「1600度! 技術者の緊張の一瞬」。1600度の溶鋼の成分確認をするために長いひしゃくですくい取る技術者。気の緩みが災害につながる緊張の一瞬。息をのみ撮影した(撮影:山崎エリナ)
「1600度! 技術者の緊張の一瞬」。1600度の溶鋼の成分確認をするために長いひしゃくですくい取る技術者。気の緩みが災害につながる緊張の一瞬。息をのみ撮影した(撮影:山崎エリナ)

「これ以上は近寄っちゃだめだよ、死んじゃうよ」

 山崎さんは鉄が生まれ、それが次第に姿を変え、建設資材になるまでを丹念にカメラで追っている。

 鉄が生まれ変わる前のスクラップヤードを写した写真は一見すると、ごみの山のよう。

「消火器とか、ガードレールの一部があったりして。『えっ、これが鉄製品になるんだ』と思って、すごく驚きました」

 鉄スクラップは大きな磁石で吸い付けられて巨大なバスケットに入れられ、電気炉まで運ばれる。そして、先ほど書いた「爆発シーン」へ。

 電信柱のような電極から「アーク(放電)」が飛び、鉄スクラップは超高温に熱せられ、光り輝く液体の鉄へと姿を変えていく。

「それをほんとうに至近距離から撮らせてもらったので、尋常じゃない暑さでしたね。焼けるんじゃないか、と感じるくらい。爆発すると、火花がばーっと散る。それでも撮っているという(笑)。『これ以上は近寄っちゃだめだよ、死んじゃうよ』と、工場長に言われて、グイっと引っ張られて」

 次の場面では成分を分析するため、溶けた鉄を技術者が柄の長いひしゃくですくい取っている。

 まるで噴火口の間近に立つようなシーンで、アメリカの写真家、ユージン・スミスが1950年代に溶鉱炉を撮影した「ピッツバーグ」シリーズを思い出す。

 電気炉で溶かした鉄は「LF炉」に移され、そこでスクラップに含まれていた不純物を取り除き、マンガンなどを添加して鉄としての強度を高める(この工程にはさまざまな製鉄のノウハウが詰まっているという)。

「取鍋・補修する技術者の真剣な姿・目が光る」。「取鍋」の耐用回数を伸ばすために、耐火れんがの損耗した部分に、耐火物を吹き付けて補修を行っているところ。1人の技術者の目、真剣に向き合う姿に魅了させられた(撮影:山崎エリナ)
「取鍋・補修する技術者の真剣な姿・目が光る」。「取鍋」の耐用回数を伸ばすために、耐火れんがの損耗した部分に、耐火物を吹き付けて補修を行っているところ。1人の技術者の目、真剣に向き合う姿に魅了させられた(撮影:山崎エリナ)

真っ黒になりながら巨大な機械をメンテナンス

 山崎さんは製鉄のメインの工程だけでなく、メンテナンスの作業をする人にもレンズを向ける。

 溶けた鉄を入れて運ぶ巨大な容器「取鍋」や、それを受ける皿「タンディッシュ」は空になるたびに人の手で清掃と補修作業が行われる。

「この火花は表面に付着した鉄などをきれいに取り除いているところなんです。手にした細いパイプから酸素を吹き付けて除去するので、火花がぴゅーっと飛ぶ」

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「目でつくる」が凝縮された工場