撮影:鵜川真由子
撮影:鵜川真由子

写真家・鵜川真由子さんの作品展「LAUNDROMAT」が1月29日から東京・六本木のFUJIFILM SQUARE 富士フイルムフォトサロン東京で開催される。鵜川さんに聞いた。

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 ニューヨーク。この街の名の響きは写真家にとって特別なものがある。古今東西の写真家たちがこの刺激な街に引きつけられ、数々の名作を生み出してきた。

 今回、鵜川さんはニューヨークを写した二つの写真展をほぼ同時に「A面とB面という感じで」開催する。

 A面の「WONDERLAUND」は、摩天楼に差し込む光と影が印象的な作品展。「街の愛おしさを、てくてくと歩きながら拾い集めた」、ザ・ニューヨークといった趣だ。

 そしてB面は、この記事で取り上げる「LAUNDROMAT」。なぜ、こちらの写真展に注目したかというと、撮影テーマが非常にユニーク、いや、マニアックだからだ。なんてったって、写っているのは「洗濯する人」。こんなニューヨークを写した写真家は見たことがない。

 ちなみに、「LAUNDROMAT」というのは、コインランドリーのことで、ニューヨークには日本のコンビニのように、いたるところにコインランドリーがあるという。鵜川さんはそれを片っ端から訪ねては撮影した。

撮影:鵜川真由子
撮影:鵜川真由子

「ちょっと洗濯をしたいんですが」。ブロックの角にある小さなコインランドリーとの出合い

 でも、なぜコインランドリーを? そう、たずねると、「長い話になるんですけど……」と、鵜川さんは恐縮する。

 きっかけは2015年、アパレルブランド「NEWYORKER」の企画展「NY Love Stories」の開催に際して、国境を超えてニューヨークに移り住んだ人々のラブストーリーを撮影した。

「友だち、恋人、夫婦。男どうし、女どうし。そういう愛のかたちを撮った」

 多様性と寛容性。人種のるつぼと形容されるニューヨークで真剣にレンズを向けると、ほかの写真家たちと同様、この街の人々の面白さに引き込まれた。「訪問者の視点ではあるけれど、もう少し深く撮りたい」と思い、その後もニューヨークに通うようになった。

撮影:鵜川真由子
撮影:鵜川真由子

 そこで注目したのが地下鉄沿線の風景。なかでも「7ライン」はニューヨークの象徴であるタイムズスクエア、グランドセントラルといったマンハッタンの中心部と東のクイーンズを結ぶ路線で、終点のフラッシング駅周辺には大きなチャイナタウンがある。

「そこで降りたら、うわーっと思って。ほんとうに中国人しかいない!みたいな。そんなわけで、最初は7番線が面白いなと思って、端からひと駅ずつ全部撮っていこうと思ったんです」

 本腰を入れて撮影するようになると滞在期間が長くなった。宿代を浮かすため、マンハッタンを離れ、クイーンズで民泊を利用するようになった。

 ある日のこと、「ちょっと洗濯をしたいんですが」と、仲良くなったチリ人の貸主にたずねると、「ここがいいよ」と、ブロックの角にある個人経営の小さなコインランドリーを教えてくれた。

「その店主がすごく面白くて。ミャンマー人のかわいらしいおじさんなんですけれど、『日本から来て、写真を撮り歩いているんです』と、言ったら、ノリノリで『ぼくは6回結婚してね』とか(笑)、いろいろ話をしてくれて。『ちょっと写真を撮らせてもらえませんか』と言って、写したのが始まりなんです」

 再び、ニューヨークを訪れた際、その写真をプレゼントすると、「チョー喜んでくれて。『撮れ、撮れ』と言って、その店にやってくるお客さんたちを紹介してくれたんです」。

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ランドリーからNYの個性がみえる