周囲には民家も何も見られない小和田駅。発売中の『旅と鉄道』2019年9月号では、今回紹介した2駅を含む6秘境駅のドローン撮影を特集(撮影/林 明輝)
周囲には民家も何も見られない小和田駅。発売中の『旅と鉄道』2019年9月号では、今回紹介した2駅を含む6秘境駅のドローン撮影を特集(撮影/林 明輝)

 JR飯田線(豊橋~辰野間、195.7キロメートル)は“秘境駅の宝庫”と呼ばれ、秘境駅訪問家・牛山隆信さんによる「秘境駅ランキング」(2019年度版)では、上位25位以内に線内6駅がランクインしている。隔月誌『旅と鉄道』(発行・天夢人)は発売中の2019年9月号巻頭グラビアで、風景写真家&ドローンパイロットの林明輝(りん・めいき)さんによる、6秘境駅すべての空撮を行った。途中下車したホームからではうかがい知れない、これまでになかった視点からの秘境駅の意外ともいえる実像は、注目すべきものだった。

【写真】「秘境駅」田本駅の上に広がる山あいの集落

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■「秘境駅ランキング」25位以内に6駅がランクイン

 日本の絶景を求めて年間200日以上、各地を旅しているという林さんが秘境駅の空撮に挑んだのは、飯田線と並行する天竜川の下流から上流に向かって、小和田(こわだ・ランキング3位)、中井侍(なかいさむらい・13位)、為栗(してぐり・16位)、田本(たもと・6位)、金野(きんの・7位)、千代(ちよ・25位)の計6駅だった。

 小和田は静岡県浜松市天竜区の駅だが、すぐ北東側に見下ろせる天竜川をせき止めた佐久間ダム湖の底で愛知県豊根(とよね)村・長野県泰阜(やすおか)村の3県境が接し、ホームには各県の方角を示す標柱も立っている。けれどドローンによる視点で見ると、周囲に広がっているのは険しい山々を覆い尽くす木々の深緑色と、わずかに写る湖面の淡緑色ばかり。県境らしい雰囲気はもとより、駅施設と一軒の廃屋の屋根以外に人工物は見いだせない。上空からは飯田線がよぎる斜面の急峻(きゅうしゅん)さが、際立って見える。その中腹を切り開いた平坦部にある駅は秘境と呼ぶにふさわしい、大自然のなかにあってはあまりに細く頼りない存在だった。

牛山隆信さんの秘境駅ランキングでは3位となる飯田線小和田駅(提供/『旅と鉄道』編集部)
牛山隆信さんの秘境駅ランキングでは3位となる飯田線小和田駅(提供/『旅と鉄道』編集部)

 小和田駅は1993(平成5)年の「ご成婚ブーム」で、現皇后陛下・雅子さまの旧姓・小和田(おわだ)と同じ字面から、84(昭和59)年に無人化されながら特別に発行された入場券を求めるファンなどでにぎわいを見せた。当時の所在自治体だった旧水窪(みさくぼ)町主催により、小和田で結婚式を挙げたペアの写真がいまも飾られている駅舎から、天竜川のほとりに向かって急な坂道を下ると、「愛」と刻まれたベンチや製茶工場だった廃屋が残る。ドローンから見えた赤さびた屋根は、工場跡にあたる。近くに打ち捨てられたオート三輪「ダイハツミゼット」の廃車体と、天竜川に流れ込む支流に架かっていた高瀬橋の崩落したコンクリート塊のみが、駅周辺の数少ない“名所”。高瀬橋は流れを挟んで静岡県側と長野県側それぞれに立地していた、遠州高瀬と信州高瀬両集落を結ぶ小さな吊り橋だった。

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すさまじい立地の田本駅は秘境駅ではなかった