有名なサケ釣り大会で、世界の強豪が参加するなか、三平は闘志を燃やす。

「初めて読んだのは小学校5~6年生のとき。三重県四日市のいなかで生まれ育った私にとって、初めて知った外国でした。描写がすごくリアルで、すごい国なんだろうな、行ってみたいな、と思いました」

 その後、岡野さんは「大学で川魚の勉強をしたいと思い、受験したんですけれど、失敗してしまって。どうしようかな、と思っていたときに引っ張り出したのがこの本だった」。

 1988年、ワーキングホリデーのビザでバンクーバーを訪れ、すし屋で皿洗いの仕事をした。

「ある日、新聞を手にしたら、見出しに『ビッグランがくる』と、あったんです。(えっ、それって何?)と思って読んだら、ものすごい数のサケが川に上ってくるという話だった」

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写真家・星野道夫さんを訪ねて