撮影:鵜川真由子
撮影:鵜川真由子

毎回、洗濯物をかばんに詰めてニューヨーク行きの飛行機に乗り込む

 コインランドリーを意識し始めると、この街ならではの洗濯事情が見えてきた。

「ニューヨークは基本的にみんな建物がすごく古くて、水まわりが弱いんです。家に洗濯機が置けないので、洗濯のたびにコインランドリーに通うのがふつう。そういうことを知って、ほかの店にも行ってみようと思ったんです」

 取材を始めてみると日本人とニューヨーカーの洗濯に対する意識の違いを実感した。

「私たちは洗濯というと、衣類を洗濯機にポーンと放り込んで、ピッと回すだけじゃないですか。でもニューヨークの人たちは生活のなかでの洗濯に対する優先順位が高いというか、洗濯をするために、わざわざ時間をつくって出かける。しかも、近くのコインランドリーだけじゃなくて、わざわざ遠くまで行って洗濯をする人もいる。そんな文化的な違いをとても感じましたね」

 鵜川さんはコインランドリーに、ただ写真を撮りに行くのではなく、自分も洗濯をしながらそこにやって来る人々に声をかけて写した。

「自分もそこに暮らすように過ごしていて、自然と出会った人たち、というのが撮りたかったんです」

 そんなわけで、ニューヨークに滞在中は毎日、洗濯物と洗剤を持って地下鉄に揺られ、あちこちのコインランドリーを訪ねては洗濯機を回し、撮影した。

「で、途中で気づいたんです。(あっ、ヤバい。これは服がダメになる)と思って(笑)。だから、途中からタオルとか家着みたいなものを日本から洗濯用に持っていくようになりました」

 私の頭に浮かんだのは、毎回、たくさんの洗濯物をかばんに詰めてニューヨーク行きの飛行機に乗り込む鵜川さんの姿。(こんな人、まずいないよなあ)。こみ上げる笑いをかみ殺しながら話を聞いた。

撮影:鵜川真由子
撮影:鵜川真由子

「同じランドリーでも受け入れられ方が違う。ニューヨークの個性が見えてきた」

「ニューヨークのコインランドリーはビルの一室のところが多いんです。特にマンハッタンの細い通りに面しているところは日の光が入らなくて、写すと暗い地下室みたいな感じになっちゃう。どうしたものかと思って、インターネットの地図で探し始めたんです。この店のこの窓だったら、この時間帯に行ったら光が入るだろうと」

 光の条件のよいコインランドリーを探し求めて、訪れる場所は地下鉄7ライン沿いから次第に広がっていった。

 すると、「同じランドリーでも場所によって受け入れられ方が違う。私が撮りたいと思っていたニューヨークの個性が見えてきた」。

「クイーンズは、エスニックの人たちのコミュニティー、小さな国みたいものの集合体みたいな地域。ランドリーには大きな家族がたくさんの洗濯物をかかえて、みんなでやって来るんです。一方、ブルックリンに行ったら、お客さんは白人しか来なくて」

撮影:鵜川真由子
撮影:鵜川真由子

 ちなみに、ブルックリンで撮影できたのは唯一、店の外で写した一枚だけで、すべての店で撮影を断られてしまったという。

「中で撮ろうとしたら、『ダメって!』って。経営者が中国人の場合が多いんですけれど、商売に厳しくて。『9割のお客さんはOKって言うけれど、1割はNOって言うからダメっ』と、撮影を断られることがけっこうありました。逆にラテン系の人がやっている店はゆるくて、何にも言われなかったですね」

 店だけでなく、客から撮影を断られることもふつうにあった(特に黒人からは断られたという)。

「なぜかというと、要は着飾ってくる場所じゃないから。本当にみんなラフなかっこうで、女の人もすっぴんで来るようなところ。だから、『そんなとこやめてよ』みたいな。でも、私はそれを写したかった」

 作品に写っているのは、まさにプラベートまる出しの人々。いかついお兄さんがパンツをたたみ、その向こうには女性の下着がぶら下がっているような場所だ。

「店に入るときには勇気がいった。すごくドキドキしました」

「洗濯」という身近な行為を通して見えてきたニューヨークの人々の「素の生活」。それはこれまで表現されてきたものとはひと味違うニューヨークの姿でもある。

                  (文・アサヒカメラ 米倉昭仁)

【MEMO】
鵜川真由子写真展「LAUNDROMAT」
FUJIFILM SQUARE 富士フイルムフォトサロン東京 1月29日~2月11日

「WONDERLAUND」
Nine Gallery 2月2日~2月7日

両方の写真展会場では写真集『WONDERLAUND』(私家版、200×220ミリ、144ページ、4200円・税別)も販売する。Amazonまたは鵜川さんのホームページでも購入できる。