撮影:京嶋良太
撮影:京嶋良太

■脳裏に焼きついた水の色

 今回の作品「流れる響きのなかで」は、狩猟にまつわる作品とほぼ並行して写したものだが、撮影にいたる経緯はまったく異なる。

「最初は『雨畑硯』の職人を撮りたくて、訪れたんですよ」

 雨畑硯は早川町、雨畑地区の特産品で、この地で採掘される良質な原石を削って700年以上も前から作り続けられてきた。

「いまはもう硯職人は一人になってしまったんですけれど、昔は100人くらいいたそうです」

 甲府市の実家から車で雨畑を訪れると、集落のすぐ目の前にはダム湖の水面が広がっていた。

「実は硯よりも何よりも、以前から雨畑ダムの水の色がとても印象に残っていたんです。違和感を覚えるような緑っぽい、くすんだような色。そこにたまっていた土砂の量もものすごかった」

 富士川水系の雨畑川に高さ約80メートルのアーチ式のダムが建設されたのは1967年。

「ところが、想定を超えた量の土砂が流れてきて、排出作業が追いつかなくなってしまったんです」

 村の人に話を聞くと、「昔は道路から10メートル以上、下にあった渓谷がいまはほとんど埋まっている。それはダムが原因だ」と言う人もいれば、「もともと土砂が多いところだから、仕方ない」と言う人もいた。

「撮影に通い、ここで暮らす人々の声がだんだんわかってくると、この状況も一つの自然と人間のつながりかな、と思うようになったんです」

撮影:京嶋良太
撮影:京嶋良太

■新聞報道でとけた風景の謎

 しかし、次第にこれはただ事ではないと感じるようになっていく。川床が浅いため、台風が通過するたびに雨畑川があふれ、濁流や土砂が付近の道路や民家、畑に流れ込んだ。

「新聞記事を読むと、大量の土砂に飲み込まれていく村の様子とか、その原因がダムにあることが分かってきた」

 そう説明すると、「静けさの先にあるもの」に収められた作品の一枚を指さし、「これはたぶん、不法投棄しているところ」と言う。木々に覆われた雨畑川の一角に何やら白い小山ができ、その上にダンプカーがとまっている。

「撮影したときはぜんぜん気づいていなかったんですけれど、メディアが取り上げていたコンクリートくずの不法投棄って、これのことかな、と」
 雨畑ダム周辺では増え続ける土砂だけでなく、産業廃棄物の不法投棄も大きな問題となっていた。

「それが富士川に流れ込み、海の生態系に影響を及ぼしているらしい。そういうことが発覚して、風景の見方が変わった。それまでぼくが見てきた景色の謎がとけたというか、風景の内面にあるものが見えてきた。それで、この作品をまとめたんです」

(文=アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】京嶋良太写真展「流れる響きのなかで」
コミュニケーションギャラリー ふげん社 7月29日~8月8日