浮き沈みが激しい音楽業界にいると、どうしても数字を意識しなければいけない瞬間が訪れる。新曲を出せば初動売上が算出され、チャートで順位を付けられる。ライブを企画すれば動員数、キャパシティが一つの評価軸としてのしかかる。“ビジネス”である以上、締切に追われることもある。収録曲「美しい鳥」は、そんな数字に翻弄される大人たちの姿を描いている。

 無論、高橋も例外ではない。数字にこだわったことは「めちゃくちゃある」とこぼす。だが、それでも自由なスタンスで楽曲制作に向き合えているのは、幼い頃に読んだ小説『星の王子さま』の影響が大きい。

「少年(星の王子さま)が仕事にこだわる人や酒浸りの人に会うシーンで、大人みたいなことを言ってしまって後悔する描写があって、そこが大好き。この本を読んでいると『変な大人にならなくてすむな』と立ち返ることができる大切な本です。おかげで、僕は数字を意識するたび『ヤバ、ダメな大人になる途中だった』と立ち止まれる」

高橋優(撮影/小山幸佑・写真部、ヘアメイク/内山多加子・Commune、スタイリスト/横田勝広・YKP、衣装/カットソーとパンツは原宿VILLAGE、ブルゾンはROCK THERAPY、その他スタイリスト私物)
高橋優(撮影/小山幸佑・写真部、ヘアメイク/内山多加子・Commune、スタイリスト/横田勝広・YKP、衣装/カットソーとパンツは原宿VILLAGE、ブルゾンはROCK THERAPY、その他スタイリスト私物)

 とはいえ、仕事をするうえで、どうしても数字に迫られることはある。

「そんな時は自分を10個くらいに分けて、1個の自分が考えればいいやって。もちろん、何かが右肩上がりだって言われたら10個全部で喜びますよ。でも、『何万枚売らなきゃ』と考えすぎて、僕が委縮してしまっては面白いものができない」

 アルバム制作中は部屋にこもり、極力、人と会わないようにもした。食事はコンビニで済ます日々。気づけば顔がむくんでパンパンに膨れ上がった。

「何かしながらの曲作りと没頭した時の曲作りって、ちょっと質が違うんです。嫌な気持ちの曲を作る時はどっぷり怨念に満ちた日にしてしまう。部屋に黒いモヤが充満しているんじゃないかと思うほど。でも、めちゃくちゃ楽しかった」

 音楽に対してストイックであり続ける半面、「音楽は単なるBGM」とも捉えていた。音楽に力なんて求めてはいけない、と。なぜか。

「たとえるなら、甲子園でマウンドに立つのは選手で、アルプススタンドの音楽は選手の頑張りをさらに盛り上げるためのもの。音楽家がボールを投げることはないんです。だから、僕は音楽って通勤途中のサラリーマンや試験を受けに行く人の雰囲気作りをすることが役目だと思っていました」

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変化が生じた、大倉とのラジオ