幼いころから複雑な感情を抱いていた冬枯れの山 写真家・小林紀晴の原風景 (1/3) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

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幼いころから複雑な感情を抱いていた冬枯れの山 写真家・小林紀晴の原風景

撮影:小林紀晴

撮影:小林紀晴

 写真家・小林紀晴さんの作品展「深い沈黙」が7月20日から東京・新宿のニコンプラザ東京 THE GALLERYで開催される。小林さんに聞いた。

【小林紀晴さんの作品はこちら】

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「今回の写真は、M的なところがありますね」と、小林さんは真顔で言う。

「えっ? Mって、あのマゾヒズムのMですか?」と、思わず聞き返すと、「寒いときに、わざわざ寒いところに行きたくない」と言い、こんなエピソードを話してくれた。

 それは1980年代、小林さんが写真家となる前に会社員だったころのこと。世の中はバブル景気に沸いていた。

「会社に入ったばかりだったんですけれど、あの時代はスキーブームで、『スキーに行かないやつは人間じゃない』、みたいな空気があった。会社の若者も秋からスキーに行く計画を立てていて、『小林君も行こうよ』って、誘ってくれたんです。けれど、『寒いときに、わざわざ雪を見たくない。実家の2階からスキー場が見えるけれど、見たくない』って、言ったんです。正直に。そうしたら、シーンとしちゃって」

 それから小林青年がスキーに誘われることは二度となかった。

「でも、それはほんとうに思っていたことで、冬、寒いところに行きたくないというのが身に染みついている」
撮影:小林紀晴

撮影:小林紀晴

■原風景をめぐる複雑な思い

 では今回、なぜ雪山に向かったのか?

 すると、「やはり、原風景なので」と言い、複雑な心境を吐露する。

 小林さんは長野県・諏訪湖に近い茅野市で生まれ育った。そこは「冬になると、まるで違う場所のように感じられた」。

 冬の諏訪地方は太平洋側の気候のため、それほど雪は降らない。しかし、標高が1000メートルちかくもあり、降った雪はすぐに凍りついて根雪となる。

「色がなくなって、ほんとうにモノクロの世界」

 白い山の斜面に生える木々が遠目には黒い細い線となり、「ちょっと、いがぐり頭みたいに見えた」。

 そんな風景が自分の意思とは関係なく、視界に入った。

「それついて、誰かが何かを口にしたとか、記憶にない。大人もどちらかといえば、その景色を避けて通りたい、みたいな印象があった。ただ、好きではなかったけれど、それをずっと見ていると、ちょっとおだやかというか、落ち着くような気持ちにもなった。そんな不思議な感覚がずっと気になっていた」


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